文章を書くことに苦手意識が強い人の場合、「よし、書くぞ!」と思ってデスクに向かったものの、「どう書き始めればいいのかわからない……」と固まってしまうというのもよくある話です。
その書き出しの重要性を強く説くのが、コラムニストの尾藤克之(びとう・かつゆき)さん。雑誌のほか、「オトナンサー」「アゴラ」「朝日新聞telling,」「J-CAST会社ウォッチ」など、数多くのウェブメディアにも寄稿する尾藤さんは、著書『3行で人の心を動かす文章術』(WAVE出版)でも注目を集めています。「冒頭3行」の重要性はどんなところにあるのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
文章の冒頭でフックをかけられなければ中身は読まれない
僕が著書の『3行で人の心を動かす文章術』(WAVE出版)で伝えているのは、タイトルそのままの「文章は最初の3行が肝心」だということです。
自分が理解を深めるためや自分の記録として残すための文章ならともかく、「読み手に知ってもらう」「読み手を説得する」といった、読み手に対してなんらかの働きかけをする目的を持つ文章については、その目的を達成するために冒頭の「フック」が非常に大切となります。冒頭で読み手の興味をかき立てる印象的な話題を提供できなければ、そのあとに続く文章を読んでもらえなくなるからです。
このことは、読み手の立場に立てばよくわかるはずです。たとえば「Yahoo!ニュース」でも、一覧で見られるのは長くて3行程度の見出しだけです。読み手はそれらにざっと目を通しながら、中身を読むかどうかを決めます。そこで興味を持たれなければ、文章自体が読まれることはないのです。
フックが重要だということは、スピーチやプレゼンにもいえることです。でも、それらの場合は、たとえ冒頭でフックをかけることに失敗したとしても、話の途中で聴衆の関心を引きつけることができれば「敗者復活」を果たせます。ところが、文章の場合はそれができない。つまり、文章はそれこそ最初の3行がとても大きな意味を持つのです。
最重要事項を冒頭に盛り込む文章構成「結論ファースト」
この3行は、1行の文字数にもよりますが、だいたい100字程度と考えていいでしょう。この100字という文字数は、「ぱっと見て書かれている意味をすんなり理解できる」文字数なのです。テレビの手話ニュースで表示される字幕も基準が100字だそうですが、それにも視聴者がニュースの内容を理解しやすいようにという配慮があるのです。
それだけ限られた文字数だということを考えれば、文章を書く際には、ある「型」を用いることが有効になってきます。それは「結論ファースト」という型です。冒頭でいきなり「結論」を述べる。それから、その「理由」や付随する「エピソード」を述べ、最後に「まとめ」を配置するといった構成です。具体例で示してみましょう。
【結論ファーストの文章例】
「早起きは三文の徳」ということわざは紛れもない事実です。昨今のビジネスシーンでは早起きであることが美徳とされ、わたしも毎朝6時に起床していますが、実際、早起きのメリットは多いように思います。早朝サーフィンを楽しんでいる友人の場合、毎朝5時に起きて海に向かい、2時間ほど波乗りを楽しんでから仕事に向かうのだとか。体も頭もしっかりと目覚め、そのあとの仕事にも意欲的に取り組めるそうです。そうすると、仕事の成果も出やすくなりますし、比例して給料も上がっていくでしょう。そう考えれば、早起きは「三文」以上にいいことづくめといえるのかもしれません。
この例では、一番伝えたい結論である「『早起きは三文の徳』は事実」だというキーメッセージを書き出しで伝えています。続いて、その結論を裏づける内容を続け、結論について「なぜそういえるのか?」という理由を整理していく。さらに、「早朝サーフィンを楽しんでいる友人」の具体的エピソードでリアリティーを増し、最後に結論を絡めてまとめています。
これは文章の型の一例に過ぎません。それこそ小説を書くとなったら、まったく別の文章構成はいくらでもあるでしょう。ただ、ニュースサイト等で比較的短い文章を数多く読むことが多いいまの時代に一番フィットしているのは、やはり「結論ファースト」の型であるはずです。
これは、僕が執筆の際にもよく用いる型です。極端な例を挙げれば、書評記事の場合には、扱う書籍のAmazonのリンクURLを冒頭の100字に入れてしまうということもあります。書評の場合、そのリンクURLを読者に踏んでもらうことが、最も重要な目的のひとつだからです。
「100字の固まり」で長文執筆のトレーニングをする
この100字を意識することには、冒頭で読み手を引きつけること以外の効果も期待できます。それは、長い文章を書くトレーニングにもなるということです。
いま、特に若い世代には、長い文章を書くことが苦手だという人が多いのだそうです。大学教授が学生に論文を書かせようにも、なかなか書けないという。
その背景には、スマホが浸透したことの影響もあるように思います。パソコンならともかく、スマホで2,000字、3,000字の文章なんて書けませんよね? しかも、以前と違って、最近では友人と連絡するにもメールさえ打たなくなって、LINEでスタンプを送れば事足りてしまう時代です。それでは、3,000字のレポートを書くのが難しく感じるというのもうなずける話です。
そこで、大学教授のなかには、学生に「まずは100字の文章を書きなさい」という指導をしている人もいるのだそうです。その100字のなかできちんと論理的な文章を構成する。そして、その100字の固まりをいくつもつなげていくのです。3,000字のレポートなら、100字の固まりを30個つくればいい。そう考えると、文章が苦手な人でも、長文を書けそうな気がしてくるのではないでしょうか。
【尾藤克之さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「文章力が全然伸びない人」が知らない重要原則。うまい下手は “書く前” から決まっている。
「なんか惜しい文章」はどこがマズイのか。“あの言葉” の使いすぎに要注意。
【プロフィール】
尾藤克之(びとう・かつゆき)
東京都出身。コラムニスト、エッセイスト。アスカ王国青少年自立支援機構理事。明治大学サービス創新研究所研究員。埼玉大学大学院博士課程前期修了。経営学修士、経済学修士。議員秘書、大手コンサルティングファームにて経営・事業開発支援や組織人事問題に関する業務に従事、IT系上場企業役員等を経て現職。「オトナンサー」「アゴラ」「朝日新聞telling,」「J-CAST会社ウォッチ」など数多くのメディアに寄稿している。現在は障害者支援団体アスカ王国(橋本久美子会長/橋本龍太郎元首相夫人)の運営もライフワークとしている。『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)、『即効! 成果が上がる 文章の技術』(明日香出版社)、『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。