一見ビジネスと関係なさそうなことから、仕事のヒントを得たことがありますか? 仕事をよりよくすることに役立つ要素は、じつは意外なところにあるもの。そのひとつが、ヒップホップです。
ヒップホップの世界に、“フックアップ” という行為があります。有名人が無名の新人を自分のフィールドまで引き上げて紹介することです。(参考元:Well-being Matrix|いとうせいこうが実践する「フックアップ理論」と「下手なまんま精神」とは?)
じつはこのフックアップは、会社でも行なわれています。チームメンバーを抜擢することを、フックアップと呼ぶのです。
実際、『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』では、“hook-up” が下記のように説明されています。
to start working with somebody
(誰かと仕事を始めること)
(引用元:Lea, Diana and Jennifer Bradbery (2020), Oxford Advanced Learner’s Dictionary 10th Edition, Oxford, Oxford University Press. ※和訳は編集部が施した)
ヒップホップのフックアップには、会社で若手を抜擢する際に参考にできる点が多くあります。それは具体的にどのようなものなのか、詳しくご紹介します。この記事を読めば、高い成果につながる若手の抜擢法がわかりますよ。
【この記事はこんな方におすすめ】
- 自分は誰かに抜擢された経験があるが、人を抜擢する方法はわからない方
- 部下やチームメンバーにもっと裁量をもたせて、活躍させたいと考えている方
- プレイングマネージャーをしているが、マネジメント業務に完全にシフトしたいと考えている方
- チームの生産性を上げていきたい方
- 抜擢するメンバーの選定に困っている方
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
Lea, Diana and Jennifer Bradbery (2020), Oxford Advanced Learner’s Dictionary 10th Edition, Oxford, Oxford University Press.
Well-being Matrix|いとうせいこうが実践する「フックアップ理論」と「下手なまんま精神」とは?
Real Sound|ドクター・ドレーはいかに“歴史”の創造者となったのか? ハーフタイムショーを前にその功績を確かめる
doda|転職理由ランキング【最新版】 みんなの本音を調査!
牛尾剛 著 (2023),『世界一流エンジニアの思考法』, 文藝春秋.
「フックアップ」とは「才能を見いだす」こと
フックアップによって才能を見いだされたアーティストのひとりに、日本でも人気があるエミネムがいます。
アメリカのラップバトルで頭角を表していたエミネムは、その音源を聞いた大物プロデューサーのドクター・ドレーにプロデュースされ、デビューの道を切りひらきました。
(参考元:Real Sound|ドクター・ドレーはいかに“歴史”の創造者となったのか? ハーフタイムショーを前にその功績を確かめる)
このフックアップは、ヒップホップに限らず音楽シーン全体、そして一般企業でも行なわれています。そのメリットとはなんでしょうか?
若手をフックアップ(=抜擢)することのメリット
誰かをフックアップ(=抜擢)すると、“フックアップする側” であるマネージャーやチーム全体にとって、以下のようなメリットがあります。
自身の評価が向上する
音楽業界でフックアップが積極的に行なわれるのは、新しいリスナーを開拓してセールスを伸ばしたり、新たな才能を発掘し続けていることをアピールしたりすることができるからです。
一般企業でフックアップを行なうことにも、これと同様のメリットがあります。つまり、
- セールスが伸びる → チームや会社の業績がアップする
- 新たな才能を発掘し続けていることをアピールできる → 新人を育成したマネージャーの手腕が評価される
ということです。
常に若手の才能に目を光らせ、その目利きができることは、会社という組織では大きな武器となります。
自分のコア業務に集中できる
アーティストたちは、フックアップによって楽曲をより魅力あるものにしています。
ヒップホップのアーティストには、速射砲のように早口のラップをする人、ゆったりとしたラップが得意な人など、さまざまなスタイルの人がいます。スタイルが違う人どうしでフックアップし合うことで、お互いのよさを押し出しながら楽曲にメリハリをもたせているのです。フックアップによって、楽曲の聴きどころを増やしているということですね。
仕事でも同じことが言えます。
あるタスクに向いているメンバーを抜擢し、その人に権限を委譲すれば、あなたは別のチャレンジができたり、得意な業務に集中できたりします。互いの強みを活かすことで、チームのパフォーマンスは上がる(=楽曲で言えば聴きどころが増える)のです。
キャリアパスを示せる
ヒップホップの世界では、若手はフックアップの前例を見て、「いいラップをしていればいつか誰かの目に止まるかもしれない」と、自身のラップスキルを磨きます。
自分が取り組んでいることが、いつか誰かの目にとまる可能性がある――そう思えることは、頑張ろうという気持ちの支えになりますよね。
仕事ではどうでしょうか? 人事的な抜擢を行なえば、若手社員に向けて「会社で成果をあげれば、昇進や昇格がスピード感をもって行なわれる」ということをアピールできます。若手は当然「頑張ろう」と思えるはず。
また、「上がしっかり見ている」というメッセージは、社員の退職を抑制する意味でも効果的です。
dodaが2023年に行なった調査の結果、20代の転職理由の上位10個のなかに「給与が低い・昇給が見込めない」「会社の評価方法に不満があった」というものがあったそうです。(カギカッコ内引用元:doda|転職理由ランキング【最新版】 みんなの本音を調査!)
