時代が大きく速く変化するなか、「これから活躍したい」と考えるビジネスパーソンにはどんな力が求められるでしょうか。
その回答として、大手広告代理店・電通でトランスフォーメーション・プロデュース部長として働きながら、複数の大学で講師も務める国分峰樹さんは、「専門性」を挙げます。そもそも専門性とはどんなことを意味するのでしょうか。国分さんが言う専門性の定義についてのお話から始めてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
【プロフィール】
国分峰樹(こくぶ・みねき)
1975年生まれ、大阪府出身。株式会社電通 トランスフォーメーション・プロデュース部長。大阪府立北野高校、早稲田大学理工学部卒。早稲田大学大学院理工学研究科修了(工学修士)後、電通に入社。広告ビジネスのプロデューサーとして仕事に打ち込みながら、青山学院大学で経営学博士(広告論)、東京大学で学際情報学修士(メディア論)を取得。現在、東京大学大学院博士後期課程に在学中(総合教育科学)。大学論およびマーケティング・コミュニケーションを専門に研究している。青山学院大学(広告・メディア産業研究)、東京音楽大学(メディア論)など、3つの大学で非常勤講師を務める。広島大学高等教育研究開発センターフェロー、公立大学法人会津大学非常勤講師を歴任。電通では、入社以来17年にわたって現場の最前線でビジネスプロデュースに携わり、シニア・マネージャーとして、飲料・化粧品メーカー、メガバンク、コンビニ、携帯キャリアなど、主要スポンサーの広告キャンペーンを担当。その後、電通が全社改革をなうために本社機能を強化する経営方針を打ち出したことにともない、人事局および社長直轄の改革推進室にて、デジタルトランスフォーメーション(DX)にかかわる特命プロジェクトに参画。チーフ・プランニング・ディレクターとして、全社的な人材マネジメントシステムの構築を主導し、生産性向上と働き方改革を実現した。現在は、ビジネスプロデュース局の部長として、情報・通信業界および金融業界における大手クライアントの統合マーケティング・コミュニケーション戦略を担当する部署の責任者を務める。電通が今後のビジネスで核に据えるデジタルトランスフォーメーション領域の最先端で、広告ビジネスを進化させるために奮闘中。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
「専門性がある」≠「専門知識をもっている」
ビジネスパーソンが、これからの時代に求められる力についてはさまざまな意見がありますが、私は「専門性」が重要なキーワードになると考えています。
私が言う専門性とは、ただ単に専門知識があることを指すのではありません。「専門性がある人」というと、それこそ「専門知識をもっている人」をイメージする人も多いと思います。
かつてなら、それだけでも重宝される人材になれたかもしれません。ある分野について他の多くの人にはない専門知識をもっていれば、周囲から認められたり頼られたりすることもあったでしょう。
でも、いまは時代が大きく変わっています。ある特定のごく少数の人しか知りえないことでもなければ、たいていの専門知識と呼ばれるものはインターネットを介していくらでも手に入れられます。
つまり、いまという時代においては、専門知識をインプットすることにはそれほど大きな意味はないのです。なにかを知っていたとしても、そこからなんの価値も生み出せなければ、宝の持ち腐れで終わってしまいます。
重要なのは、インプットではなくアウトプットなのです。誰もが手に入れられる専門知識をインプットした後に自分なりに咀嚼し、新たな知識のアウトプットができる――。それが、私が言う「専門性がある」ということです。
専門性をもたずに活躍している人などいない
ビジネスにしろスポーツや芸能にしろ、あらゆる業界で活躍している人たちを思い浮かべてみてください。「専門性をもっていないのに、活躍している人」なんているでしょうか。おそらく、ほとんどいないでしょう。世のなかで活躍する、稼げる人というのは、なにかしらの専門性をもっています。
それでは、逆にまったく専門性をもたない人はどうなるでしょうか? 学生時代のアルバイトのように、誰にでもできる仕事をするしかなく、その人がいなくなったとしても代替する人材はいくらでも現れます。
そうなると、当たり前ですが、「買い叩かれる」ことになる。「自分にしかできない仕事」ではなく「誰にでもできる仕事」をせざるを得ないのですから、高収入を得ることは難しくなるのです。
とはいえ、すでに社会に出て働いている人であれば、現時点でもある程度の専門性はあるはずです。私であれば広告というように、みなさんそれぞれに仕事で携わる分野については、ほかの業界の人にはない知見をもっているでしょう。
しかし、そこで満足してしまうのはよくありません。その業界にいるだけでもつことができる専門性は、ほかの同業者ももっているものです。ですから、そこからさらに差別化を図っていくことが肝要です。同じ専門性をもつ、代替できる人が多ければ多いほど稼ぎにくくなりますし、ビジネスパーソンとして生き残りにくくなるからです。
専門性の差別化のためにもつべきは、「プロ意識」
では、自らの専門性を磨いて周囲と差別化するにはどうすればいいでしょう。この回答としては、「プロ意識をもつ」ことに尽きるのだと思います。
フリーランスの人たちをイメージするとわかりやすいかもしれません。フォトグラファーであれ弁護士であれ、会社に所属せずフリーランスで働いている人たちは、それぞれに専門性を備えています。
でも、ほかのどんなフォトグラファーでも撮れる写真しか撮れないフォトグラファーや、「刑事事件に強い」といった突出した得意分野をもたない弁護士は、周囲と差別化ができていませんから、多くの依頼を受けることは難しいでしょう。
だからこそ、フリーランスの人たちは、「どうすれば同業者のなかでより多くの依頼を受けられる存在になれるか?」と日常的に考え、専門性を磨いて差別化を図っています。そのように自分自身を動かしていく意識こそが、私が考えるプロ意識です。
では、会社に勤めるビジネスパーソンはどうでしょう? みなさんは、自分の仕事に対して「プロ意識をもっている」と自信をもって答えられますか?
9時から17時まで、ただ与えられたタスクをこなせばいいのではありません。そういった就業規則は従業員であれば当然守らなければならないものであり、そうしたうえで「自分が生み出した価値に対して給料をもらっている」、あるいは逆に「価値を生み出せなければ給料はもらえない」という、フリーランスの人には当たり前にあるプロ意識をもつべきなのです。
それさえあれば、「ただ与えられた仕事をしていればいい」というのんきな発想をもつことはなくなるはずです。「プロとしてどんな価値を生み出すべきか?」「そうするためになにをすべきか?」と考えるようになり、自然と自分の専門性を磨くことになるのだと思います。
【国分峰樹さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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