人間関係のトラブル解決には「○○しない」ことが効果的。意地悪な人ともスムーズに働くコツ

相談する人

仕事の悩みのひとつとして、職場での人間関係を挙げる方は多いのではないのでしょうか。

雑誌『プレジデント 2024年3月1日号』にこんな調査結果が掲載されています。1,080名を対象に「あなたの悩みの種は誰か?」を尋ねたところ、「同僚」と答えた人が最も多く、次に多かったのが「上司」。この上位ふたつで全体の約40%を占めたそうです。(参照:「《緊急1000人調査》あなたの悩みの種は誰か?」, プレジデント, 2024年3/1号, pp.42-43.)

人間関係の悩みにはさまざまなものがありますが、今回の記事で注目したいのは「悪意のある人」との関わり方です。あなたの職場には、

「まわりからの評価が下がるのに、なぜこの人は悪意があることを言うのだろうか?」
「結局自分が損するのに、なぜこの人は意地悪な行動をしてくるのだろうか?」

と感じるような人がいないでしょうか? そんな人との接し方で悩んでいる方に、悪意をもつ人への対処法をご紹介します。

部下に仕事を教える場面、同僚に仕事を依頼する場面、先輩社員が新入社員をフォローする場面など、さまざまな場面で業務を円滑に進めるのに役立ちますよ。

【この記事はこんな方におすすめ】

  • メンバーのマネジメントに悩んでいるマネージャーの方
  • 企業の人事担当者で、社内トラブルの仲裁をしなければならない方
  • 職場の同僚や上司との人間関係に悩んでいる方
  • 会社の人間関係を円滑にしたい方

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。

(参考)

「《緊急1000人調査》あなたの悩みの種は誰か?」, プレジデント, 2024年3/1号, pp.42-43.
サイモン・マッカーシー=ジョーンズ著, プレシ南日子訳(2023),『悪意の科学 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』, インターシフト.
「 「同僚・部下との人間関係の悩み」を手放す方法 「人は人、自分は自分」前提に最終的には「関わらない」が正解」」, プレジデント, 2024年3/1号, pp.48-49.

人間は誰もが「悪意」をもちうる

同僚を引きずりおろそうとしたり、他人の手柄を横取りしたり――そんな意地悪なことをするのは、ごく一部の人だけではないか? と思うかもしれません。ですがじつは、悪意は誰もがもちうるものです。心理学的な視点から説明しましょう。

「悪意のある行動」の正体とは

臨床心理学と神経心理学の専門家であるサイモン・マッカーシー=ジョーンズ氏は、著書『悪意の科学 意地悪な行動はなぜ進化し、社会を動かしているのか』のなかで、人間は以下4つの行動をとると述べています。

  • 協力行動:自分と他者の双方に利益もたらす行動
  • 利己的行動:自分だけが利益を得るように行動すること
  • 利他的行動:自分がコストを負担して他者に利益を与える行動
  • 悪意のある行動:自己と他者の双方に害を及ぼす行動

(サイモン・マッカーシー=ジョーンズ著, プレシ南日子訳(2023),『悪意の科学 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』, インターシフト. よりまとめた)

「コスト」と「利益」に違いがあることがわかりますね。このうち、自分だけが利益を得ようとする利己的行動は、悪意のある行動とほぼ同じように感じられるかもしれません。ですが、悪意のある行動とは、自分と他人の双方に不利益が生じる行動のことを指します。

それでは、悪意のある行動とは具体的にどのようなものなのか、職場でのトラブルの例で見てみましょう。

職場で生じる「悪意のある行動」の例

こちらの事例をお読みください。登場人物のAさんとBさんは、同じ会社に勤める、もともとはとても良好な関係にあったふたりです。

AさんとBさんが働く会社では、コロナ禍ではフルリモート勤務が導入されていましたが、感染状況の鎮静化にともない、勤務形態が「週3日出社、週2日リモート」となりました。

Aさんは「月・水・金が出社、火・木がリモート」、Bさんは「火・水・木が出社、月・金がリモート」というかたちで勤務しています。出社日数とリモートワークの日数は両者ともまったく同じです。

しかし、しばらくするとふたりは、出社とリモートワークの曜日をめぐって対立してしまいます。Aさんが上司にこう相談したのです。

「Bさんは休み明けの出勤日がリモートワークなので、朝は時間的なゆとりがあります。しかも休み前の金曜日はリモートですぐに退勤できるから、ゆっくりできてずるいと思います。これでは不公平です」

そしてAさんは、リモートワーク体制の不公平さだけでなく、「Bさんはリモートワークの日に勤務を怠っている」「Bさんからの社内チャットの返信が遅い」など、真偽がわからないことまで訴えるようになりました。

これを聞いて、AさんとBさんの仲がよいと思っていた上司は大変驚きました。困った上司は、人事部に相談します。結果、どうなったかというと――AさんもBさんもリモートワークがなくなり、週5日完全出社となりました。

その後、AさんとBさんの仲が険悪になったのは言うまでもありません。

(事例は編集部にて作成)

みなさんはこの事例を読んで、どう感じたでしょうか?

