「書類やメールなど、文章を書くのが苦手……」
「スライドづくりにいつも時間がかかる。もっと手早くできるようになりたい」
このような悩みをもつ人は、日々の業務に “下書き” を取り入れてみてはいかがでしょうか? できるビジネスパーソンのなかには、下書きを習慣化している人も多いようです。具体的な実践例とあわせてご覧ください。
1.「PowerPointを立ち上げる前」に下書きする
文章だけでなく図やグラフなどを入れることの多いスライド作成には、手間がかかりがち。少しでも早くスライドに落とし込まないと……と焦る気持ちもあるかもしれませんが、いきなりPowerPointなどのスライド作成ツールを立ち上げるのはおすすめできません。
PowerPointは、“スライドの下書き” を手書きで完成させてから立ち上げましょう。下書きをしないままスライドをつくり始めると、そのスライドの本来の目的を果たせない可能性があるからです。
「パワポを開くのは、5分でいいので、ノートなどに下書きを完成させたあとにしましょう」と語るのは、ビジネス研修やコーチングを行なう株式会社ルバート代表取締役の松上純一郎氏。スライド作成に入る前に「この資料を作ることで、『誰が、誰に、どういうアクションをしてほしいのか』という目的を明確に」すべきだと主張します。(カギカッコ内引用元:プレジデントオンライン|通るパワポ資料は「紙に下書き」が9割だ)
とりあえずスライドをつくり始めたけれど、情報が増えすぎたり、伝えたいポイントがぶれたりしてしまった経験がある人もいるでしょう。それは、目的をはっきりさせたうえでスライド作成に入っていなかったからなのですね。
また、時間のロスをなくすためにも、下書きは重要です。松上氏は「資料を作ってから上司や同僚と共有する場合、修正が発生したときに膨大な手直しが発生してしまう」とも指摘。(カギカッコ内引用元:同上)
たしかに、PowerPointで資料を丁寧につくりこんでから修正を指示されると、それまでの時間が無駄になってしまいます。図やグラフの修正は特に手間がかかりますよね。ですが、紙に下書きをした状態で関係者に共有すれば、たとえ修正の指示が入ってもペンでササッと直すだけ。そのあとでPowerPointに落とし込めば、のちのち面倒な修正をすることを防げます。
PowerPointを立ち上げる前に「手書き」で下書きしてみた
では筆者も、スライドの下書きづくりに挑戦してみます。例として「生成AIを業務に活用した事例について、リサーチ結果を上司に報告する」ことを目的に、スライドの下書きをつくることに。
下書きの方法は、デロイトトーマツコンサルティング合同会社ディレクターの木部智之氏が提案しているものを参考にしました。
まずは、「手書きで先にメッセージのタイトルを書き、ストーリー展開を考え」る作業です。スライド1枚につき、紙1枚を使います。「使用するのはA4のコピー用紙で十分」とのこと。筆者は手元にあったルーズリーフを使いました。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|資料作成がうまい人は「手書き8割」だった)
実際にタイトルを書いた紙面の一部が、以下です。
続いて、「1枚1枚に入れるメッセージ、1枚のチャートの中の図・表・コメントの配置などを詳細に」書く作業です。木部氏によると「ポイントは、必ず『原寸』で作成する」ことだそう。(カギカッコ内引用元:同上)
たしかに、原寸でつくればPowerPointに落とし込みやすそうですね。
実際に下書きをすると、以下のようになりました。
実際に紙に下書きしてみると、実物を並べてスライドの流れを精査できるのがメリットだと感じました。パソコンでスライドを見るよりも全体像がつかみやすいので、「ここを入れ替えたほうが伝わりやすい」「このスライドは2枚に分けよう」などの気づきも得られました。
スライドの順番や各ページに盛り込む内容を先に確定させておけば、PowerPoint上での作業がかなりスムーズになりますよ。ぜひお試しください。
2.「話す前」に下書きする
「話をまとめるのが苦手で、ついダラダラと話してしまう」
「人前で話すと緊張して、途中で何を話しているのか分からなくなる」
こうした “伝える” ことにまつわる悩みがあるなら、ぜひ「話す前」に下書きをする習慣をつけませんか?
