決して崩れない信頼関係の築き方。人間関係の悩みは○○を磨けば解消できる。

人間関係の悩みを解消する方法について解説してくれた中野信子さん

私たち人間は、「ひとりでは生きられない社会的動物」だと言われます。そのため、人間関係の悩みは尽きることがなく、仕事では上司や同僚との相性が悪かったり、部下とのコミュニケーションがうまくいかなかったりする場合があると思います。仕事以外でも、家族や友人のあいだで、人間関係がぎくしゃくすることもあるでしょう。

人間関係がこじれる原因がどこにあり、どうすれば他人とのあいだに信頼関係を築いていけるのでしょうか。脳科学者の中野信子さんに、人間関係の悩みを解消する方法を聞きました。

構成/岩川悟、辻本圭介 写真/川しまゆうこ

【プロフィール】
中野信子(なかの・のぶこ)
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学教授として教鞭を執るほか、脳科学や心理学の知見を活かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行なっている。著書に、『サイコパス』『不倫』(ともに文藝春秋)、『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)、『脳の闇』(新潮社)などがある。

人間関係の悩みは「ボキャブラリー」で解消

【POINT】性格は「言葉」によって表現できる

相手は「言葉のやり取り」であなたを判断する

私たちは人間関係の悩みを抱えますが、その相手のパーソナリティについては、おおよそ「言葉のやり取り」と「見た目」で判断しています。

相手が自信に満ちた話し方なのか、おどおどした話し方をしているのか。あるいは上から目線で接してくるのか、なれなれしい言葉を使ってくるのか――。

相手が話す言葉や話し方を通じて、「だいたいどんな人なのか」については、相手の本質がどうなのかを吟味する以前に、驚くほど拙速に答えを出してしまうものです。

逆に言えば、こう考えることができます。言語的なやり取りの部分と態度さえ工夫すれば、自分の望ましい「自分」を相手に示すことができるわけです。

「使う言葉」を磨けば人間関係の悩みを解消できる

困った相手に出会ってしまったときでも、もし相手の気持ちを和らげたり、いなしたり、怒りを逸らしたりできる言葉や表現を、自在に使いこなすことができたとしたら、どうでしょうか? 相手があなたの領域に土足で踏み込もうとしてきても、それだけで、すみやかに落ち着いて対処できるはずです。

言葉は、あなたを守る楯であり、武器でもあるのです。

つまり人間関係の悩みを解決するには、性格が原因だとしてそれを無理な努力で変えようとするよりも、「ボキャブラリー」に的を絞り、的確に使いこなすトレーニングをしたほうが早道です。

たとえば、他愛のない会話で相手を笑わせたり、その場を和ませたりできれば、親しみやすく、融和的なパーソナリティだと印象づけることができます。逆に鋭いひとことで切り返したり、ことわざなどを織り交ぜて話したりすれば、知的な印象を与えられるでしょう。場合によっては、あえて気難しい人柄を演出するのも効果的なことがあります。

場面に合わせて、どんな自分を見せたらよりよいコミュニケーションができるのか、場をデザインする力をつけていくことが大切です。

相手に合わせて性格を変える必要はない

人間関係の悩みを解消するために「自分の性格を変える」というアプローチは、とても難しく、また時間もかかります。そもそも、他人に合わせて自己の内面までをも変えていかなければならないのは負荷が大きすぎますし、あまり気持ちのいい話でもないですよね。

ならば、ボキャブラリーを磨いて、その場に適したインターフェースを迅速に用意できることのほうが、自分にとっても相手にとっても、より価値があるのではないでしょうか。

人間関係の悩みはボキャブラリーを磨くことで解決できると語る中野信子さん

人間である以上言動が一致しないのは当然

【POINT】他人に「一貫性」を求めない

信頼関係が崩れるのは言動が一致していないから

人間関係の悩みは言葉の使い方で変わると述べました。

しかし、この肝心の「言葉」と「行動」が一致しないことが、人間関係がこじれる主な原因のひとつと言えます。

たとえば、「あなたがいちばん大切だ」と言ったのにパートナーが裏切ったり、「きみには期待しているぞ」と言ったのに上司が仕事を任せてくれなかったりして、信頼関係が崩れてしまうケースが驚くほど多いのです。

近年、若年層で離職する人たちの声のなかに、信頼関係が壊れたからという理由が聞かれます。これも、もしかしたら、コミュニケーションの相手に言行の不一致があるように見えたことが引き起こした意思決定であるのかもしれません。

感情的になったときこそ自分を省みる

相手の言行が不一致であることは、確かに気持ちのいいものではないでしょう。不快である、というその気持ちをまず大切にしたうえで、なぜ不快に感じるのかを考えてみましょう。

自分は相手を信頼していた。けれども、その期待とは違う側面が見えてしまった。許せないと思うでしょうか? でも、許せないと思っても、相手にも相手の生き方があり、生活があり、育ってきたこれまでの環境があり、クセがあり、また守らなければならないものがあります。

そこで、相手に対する怒りに駆られたときには、相手と同じように自分も、相手の期待に100%添うことはかなり難しく、負担が大きいものだということを、想像してみてほしいのです。

すると、予想していた以上に「言葉と行動を一致させるのはむしろ至難の業」であることが、現実の重みをもって感じられるのではないかと思うのです。

一貫性を求めなければ他人にも振り回されない

相手が自分の想像したとおりの規範のなかで動いている、という条件のもとに構築された信頼関係はもろいものです。けれども、相手に想定外の言動があっても、その人との関係をよりよいものにしていこうという意思から築かれる信頼関係は、相手への期待を前提としないぶん、崩れることもないのです。
 