たしかにBさんは、週明けの月曜日の朝にゆとりがあり、金曜日は仕事を終えてそのまま土日に向けてゆっくりできるかもしれません。Aさんが不満に思うのも、一理ありますね。だからといって、Bさんが勤務を怠っているという確証もないのに、「Bさんの勤務状況が悪い」などと訴えていいはずがありません。そんなことをしたら、「リモートワークという制度自体がなくなる可能性もある」と、Aさんも冷静に考えればわかったはずです。

これが悪意の結果です。

人は、他人だけではなく自分が損してでも悪意のある行動をとってしまうのです。そして、このような悪意のある行動をとることは、決して他人事ではありません。

自分が損してでも「悪意を優先」させることがある

たとえ自分が損してでも悪意や意地悪を優先させてしまう場合があることは、心理学の領域では有名な「最後通牒ゲーム」でも証明されています。

最後通牒ゲームのルールはいたってシンプルです。

ふたりを別々の部屋に入れます。ゲームの主催者から100ドル渡された人は、その100ドルのなかからもう一方の人に渡す金額を決め、その額を相手にオファーします。

金額をオファーされた人は、そのオファーを受け入れるか、拒否することができます。受け入れる場合は、そのオファー金額を受け取れますし、オファーした側も100ドルのなかからオファー金額を引いたぶんを受け取ることができます。

ただし、オファーが拒否された場合は、双方ともお金を受け取ることはできません。

(『悪意の科学 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』よりまとめた)

オファーが成立すれば、ふたりともノーリスクで一定の額を受け取れるわけですね。しかし、この実験の結果は驚くべきものになります。

なんと、タダでお金がもらえるにもかかわらず、オファーされた金額が20ドル以下の場合、約半数の人がオファーを拒否したのです。

相手から100ドル中の20ドルをオファーされたとき、それを受け入れればノーリスクで20ドルが手に入ります。それなのに「相手のほうが80ドルもらえるのならば、双方もらえないほうがいい」と考える人がじつに多いのです。

論理的に考えて、相手からのオファー金額が0ドルでない限り、お金を受け取ったほうが得です。それでも悪意をもって、自分も相手も損する行動をとる人がいるのは驚きですよね。

ここではアメリカで行なわれた最後通牒ゲームを例に挙げましたが、上記の傾向はアメリカに限ったものはありません。世界中のさまざまな国、文化圏でも悪意が確認されています。

言い争う人々

相手からの「悪意」に対処する方法

上記でお伝えしたように、悪意は誰でも抱くものです。ということはつまり、誰もが悪意の対象となりうるということでもあります。では、相手から悪意を向けられたときはどう対処すればよいのでしょうか? 

ここからは、実際の業務に役立つ悪意への対処法をご紹介しましょう。社内のコミュニケーション研修のテーマとしてもおすすめです。

認知反射で「感情をくつがえす」

前出のサイモン・マッカーシー=ジョーンズ氏は、自分の感情を見直して合理的に考えることをすすめています。つまり、自分の本能的な感情を切り離し、物事を冷静に考えるということですね。

この、本能的な反応をくつがえして合理的に考える能力を測る尺度として、「認知反射」があります。以下の問題に答えてみてください。

2人の看護士が2人の患者の血圧を測るのに2分かかる場合、200人の看護士が200人の患者の血圧を測るのにかかる時間は何分だろうか?

(引用元:前出の『悪意の科学 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』)

答えは出ましたでしょうか?

正解は「2分」です。直感的に「1分」と答えた人も多かったのではないでしょうか?

こういった認知反射を測る問題に正答できる人は、考え方のバイアスを理性でくつがえす力があり、認知反射レベルが高いとされるそう。

しかし間違えた方もご安心ください。

直感的に間違えたとしても、よく考えれば正解はおわかりになったはず。つまり、時間をかければ直感(=感情)をくつがえして合理的に考えることができるということです。

実際の業務で、チームや社内メンバーの悪意と対峙するときのポイントは、この直感(=感情)部分を、メンバー自身の理性の力でくつがえしてもらうことです。

そのためには、まず傾聴の姿勢を見せ、悪意をもっているメンバーの考え方を、時間をかけてときほぐしていく必要があります。傾聴する際は、こちらから反射的な感情は出さず、できるだけ冷静に話を聞きましょう。

話を聞いたうえで、メンバー自身が感情を切り分けられるように導いてください。「そう感じたのなぜですか?」「どうしてそういった感情になったのですか」などの問いかけが効果的です。多くの人は時間をかければ合理的に考えられるので、自分自身の感情を言語化してもらうのがおすすめです。

悪意には「反応しない」

政策シンクタンクなどで働いた経験を活かし、実用的な仏教の「本質」を伝える活動をしている僧侶の草薙龍瞬氏は、感情で判断するのではなく、できるだけ感情を切り分け、反応しないようすすめています。

相手について見るべきは、「言葉」と「行動」、その奥にある「思い」です。感情で反応するのではなく、これら3つを理解しようと心がけてください。

(引用元:「 「同僚・部下との人間関係の悩み」を手放す方法 「人は人、自分は自分」前提に最終的には「関わらない」が正解」」, プレジデント, 2024年3/1号, pp.48-49.)

あくまでも聞き手は冷静に話を受け入れ、話し手が自身の悪意を見直して合理的に考えられるよう促すのです。

これは、あなたがマネージャーの立場なら、社員との1on1などでもすぐに使えるテクニックです。

研修担当者の方であれば、このテクニックを中堅社員向け研修で取り上げるのもよいでしょう。中堅社員の多くが、職場での他人の悪意を目にしたことがあるはず。彼らにとって興味深い、有意義な研修になるはずです。

人間関係のトラブル解決に向け話し合う人々

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この記事では、職場で生じる悪意の対処方法について見てきました。

事例として紹介したリモートワーク制度に関するトラブルに、みなさんであればどう対応するでしょうか?

悪意は誰もがもってしまうものだという前提をふまえて、できるだけ感情を切り離して合理的に考えることがポイントです。職場の人間関係を円滑にするためのヒントとして、ぜひ参考にしてみてくださいね。

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