「伝える前に、思考整理すればOK」だと話すのは、ビジネスパーソンの学習を支援する「1枚」ワークス 株式会社代表取締役の浅田すぐる氏。同氏は、「思考整理」とは以下ふたつのプロセスで成り立つものであると定義づけています。
①考えるベースとなる「情報を整理する」
②自分なりに「考えをまとめる」
(カギカッコ内および枠内引用元:プレジデントオンライン|だからトヨタ社員はすべてを「紙1枚」にまとめられる…ダラダラ話す癖が一瞬で治る「4×4の枠」の使い方)
つまり、伝えるべき “情報” を集めて整理したあとで、順番や言い回しなどの “伝え方” を決めればいいのです。
浅田氏いわく、この思考整理は「『紙1枚』書くだけでカンタンにできる」とのこと。(カギカッコ内引用元:同上)
たった1枚で話す内容を下書きできるなら、手軽に実践できそうです。
話す前に「紙1枚」で下書きしてみた
“伝える” ことについては、筆者にも悩みがあります。電話で取材依頼をする際に、緊張して話がまとまらなくなってしまうのです。そこで、浅田氏がすすめる紙1枚での思考整理の方法を使い、電話口で話す内容を下書きしてみることにしました。
使うものは、「最低でもA5サイズ以上」の紙と「緑・青・赤3色のカラーペン」。カラーペンを使う理由は「視覚的に思考を整理しやすくなるから」だそうです。
まずは、緑のペンで「4×4の枠」をつくり、左上の第1フレームに日付とテーマを記入します。
(カギカッコ内引用元:同上)
青ペンに持ち替えたら、「思考整理のうち『①情報を整理する』プロセス」です。
2分を目安に、「テーマに関するキーワードを、思いつくままに埋め」ます。「半分以上(8個以上)記入できればOKなので、全部埋めることよりも時間を優先」するといいのだそう。
(カギカッコ内引用元:同上)
最後は、「②考えをまとめる」プロセスです。
やり方は、「伝える順番に赤ペンでマルをつけ、矢印でつないでいくだけ」。「何か別の言葉が浮かんできたり、端的なフレーズにまとめ直せたり」する場合は「赤ペンで余白スペースに記入」します。
(カギカッコ内引用元:同上)
完成した紙面がこちら。
思考整理をした紙を参考にしながら、実際に電話で取材依頼をしてみました。その結果、「次に何を言おうか」「言い忘れたことはないか」など考える必要がなく、スムーズに話すことができましたよ。
先方から何も質問は出ませんでしたので、必要事項をしっかりと伝えきることができたのだと思います。相手が誰であっても取材依頼で話すことはいつも同じなので、この紙はすぐに見返せる場所に保管しておくことにしました。
筆者は電話で話す内容を考えましたが、自己紹介やスピーチなどにも応用できそうです。口頭で伝える前に、下書きをしてみてはいかがでしょうか。
3.「自分で書く前」にAIを活用して下書きする
メールや企画書など、ビジネスシーンでは文章を書く機会が多いですよね。ところが、何を書くべきか迷ったり、表現に自信がなかったりして、時間がかかる人もいるでしょう。
そんな人におすすめなのが「ChatGPT」、つまりAIを活用した下書きです。書くために必要な情報さえ用意すれば、文章化するのはAIの仕事。あなたはAIがつくった文章を手直しするだけでいいのです。
『ChatGPT最強の仕事術』著者の池田朋弘氏は、AIを文章作成に利用するメリットについて、
自分でゼロから『どんな文章を書こうかな』と考えるのと比べると、大まかな案を作ってもらえるので圧倒的にラク
だと述べています。(引用元:池田朋弘 (2023),『ChatGPT最強の仕事術』, フォレスト出版. ※太字は編集部にて施した)
文章を書くことに苦手意識があるなら、試してみない手はないですね。
メールを書く前に「AIで」下書きしてみた
ではここから、メールの下書きを例に挙げて詳しくご説明しましょう。
ChatGPTでは、プロンプトと呼ばれる指示を出し、AIからの答えを受け取ります。たとえば、次のようなプロンプトを打ち込んで、目的や要件を指定します。
今回は池田氏にならい、「マークダウン記法」でプロンプトを入力しました。マークダウン記法では、「#」で見出しをつけ、AIが「文章の構造を把握しやす」いようにするそう。(カギカッコ内引用元:同上)
このプロンプトに対する、AIからの返答は次のとおりです。
箇条書きの指示に対して、きちんとしたビジネスメールの文章が返ってきました。この文章をもとに、改行を入れたり日程を箇条書きにしたりして整えることで、先方に送信できそうですね。ゼロから文章を考えて打つよりも、かなり効率的なのではないでしょうか。
とはいえ、AIの文章はあくまで下書きであり、チェックが必要だということは忘れずに。池田氏も、内容の抜け漏れや不適切な表現が含まれる場合もあるため「チェック・修正は必須」だと強調しています。(カギカッコ内引用元:同上)
AIに下書きをしてもらったら、必ず手直しする習慣をつけておきましょう。
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一見、手間にも思える下書きですが、結果的に仕事の効率化につながるケースも多いのです。もっとスマートに仕事をこなしたいという人は、ぜひ取り入れてみてくださいね。
プレジデントオンライン|通るパワポ資料は「紙に下書き」が9割だ
東洋経済オンライン|資料作成がうまい人は「手書き8割」だった
プレジデントオンライン|だからトヨタ社員はすべてを「紙1枚」にまとめられる…ダラダラ話す癖が一瞬で治る「4×4の枠」の使い方
池田朋弘 (2023),『ChatGPT最強の仕事術』, フォレスト出版.
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。