物流業界が「再配達率」を削減した方法とは? 探ってみたら「仕事のムダ」の減らし方が見えてきた

キーボードの上に小さな段ボールが乗っている

「チームの成果が上がらない……。作業の効率が悪いのだろうか」
「頑張って働いているのに、いつも仕事が終わらなくて残業ばかり……」

上記のようなお悩みを抱えている方は、物流業界における “再配達率の改善方法” を参考にすると、ヒントが得られるかもしれません。

みなさんは日本の宅配便の再配達率をご存じでしょうか? 国土交通省の令和5年4月の調査では、再配達率は11.4%を記録しています。つまり、100個の宅配便を届けに行けば、11個程度の再配達が発生するということ。

この11個の荷物は無料で再配達しているので、物流会社からするとコスト増になってしまいます。それでも、平成31年4月の16%をピークに、再配達率は物流各社や関連企業の働きによって着々と改善されているのです。(参照:国土交通省|宅配便の再配達削減に向けて

この “再配達率削減への取り組み” は、私たちが仕事の仕方を改善するうえでも見習える部分が多いもの。この記事では、通常の業務で発生しがちな “本来は必要のない業務” “再配達” と見立てて、その削減策を探っていきます。

マネジメント層の方にとっては、「チームメンバーの業務効率を上げるヒント」に。メンバーとして働かれている方にとっては、「上司との業務連携がうまくいくヒント」になることでしょう。

【この記事はこんな方におすすめ】

  • 仕事がいまいちスピーディに進まず、残業が多くなってしまう方
  • チームや部署の働き方を効率よく最適化したい方
  • ほかの業界の事例から学びを得て、ご自身の仕事に活かしたい方

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。

(参考)

国土交通省|宅配便の再配達削減に向けて
野口智雄(2024),『日本の物流問題 ――流通の危機と進化を読みとく』, 筑摩書房.
角井亮一(2024),『アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略』, PHP研究所.

なぜ「再配達率改善」が急務なのか?

再配達——すなわち、私たちにとっての “本来は必要のない業務” を減らすにはどうしたらいいのでしょうか。まずは、物流会社が再配達率を改善するために行なった対策をご紹介しましょう。

前述のように、令和5年4月の宅配便の再配達率は11.4%。平成31年4月の16.0%から改善傾向にあります。注目したいのは、そのあいだの宅配個数。平成30年度の年43.1億個から令和4年度には50.6億個へと、宅配便の個数は急速に増えています。(参照:同上)

つまり、宅配便の個数は増えているにも関わらず、再配達率は改善しているのです。

日常の業務で言えば、業務量は増えているにもかかわらず、無駄な業務を着実に減らしているということですね。

効率よく仕事をしているイメージ

そもそも、なぜ再配達率の改善が急がれるのでしょうか。その理由は、物流業界における深刻なドライバー不足。背景には「ドライバーの高齢化」のほか、「物流の2024年問題」があります。

物流の2024年問題とは、「働き方改革」の一環で、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることです。これまでドライバーは、労使間の協定で合意できていれば、実質無制限に時間外労働ができました。しかし今後はその時間数が制限されるため、残業がしにくくなります。これにより、ドライバー不足が加速すると予測されているのです。2020年4月1日に施行された法律ですが、すぐに適用すると深刻な影響が発生するため、4年間の猶予期間がありました。その猶予期間が2024年3月31日に終了するのです。

(上記参照:野口智雄(2024), 『日本の物流問題 ――流通の危機と進化を読みとく』, 筑摩書房.)

このような背景から、再配達率を下げる取り組みは急務となっています。「ドライバーが足りなくなる」とはつまり「人手が足りなくなる」ということ。働き手が減ると予想されるなかで、物流業界ではどういった改善策が行なわれているのでしょうか?

トラックの前に段ボールが置かれている

再配達率を改善した方法

ドライバーの高齢化や物流の2024年問題によって、再配達率の改善が急がれる物流業界。ただ、物流企業や関連企業、そして政府は、この状況に手をこまねいていたわけではありません。前述のように、再配達率は改善されてきているのです。

では、具体的にどのような取り組みが行なわれているのか、代表的なものをご紹介しましょう。ポイントは、 “可能なかぎり、荷物を届けに行ったときに配達を完了させる” ことです。

  1. 受取方法の拡充
    コロナ禍以降、急速に普及しているのが「置き配」です。大手通販サイトのAmazonは、置き配サービスを拡大。事務用品中心の通販サイトASKULは、置き配をデフォルトの受取方法に設定することで、再配達を減らしています。
    加えて、コンビニで受け取りができる仕組みづくりや、駅やコンビニ内での宅配ロッカー設置も進んでおり、24時間さまざまな場所で荷物を受け取れるよう、整備が進んでいます。
    また、個人宅での「宅配ロッカーの設置」を補助金等により促進する制度が、国土交通省によって用意されています。(参照:国土交通省|国土交通省における宅配ボックス設置に関する支援策等一覧

  2. 荷物のコンパクト化
    従来の段ボール箱での梱包から、より簡易的な梱包へと切り替えてポスト投函できるようにするなど、荷物のコンパクト化を進める通販サイトが多くあります。
    また、商品サイズそのものを見直して小さくし、物流効率を上げている企業も存在するようです。

  3. コミュニケーションツールの活用
    メールサービス、アプリ、LINEなどのチャットツールとの連携によっても、再配達率の削減が行なわれています。前日にチャットで “荷物のお届け通知” が届き、事前に配達日時を変更できる――という便利な仕組みが、まさにこの一例です。確実に受け取れるタイミングを客自身が設定する仕組みによって、ドライバーが一度の配達で荷物を届けられるようにしているのです。

再配達率の削減には、「受取場所の拡充」「荷物のコンパクト化」「コミュニケーションツールの活用」がキーワードとなっているようです。では、私たちが日常の業務のなかで再配達(=無駄な業務)を削減するにはどうすればいいのでしょうか?

