マネージャーの重要な仕事のひとつが “メンバーに業務を任せること”。適切なメンバーに適切なタイミングでタスクを振ることで、チーム全体の成果を最大化することができます。
一方で、メンバーに仕事を任せることを難しく感じている方が多いのも現実。仕事のやり方や注意点を伝えるのは時間がかかるもの。「自分でやったほうが早い」と、つい自己完結させてしまうケースもあるでしょう。
そこで今回は、メンバーへの仕事の任せ方について具体的に迫ります。
【この記事はこんな方におすすめ】
- 管理職(マネージャー)でメンバーに仕事を任せるのが苦手な方
- 新しく管理職になり、具体的な仕事の進め方を知りたい方
- プレイングマネージャーをしていて、なかなか業務量が減らない方
- チームメンバーに適切に業務を依頼し、チームとしてより成果を挙げたい方
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
ローレン・B・ベルカー(2023),『マネジャーの全仕事 いつの時代も変わらない「人の上に立つ人」の常識』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
山本渉(2023),『任せるコツ』, すばる舎.
マネジメントとリーダーシップの違いとは?
仕事を任せる具体的な方法の前に、まずはマネジメントとリーダーシップとの違いについて確認しましょう。同じような意味で使われることのある言葉ですが、その違いを知ることで、仕事の任せ方への理解がより深まります。
アメリカの大手保険会社で役員を長年務めたローレン・B・ベルカー氏は、『マネジャーの全仕事 いつの時代も変わらない「人の上に立つ人」の常識』のなかで、マネジメントとリーダーシップの違いを下記のように述べています。
マネジメントは指揮・統制であり、リーダーシップは人にやる気を出させることだ。
(引用元:ローレン・B・ベルカー(2023),『マネジャーの全仕事 いつの時代も変わらない「人の上に立つ人」の常識』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.)
ベルカー氏によると、マネジメントとリーダーシップのあいだには
- マネジメント:
トップダウンの指示、指示や命令が多い、やり方はマネージャーが決める - リーダーシップ:
ボトムアップで参加型、メンバーの力を引き出す、目標を決めてやり方はメンバーに考えさせる
という違いがあるとのこと。(参考:同上よりまとめた)
上記のマネジメントの特徴からは、部下に仕事の依頼をする際、プロセスを具体的に細かく指定し、そのとおりに仕事を遂行することを求めるようなマネージャー像がイメージできるでしょう。
一方リーダーシップの特徴からは、メンバーが自ら考えて仕事を進めることを大切にするマネージャー像が浮かんできます。
このように見ると、マネージャーはどちらかの要素だけをもっていればよいのではなく、マネジメントの力もリーダーシップの力ももつべきであることがわかりますね。ではなぜ、メンバーに仕事を指示するだけでなく、仕事を任せることが必要なのでしょうか?
マネージャーはなぜ “人に仕事を任せる” べきなのか
マネージャーがメンバーに仕事を任せると、以下のメリットが期待できます。
自分のタスクに時間を割けるようにするため
マネージャーの仕事はじつにさまざま。部門の目標達成に向けた計画策定、施策の実行、実行管理、メンバーとのコミュニケーション、経営層など自分より上の役職者とのコミュニケーション、メンバー育成、進捗管理、評価……枚挙にいとまがありませんよね。
業務が多岐にわたるだけでなく、マネージャーの業務は難易度が高いもの。そうした仕事に取り組むなかで、メンバーひとりひとりの仕事の進め方を細部まで把握し、指示を出すのは、現実的に難しいでしょう。
ゴールだけを設定し、プロセスはメンバーに任せることで、マネージャーはマネージャーとしての業務に集中できます。
マネージャーの限界をチームの限界にしないため
プレイヤーとして優秀だった人がマネージャーになると、「自分がやったほうがうまくいく」と業務を抱えがちになるもの。
しかしその方法だと、マネージャーであるあなた自身のキャパシティーが、チームの成果の限界になる可能性が高くなります。
上で触れたとおり、マネージャーは業務が多岐に渡り、自身の仕事だけで多くのリソースがとられます。チームを構成するひとりのメンバーとして、これまで通りの成果を挙げ続けるには、働く時間を増やすしかありません。
とはいえ、実際は働く時間を大幅に増やすことはできないので、中途半端な状態になるタスクが出てきてしまうでしょう。その結果、タスクが終わらないまま期日を迎えることになるのです。
