いい人間関係を築ける人が実践している3つのこと。信頼を得る秘訣は「101%の成果」の積み重ね

にこやかに会話をしながら同僚といい関係を築いているビジネスパーソン

仕事についての悩みは尽きないものです。なかでも多くの人が抱えているのが、「人間関係に関わる悩み」ではないでしょうか。その解消に向けてはさまざまなアプローチがありますが、オンラインビジネススクール「やさしいビジネススクール」学長である経営学者・中川功一さんは、「行動経済学」が大いに役立つと語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子

【プロフィール】
中川 功一(なかがわ・こういち)
1982年生まれ。経営学者。やさしいビジネススクール学長。東京大学経済学博士。専門は、経営戦略論、イノベーション・マネジメント、国際経営。「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。近著に、『経営戦略 大事なところだけ事典』(日本実業出版社)、『一生使えるプレゼンの教科書』(東洋経済新報社)、『ザックリ経営学』(クロスメディア・パブリッシング)、『13歳からのMBA』(総合法令出版)、『今日から使える経営学』(大和書房)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

とにかく「笑顔」でいれば、人から好かれる

私が専門とする「行動経済学」は、従来の経済学に心理学を加え、人の購買行動などの経済活動がどのように成り立っているのかを研究する学問です。心理学の要素が加わっているため、行動経済学は人間関係の悩み解消にも力を発揮してくれます。

ここでは、よくある3つの人間関係の悩みに対して、行動経済学の観点から解消法を提示してみましょう。最初の悩みは以下のようなものです。

職場でなんだか自分は好かれていない気がする。同僚の〇〇さんのまわりにはいつも人が集まっているのに……。自分ももっと好かれたい。

結論から言うと、とにかくデフォルトとして「笑顔でいる」ことに尽きます。「人は第一印象が大事だ」という話はむかしからありますが、出会って最初の5分間ほどの印象は非常に強力であり、私たちは瞬間的に好き嫌いを判断しています。これを、専門的には「初頭効果」と言います。

なにがいいのか悪いのかといった理由は、そのほとんどが後づけです。バッグを買うのでも、「これは国産の帆布を使っているから」「職人の手仕事だから」というのは後づけであり、買うかどうかの判断は最初の印象でほぼ決まっています。

ですから、まずなによりも笑顔でいることに尽きるのです。加えて、挑発的な言葉遣いではなくジェントルな言葉を使う、TPOに合った服装を心がけるといったことも意識しておけば、人から嫌われる可能性は大きく低下します。

笑顔でいれば人から好かれることについて語る中川功一さん

信頼を勝ち得るには、101%の成果を挙げ続ける

続いての悩みは以下のような内容です。

上司は自分のことを信頼していないのでは? 同僚からもあまり頼られていない気がする。もっと信頼される人になりたい。

信頼という概念については、科学的な解明がかなり進んでいます。それらの研究では、信頼は大きくふたつの種類から成り立っているとされています。ひとつがその人のできることである「Can」に対する信頼、もうひとつがその人が正しく行動してくれるだろうという「Do」に対する信頼です。

また、信頼とは蓄積されていく概念だとされています。つまり、一度だけ正しく行動をしたとしても信頼は簡単には得られません。

なんらかの成果を挙げた人が、自治体から招聘されて地方創生のリーダーを任されたようなケースで、なかなか成果につながらないのもよくある話です。ただ、多くの場合、リーダー自身やその地域が悪いわけではなく、外部からやってきたリーダーにチーム内での信頼貯金がないことが原因です。信頼が足りませんから、チームのメンバーが「この人のために!」と精力的に動いてくれることもありません。そうして、なかなか成果を挙げられないのです。

ですから、信頼を勝ち取ろうと思うのなら、長期的な視点をもってとにかくコツコツと信頼貯金を積み上げていくしかありません。

意識してほしいのは、組織のなかで期待される「Can」と「Do」に対して、101%とか102%くらいの成果を挙げ続けていくことです。200%のような大きな成果を挙げる必要はありません。101%でかまいませんから、「この人はいつもきちんと期待以上の仕事をしてくれる」と周囲に思わせ続けることができれば、着実に信頼貯金は積み上がっていきます。

信頼を勝ち取るには、101%の成果を挙げ続けることについて語る中川功一さん

対話を通じて、苦手な相手の「認知」を知る

最後にとり上げるのは、以下のような悩みです。

どうしても苦手な相手が同じ職場にいて、一緒に仕事をするのが苦痛。この人とはうまくやっていける気がしない……。どうすれば苦手な人とでも働きやすくなるのだろう?

行動経済学から見た職場におけるコンフリクト(Conflict=衝突)は、2種類に分けられます。ひとつが、「あいつのことが嫌いだ」「あの人は人間的に信用できない」「鼻持ちならない」といった情緒的なコンフリクトです。単純に、「嫌い」ということです。

そして、もうひとつが認知のコンフリクトというもの。これは、仕事のやり方や仕事のゴールに対するとらえ方の違いから生まれるコンフリクトを意味します。そして、職場におけるコンフリクトは、往々にしてこの認知のコンフリクトです。

「仕事のゴールに対する認識が違う」「仕事のやり方の認識が違う」「直面している課題などの現状認識が違う」といったことが、「どうしてあの人はああなのだろう?」と、相手と自分の不理解を産んでいることがもっぱらなのです。

ところが、私たちの脳はそうは考えません。「仕事に対してああいう考え方をする人間は許せない」といったふうに、認知のコンフリクトを情緒的なコンフリクトだと誤解しがちなのです。

でも、本来は仕事に対する考え方の違いに過ぎません。そこで大切となるのは、対話です。対話を通じて、「この人は職務をこう認識しているのか」「ゴールに達するためにこういうことが重要だと考えているのか」とお互いの認知を知るのです。

どちらかが正解といったことはありませんから、意見を一致させる必要もありません。人間には、本能的に「知らないものを嫌う」傾向があります。そのため、「ああ、この人はこういう考え方をしているのだな」とわかるだけでも、相手に対する苦手意識というものは大きく軽減されるのです。

いい人間関係を築ける人が実践している3つのことについてお話しくださった中川功一さん

【中川功一さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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