しばしば、ネット上で著名人に対して、「言動が矛盾している!」「論理的におかしいよね」などとバッシングする人がいます。誰かに一貫性がないことにショックを受けるのは、それだけその人に期待し、ややもすれば心理的に依存していたということでもあるでしょう。ただ、反射的に攻撃する前にまず、自分自身はどうか、考えてみてほしいのです。

他人に振り回されるということは、他人に期待しすぎていることでもあります。それよりも、自分自身に期待し、自分をより豊かに強くしていくほうが、より賢い生き方であると言えるでしょう。

「私」を主語にすると相手の心を動かせる

【POINT】「私」の気持ちを直接伝えよう

ただほめるだけでは謙遜される

人間関係をよくしていく言葉遣いのなかで特に大切なことは、相手が共感しやすい伝え方を心がけることです。

たとえば、会社の同僚・部下や自分の子どもがなにか成果を上げたとき、「すごいね」「よくできたね」と言っても、こちらの気持ちは意外なほど伝わらないものです。

これは日本人の特徴でもありますが、居心地の悪そうな顔で、「それほどでも……」「そんなそんな」とやや大げさに思えるほど謙遜されてしまうのがオチではないでしょうか。

「よくできたね」よりも「私は驚いたよ!」

そこで、相手が共感しやすい伝え方のポイントは、「私」を主語にして伝えることにあります。

先の「すごいね」「よくできたね」という伝え方は、相手をほめている、ポジティブな言葉ではあるのですが、じつはこれらは「相手」を主語にしているために、「私」が不在の、距離感を感じさせてしまう言い回しなのです。

もし、ぐっと距離を縮めたいと思ったら、ここで「私は、きみの頑張りには本当に驚いたよ!」などと、「私」を主語にして伝えてみましょう。すると、聞き手の心にあたたかく残るメッセージになります。

「私」を主語にすると社会的報酬として伝わる

かつてこの話し方を見事に使いこなした政治家が、小泉純一郎元首相です。

2001 年の夏場所で横綱・貴乃花に内閣総理大臣杯を授与したときのスピーチで、「痛みに耐えてよく頑張った! 感動した!」と話したことが広く知られていますが、これは典型的な「私」を主語にした伝え方です。

人は他人から認められ、評価されるとそれに応えたくなる性質があります。「私」を主語にした話し方は、「社会的報酬」として聞き手の脳にしっかり伝わり、まわりにいる人たちに感動を広げる力も秘めています。

「私」を主語にした話し方の重要性について語ってくれた中野信子さん

なにかのせいにしなければどんな悪い状況も打開できる

【POINT】人の悪口を言うべからず

すべての出来事を「自分の財産」に変える

「最近なんだかうまくいかない」「人間関係もいまいち」と悩む方がいたら、私ならひとことだけアドバイスをします。

それは「なにかのせいにしたり、誰かを悪く言ったりしても、事態がよくなることはない」ということ。悪口や愚痴を言うことで心が軽くなることもあるでしょうし、いくらでも言ってよいと思いますが、原因がそこにあるとしてしまうと、自分の力で改善できる余地がどこにもなくなってしまうのです。

すべての出来事には意味があるかもしれないし、ないかもしれない。けれども、せっかく起きた出来事であるのなら、それを自分の価値に変えることができるほうが得ではないでしょうか。

愚痴を言い合っても悩まされ続ける

うまくいかないことを、なにかのせいにするのは簡単です。似たような気持ちをもつ人が近くにいれば、悪口や愚痴を言い合って気持ちが晴れることもあるでしょう。

しかし、その悪い状況を変えることは、かえって難しくなってしまうかもしれません。翌日もまたその翌日も、同じ悩みに悩まされ続けることになってしまいかねません。いや、なにも手を打たないのだから、状況はより悪くなっていくことさえ想定されるでしょう。

状況を打開しようとする人にチャンスがめぐる

うまくいかないことをなにかのせいにする前に、まず、自分がなんとかできる要素がどこかにないものか、考えてみましょう

「じゃあ、どうすればいいのだろう?」「この最悪な状況でなんとかやれることはないだろうか?」と自分に問いかけてみるのです。

悪い状況や不運な出来事は、人を選んで起きているわけではありません。いつもうまくいくように見える人が、なにもせずにいい思いをしているとは限りません。誰にも見せないけれど、どうにか悪い状況を自分の力でなんとかできるように問題を分解したり、とらえ直したりしているのです。そこに秘密があります。

人の悪口を言ったりなにかのせいにしたりする前に、自ら状況を打開しようとする人のもとにこそ、新しいチャンスがめぐってくるのです。

理不尽なことをされたらはっきり文句を言う

これは、どんな場合でも我慢するべきだということを言いたいのではありません。

たとえば、相手に理不尽なことをされたときは、私なら直接文句を言うようにしています。自分の姿勢を明確にしなければ、身勝手な他者に、後々まで振り回されることがあるからです。

「私はあなたに搾取されません」というメッセージを伝える方法をいくつか用意しておき、いざというときにはいつでも使えるように準備しておきましょう。

※今コラムは、『賢くしなやかに生きる脳の使い方100』(宝島社)をアレンジしたものです。

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