チームで動くメリットのひとつは、個人で働くときの何倍ものキャパシティーをもてること。メンバーに仕事を任せ、それぞれのリソースを適切に使えば、チームとして最大限の成果を出せます。
メンバーの強みを引き出すため
マネージャーは、チームでの成果が求められるポジションです。
例として野球チームを想像してみてください。もし監督が「このプレイヤーが優秀ではないから、ここの戦力が弱いから、このチームでは結果が出せません」と言ったらどうでしょうか。野球チームのオーナーは、「いまの戦力でできるだけ結果を出すのが、あなたの仕事ですよ」と思いますよね。
マネージャーは、いまいるメンバーの強みを把握し、それを最大化して結果を出す必要があります。メンバーは、マネージャーに細かく指示された作業をするだけでは、自らの強みを発揮できません。メンバーに裁量をもたせ、彼らの長所を引き出しましょう。
以上が、マネージャーがメンバーに仕事を任せることで期待できるメリットです。仕事を任せることの大切さを理解していただけたのではないでしょうか。
メンバーに仕事を任せるコツ
ここからは、具体的な仕事の任せ方をお伝えしましょう。
大手マーケティング会社で統括ディレクターを務める山本渉氏が著した『任せるコツ』によると、人に仕事を任せるときは、初めに下記の3つのポイントを押さえるといいそうです。
- 意欲の創出
- 目的の明確化
- 欲求充足
(参考:山本渉(2023),『任せるコツ』, すばる舎. よりまとめた)
これらのポイントを押さえた、メンバーに仕事を任せる際の伝え方のよい例がこちらです。
先日はすばらしい報告書をありがとうございました。おかげでチームミーティングが非常にスムーズに進みました。
次の大きなプレゼンテーションに向けて、また資料作成を依頼できますか? 今回のプロジェクトの成功はチームにとって非常に重要で、今期の目標の達成に関わってきます。
前に大きなプレゼンテーションに同席したいとおっしゃっていましたよね? 次のプレゼン、私と同席してもらえますか? あなたの力を借りてプレゼンを成功させたいと思っています。
意欲をもたせる
山本氏は、仕事を受ける側はすべての仕事を面倒だと思っている、という前提からスタートすることが大切だと述べています。
仕事を任せる際は、相手を「やってみよう」という気にさせる必要があります。そこでポイントとなるのが、
- 感謝すること
- ほめること
- 自分しかできない特別感をもたせること
の3つなのだとか。
(参考元:同上よりまとめた)
先ほどの例文でいえば下記の箇所が該当します。
先日はすばらしい報告書をありがとうございました。そのおかげでチームミーティングが非常にスムーズに進みました。
目的をはっきりと伝える
仕事を依頼する際は、依頼内容の目的をはっきりと伝えることが欠かせません。山本氏はこう説明しています。
目的がはっきりすると、その依頼の全体像が見えて、ただの「作業」に意義と価値が足されて、「仕事」になります。
(引用元:同上)
単に「これをやってほしい」と頼むのではなく、どういった背景があってそれを依頼するのかを説明する必要があるということですね。
先ほどの例文でいえば下記の箇所になります。
今回のプロジェクトの成功はチームにとって非常に重要で、今期の目標の達成に関わってきます。
チームにとってそのプロジェクトの重要性を説明しています。
相手の欲求を満たす
マネージャーは自分の都合で、メンバーに仕事を依頼します。メンバーに「マネージャーの都合で仕事を振られるのは困る」などと思われてしまえば、仕事を引き受けてもらえないおそれも。
そこで、お願いしたい仕事があるときは、相手にもメリットがあるということを伝えてみてください。
先ほどの例でいうと、重要なプレゼンに同席したいという希望が叶うと伝えている部分ですね。
前に大きなプレゼンテーションに同席したいとおっしゃっていましたよね? 次のプレゼン、私と同席してもらえますか? あなたの力を借りてプレゼンを成功させたいと思っています。
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マネージャーは、自分の仕事に集中するためにも、チームとしての成果を最大化するためにも、チームメンバーに仕事を任せることが大切です。チームメンバーに仕事を任せる際に意識すべき点は、「意欲創出+目的の明確化+欲求充足」の3つ。
仕事を任せたあとは、細かいプロセスには口を出さず、フォローが必要であればいつでも相談に乗ると伝えるといいでしょう。
この記事が、マネージャーのみなさんの “任せる力” の向上に少しでもつながれば幸いです。