若手は、「昇給や昇進が望めそうもない」「適切に評価してもらえていない」と感じると、転職に踏みきってしまうのですね。
若手の社員を会社に定着させるには、昇給・昇進を実現できる会社だということをしっかり示すことが必要。それにはフックアップが効果的なのです。
マネージャーがフックアップを躊躇してしまう理由
一般企業の場合、フックアップのメリットはわかっても、いざ「フックアップをしよう」となるとどうすればよいかわからず、躊躇する人もいるでしょう。
そのような人は、いったいなぜフックアップを難しいと感じてしまうのでしょうか。
自分の仕事を「任せられない」と感じるから
プレイヤーからマネージャーになった方のなかには、自分自身がプレイヤーとして優秀だったあまり、ほかのメンバーに仕事を任せられない人がいます。「自分がやったほうが早い」「自分のほうが成果が出せる」と、つい目の前の効率を考えてしまうのです。
そのようなときは、マクロな視点で仕事を考えてみましょう。
若手を育成し、自分と同じように働ける人が増えれば、将来的にあなたのチームは大きな成果を出せるようになるはずです。
プレイヤー業務に使う時間は減らし、「どのように教育すれば若手にノウハウが伝わるか」を考えることに時間を使ってみてください。
「期待外れなメンバーを選んでしまったら……」と不安になるから
「自分が選んだ人が思ったように結果を出してくれなかったら……」「自分の選択眼に自信がない……」と考えてしまうのも、フックアップを難しく感じる理由のひとつです。
こういった不安があるときは、あなたも誰かにフックアップされてマネージャーになったということを思い出してください。メンバーはあなたに選ばれることを待っています。かつて自分をフックアップしてくれた上司に、自分のどこを評価してくれたのか尋ねてみると、参考になることが聞けるでしょう。
フックアップする人材の見極め方
それでは、フックアップするメンバーを見極める方法をいくつか確認しましょう。
仕事の締切を守れる人
「締切を守る」という基本中の基本を守れる人をフックアップしましょう。
以下のようなメンバーは、フックアップしてはいけません。
- 締切前日になって、「明日には終わりそうにありません。来週でもいいでしょうか?」と伝えてくる人
- 催促しないと進捗や仕事の提出をしない人
- 締切の日に予定の半分も仕事が終わっていなかったことがある人
このような、期限にルーズだったり自身の仕事をコントロールできなかったりする人は、フックアップしても活躍の見込みが薄いかもしれません。
締切を自ら確認し、突発的な理由で遅れそうであれば事前に相談して、依頼された仕事の期待値を調整する――こういうことが普段からできているメンバーを、ぜひフックアップしましょう。
Fail Fast(早く失敗する)ができる人
早々に失敗できる人も、成長の見込みがある、ぜひフックアップすべき人材です。
米マイクロソフト社のエンジニアである牛尾剛氏は、著書『世界一流エンジニアの思考法』のなかで、エンジニア業界のFail Fastの文化について次のように紹介しています。
成功しようがしまいが、まずはやってみて、早くフィードバックを得て、早く間違いを修正していくーーFail Fast の精神だ。
(引用元:牛尾剛著(2023),『世界一流エンジニアの思考法』, 文藝春秋.)
牛尾氏いわく、人間は間違う生き物。そのうえで「検討ばかりして、さっさと「やらない」ことのほうが最大のリスク」と述べています(カギカッコ内引用元:同上)。
つまり、あれこれ思い悩むよりも、スピーディに仕事を進め、失敗した場合は早く修正するほうがいいということですね。
フックアップされた若手社員は、これまでに立った打席の数は少なくて当然です。打席に立ちながら、うまく打てなかったら修正していく――そういった心づもりで仕事に臨んでいるメンバーは成長の見込みがあるでしょう。
フィードバックや評価を受け入れることができる人
失敗を次に活かす姿勢があるかどうかも、フックアップすべき人材を見極めるうえで大事なポイントです。
Fail Fastで失敗したあとは、自分自身で失敗を振り返ることに加え、上司やほかのメンバーからのフィードバックを受け入れることも重要です。フィードバックを受けて修正する力があるのか、抜擢する前に見ておくといいでしょう。
そしてもうひとつ理解しておかなければいけないことは、「結果は結果」だということです。設定したKPIやKGIを最終的に達成できなかった場合は、「評価」として自分自身返ってくる――このことをきちんと理解しているかも、確認しておいてください。
具体的には、評価面談での様子を見るのがおすすめです。設定した目標を達成しなかったとき、それを「自分の評価」として受け入れることができているか、見極めてみてください。
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今回の記事では、若手をフックアップ(抜擢)する方法について見ていきました。ビジネスは、個々の力をあわせてのチーム戦。このこと忘れずに、フックアップするほうもされるほうも、今回の記事を日常業務で活かしてみてはいかがでしょうか。