玄関前に「置き配」されている様子

再配達(=無駄な業務)の削減方法

ビジネスパーソンが “無駄な業務” を減らす方法を、物流業界の “再配達” 削減法にならって、考えてみましょう。

1. 会議の「コンパクト化」

会議で最も無駄になるのが、議題についてのネクストアクションが決まらず、次回の会議に持ち越しになることでしょう。「次回までに検討します」というのは、荷物を届けることができずに再配達になってしまうことと同じ。本来なら必要のない業務です。

会議をより有効なものにするために、「会議のコンパクト化」を図りましょう。単に会議の時間だけをコンパクトにするのではなく、アジェンダをコンパクトにする、つまり、決めるべき事柄を重要なもののみに絞ることも大切です。

あれもこれもアジェンダにあると、どうしても時間内に終わらないもの。わざわざ会議の場に持ち出さずとも決められそうな内容は、社内チャットやメールで決めてしまいましょう。

会議のコンパクト化については、ぜひこちらの記事もお読みください。
>>「無駄な会議」を「理想の会議」に変えるための3つのヒント。会議時間は○分がベスト

無駄のない会議のイメージ

2. チームメンバーに依頼する仕事の「コンパクト化」

上司であるあなたがチームメンバーに仕事を依頼する際、“再配達” が発生していませんか? 資料作成をメンバーに依頼したものの、完成した資料には根本的な修正が必要だった……というのはよくある話。最初からやり直しになると、お互いの時間が無駄になってしまいますよね。

そういった仕事の再配達が発生しないよう、仕事を依頼する際は、メンバーの業務キャパシティーやスキルにあわせて「コンパクト化」しましょう。

たとえば、プレゼン資料の作成であれば、「完成したら教えて」と丸投げするのではなく、「まずは構成案だけ考えてみて」と “コンパクト” に依頼してみましょう。細かくステップを分け、逐一確認することによって、無駄な作業が減るはずです。

この考え方は、物流会社が行なっている “商品サイズ” そのものを見直すことと同様の方法です。仕事を依頼する際は、メンバーが確実にこなせるよう、“仕事のサイズ” をコンパクトにしましょう。

上司が部下の仕事をチェックしている様子

3. 上司から依頼された仕事の「時間帯指定」

上司から依頼された仕事を完成させ、チェックを上司にお願いしたものの、なかなか時間をとってもらえなかったり、チェックが遅くなったり……。「せっかく締切通りに仕事を終わらせたのに」と苦い思いをした経験がある方は多いのではないでしょうか。

この場合は、「時間帯指定」で仕事を進めることがおすすめです。仕事の依頼を受けたら、その仕事を進めるスケジュールや、フィードバックを受ける時間も同時に指定してもらうのです。そうすれば、確実に上司のチェックを受けられるでしょう。また、依頼された仕事は当日中に手をつけて、上司に方向性の確認をすることもおすすめです。

ヨドバシカメラは、送料無料で最短・即日数時間以内のスピード配達が可能な「エクストリーム便」を実施しています。現ヨドバシカメラの社長である藤沢和則氏は、その狙いについて、再配達の観点から下記のように述べています。

即日配送をすると配送会社に大きな負担がかかると言われますが、商品の受注後、早く届ければ、受け取ってもらえる確率が高い。商品を在庫として保管したり、再配達したりするコストを考えれば、即日配送でもメリットが出せる。

(引用元:角井亮一(2024), 『アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略』, PHP研究所.)

仕事で考えると、依頼された仕事をできるだけ早い段階(即日)で上司に見せることができれば、フィードバックをもらえる確率が高いと言えるでしょう。それもそのはず、当日に依頼した仕事は誰でも覚えているもの。早めにチェックをもらうことで仕事の方向性を修正することもできますし、「いち早く仕事に取り組んでいる」と印象づけることもできます。

***
物流業界における再配達率の削減策をベースに、日常の業務効率を改善する方法を解説しました。異なる業界での成功事例は、自分の仕事にも活かすことができるもの。これを機に、自分の勤務する会社とは異なる業界の視点を取り入れてみてはいかがでしょうか?

会社案内・運営事業

  • 株式会社スタディーハッカー

    「STUDY SMART」をコンセプトに、学びをもっと合理的でクールなものにできるよう活動する教育ベンチャー。当サイトをはじめ、英語のパーソナルトレーニング「ENGLISH COMPANY」や、英語の自習型コーチングサービス「STRAIL」を運営。
    >>株式会社スタディーハッカー公式サイト

  • ENGLISH COMPANY

    就活や仕事で英語が必要な方に「わずか90日」という短期間で大幅な英語力アップを提供するサービス。プロのパーソナルトレーナーがマンツーマンで徹底サポートすることで「TOEIC900点突破」「TOEIC400点アップ」などの成果が続出。
    >>ENGLISH COMPANY公式サイト

  • STRAIL

    ENGLISH COMPANYで培ったメソッドを生かして提供している自習型英語学習コンサルティングサービス。専門家による週1回のコンサルティングにより、英語学習の効果と生産性を最大化する。
    >>STRAIL公式サイト