どんな仕事にも「プロならではの視点」があります。一般人は気にもしない細部の違いの積み重ねが、結果的には一般人にもわかりやすい「プロの仕事」となるのです。では、文章におけるプロは、どんな細部にこだわって違いを生み出しているのでしょうか。
お話を聞いたのは、コラムニストとして活躍する尾藤克之(びとう・かつゆき)さん。雑誌のほか、「オトナンサー」「アゴラ」「朝日新聞telling,」「J-CAST会社ウォッチ」など、数多くのウェブメディアにも寄稿する人気コラムニストのテクニックを教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
アンテナを張ってインプットし、旬なキーワードを見抜く
「惜しい文章」にもいろいろなタイプがあると思いますが、やはり書くネタ自体を外してしまうとどうにもなりません。ブログやSNS等、ネットで公開するのであれば、それこそ旬なキーワードを入れ込むことが大切だからです。
そうするためには、何より自身がアンテナを張っておく必要がある。つまり、なるべく多くのインプットをするということです。それによって旬なキーワードを見抜く目が磨かれます。
僕の場合、書評サイトがほとんどない頃から書評記事を多く手がけていることもあって、とにかく本をたくさん読みます。それから、起床してまずやることは「SmartNews」のチェック。主要なニュースにババッと目を通して、あとから読み直す記事をチェックする。あとは新聞も、朝日・読売・日経の3紙には目を通すようにしています。
インプットしたら必ずアウトプットする癖をつける
そして、僕のような文章を書く仕事をしていない人も、インプットをしたなら必ずアウトプットすることを心がけてみてください。それが、仕入れた情報に自分なりの解釈を加えて文章というかたちにするトレーニングになるからです。
アウトプット先はブログやSNSでもいいですし、文章を書くことにまだ慣れていなくて、他人に向けて公開することに抵抗があるなら、メモ帳アプリでもいい。とにかく、アウトプットの癖をつけるのです。
アウトプットを習慣化することのメリットとしては、文章力を高められる点以外に、あとから見返すことができる点が挙げられます。僕も、自分が寄稿しているウェブメディアの過去記事を見ることもあるのですが、10年前の記事を読むと、「しょうもないものを書いていたな……」なんて思うこともあります(苦笑)。つまり、過去の文章を振り返ることで、いまの自分の成長を感じられるというわけです。
また、アウトプットの癖をつけることと並行して、文章を書く際のルールについても学んでみてはどうでしょうか。雑誌などメディアに載せる文章は、いわゆる「NGワード」が含まれていないものにする必要があります。また、他人が書いた文章を引用する際には、引用元の著者や書名などを記載しなければならないというルールもある。それらは、ビジネスの場で使う文章を書く際にはそれほど使われないものかもしれません。ですが、知っていて損ではないことは間違いありません。
無駄な言葉を削ぎ落としてキーワードを際立たせる
また、「惜しい文章」の別のパターンとしては、「無駄な言葉が多い」というものがあります。せっかくいいキーワードに目をつけられたのに、無駄な言葉が多ければ、それだけキーワードがぼやけてしまうのです。文章をブラッシュアップしていくには、「無駄な言葉を削ぎ落とす」という作業が欠かせません。
よくある「無駄な言葉」としては「基本的に」、それから「たとえば」というものが挙げられます。どちらも日常会話では頻繁に使われる言葉ですよね。でも、その言葉にはほとんど意味がないということも多いのです。「基本的に」とはいうものの何の基本なのかわからない、「たとえば」とはいうものの例を挙げているわけではない……。
日常会話をしているイメージのままで文章にしてしまっては、無駄が多いだけの文章になってしまうのです。一度、「この言葉は本当に必要か?」と考えながら自分の文章の無駄な言葉を削ぎ落とす作業をしてみてください。本当にいいたいことというのは、意外なほどコンパクトにまとまるはずです。
独自のスタイルを見つけるには書き続けるしかない
最後に、こういっては身もふたもないかもしれませんが、いい文章を書けるようになるにはとにかく慣れるしかありません。
先にお伝えしたように文章を書く際のルールを知っておくことは損ではありませんし、基本的なテクニックならライティング講座などで学べるでしょう。でも、そういう知識を得て「正しい文章」を書けるようになったとしても、それが「おもしろい文章」かといえば、そうとは限らないはずです。
「おもしろい文章」には、書き手独自のスタイルがあるものです。そのスタイルは、誰が教えてくれるものでもありません。僕が「これはおもしろい!」と思ったものに、お笑い芸人で作家の又吉直樹さんの文章があります。
--- 以下、書籍より引用(P292~293)---
十年以上前の話だが、当時お付き合いしていた女性から「今日は何の日?」と聞かれたことがあった。六月十三日だった。その瞬間、脳裡に太宰の顔が浮かんだが解らないと答えた。彼女は「初めてキスした日だ」と僕に告げた。そうだ、僕が生まれて初めてキスをした日だった。しかし何故か太宰のことが気に掛かり頭から離れないので本を開いてみると、六月十三日は太宰治が玉川入水した日であった。
「ファーストキスが太宰の命日」
大人気のアイドルがリリースしても絶対に売れない曲のタイトル。
ちなみに太宰の奥さんの名は「みちこ」で僕の当時の彼女も「みちこ」だった。少し奇妙な縁に驚きながらも、僕はますます太宰に惹かれていった。
~又吉直樹『第2図書係補佐』より~--- ここまで ---
僕は、この文章を読んでぐいぐいとストーリーに引き込まれました。こんな話の展開の仕方は、それこそ誰かに学んでできるものではありません。これはまさに又吉さんのオリジナルのスタイルです。
一般のビジネスパーソンなら、又吉さんのような文章力は必要ないのかもしれません。でも、旬なキーワードを見抜いてアウトプットする力を磨くにも、無駄な言葉を削ぎ落として簡潔にまとめる力を磨くにも、最低限必要な知識を頭に入れたら、あとは書き続けるしかないのです。
【尾藤克之さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「文章力が全然伸びない人」が知らない重要原則。うまい下手は “書く前” から決まっている。
文章がうまい人は “たった3行” で相手の心を動かせる。
【プロフィール】
尾藤克之(びとう・かつゆき)
東京都出身。コラムニスト、エッセイスト。アスカ王国青少年自立支援機構理事。明治大学サービス創新研究所研究員。埼玉大学大学院博士課程前期修了。経営学修士、経済学修士。議員秘書、大手コンサルティングファームにて経営・事業開発支援や組織人事問題に関する業務に従事、IT系上場企業役員等を経て現職。「オトナンサー」「アゴラ」「朝日新聞telling,」「J-CAST会社ウォッチ」など数多くのメディアに寄稿している。現在は障害者支援団体アスカ王国(橋本久美子会長/橋本龍太郎元首相夫人)の運営もライフワークとしている。『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)、『即効! 成果が上がる 文章の技術』(明日香出版社)、『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。