努力が報われなくて自己嫌悪に陥ったときに確認したいこと。「努力の方法、間違ってない?」

正しい努力の方法について語ってくれた中野信子さん

仕事や勉強などに取り組んでいても、努力がなかなか結果に結びつかず、自己嫌悪に陥ってしまうことは誰にでもあることかもしれません。しかし、脳科学者の中野信子さんによると、そんな「自分が嫌い!」という嫌な気持ちは、学習のためのフィードバックシステムとなり、人間が成長していくために欠かせない大切な感情なのだそうです。

嫌な気持ちをうまく活かして、ストレスを適切にコントロールしながら成長へと進んでいける、「正しい努力」の方法を聞きました。

構成/岩川悟、辻本圭介 写真/川しまゆうこ

【プロフィール】
中野信子(なかの・のぶこ)
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学教授として教鞭を執るほか、脳科学や心理学の知見を活かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行なっている。著書に、『サイコパス』『不倫』(ともに文藝春秋)、『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)、『脳の闇』(新潮社)などがある。

自信過剰な人よりも自己嫌悪に陥る人が成長する

【POINT】「自分が嫌い!」は役に立つ

「嫌な気持ち」によって自分の不足に気づく

自分に自信をもち、肯定的に生きようと思っても、過去の自分の言動を思い出して「どうしてあんなことをしたのだろう」と悔やんだり、「なぜ人前でうまく振る舞えないんだろう」と落ち込んだりすることもあるでしょう。

そんな自分の性格に悩んで「自己嫌悪」に陥ることもあるかもしれませんが、私はこのときの「嫌な気持ち」がなければ、人は成長できないと考えています。
 
なぜなら単純に、「嫌な気持ち」によって自分の足りないところに気づかなければ、そんな自分をいつまでも直すことはできないからです。

「自己嫌悪」は学習のためのフィードバックシステム

自分について悩むことは、学習のための「フィードバックシステム」と言えます。まわりの世界により適応できるように、人間に学習させるための仕組みのひとつなのです。

「こんな自分は嫌!」「あんな思いは二度としたくない!」と思わせて、強い力で学習させる仕組みであるからこそ、人は嫌な感情に包まれるわけです。

もちろん、嫌な感情をあまりに積もらせると心が疲れてしまいますが、極端でなければ、自己嫌悪に陥るのはむしろ正常なことです。

私は、自己嫌悪に陥りながらも進んでいける人のほうが、自信過剰な人よりもよほど成長する可能性が高いと見ています。

フィードバックを受け止めれば成長できる

努力が報われなくて自己嫌悪に陥る場合もあるでしょう。

そんなときは、できない自分をおかしいと考えるのではなく、「努力の方法が間違っている」可能性を考えてみてください。他人からのフィードバックがあったら、つらいかもしれないけれど、それを受け止めて修正していくしかありません。

それこそが学習であり、人間が得意とする能力のひとつなのです。

自己嫌悪に陥る人が成長することについて語る中野信子さん

うまくいく「やり方」を知れば苦手なこともできるようになる

【POINT】正しい情報を探してみよう

できないのは「メンタルブロック」があるから

よく特定の物事に対する結果だけをもって、「できる人(子)」「できない人(子)」と判断されることがあります。ですが、私は本質的に、その両者の能力にはさほど大きな差はないと考えています。

ならばどこに差があるのかというと、「メンタルブロック」にあると見ています。

「できない人(子)」は、「私はできない」というネガティブな思い込みがあるために、うまく行動できないことがあるのです。

うまくいく「やり方」を見つける

でも、たいていの物事にはうまくいく「やり方」があり、その情報を得ることが、「できないことをできるようにする」ポイントになります

かく言う私も、もともと水泳が苦手でしたが、いまではスキューバダイビングを趣味にしています。どうしたかというと、ひとりでプールに行き、YouTube の水泳のコーチング動画を観ながら、そのとおりに体を動かす練習をしたのです。

すると続けるうちに、うまく泳げなかった私でも少しずつ泳ぐコツがわかるようになりました。

要するに、学校では正しい泳ぎ方を教えてはくれず、時には「気合だ!」などと言われて……なにをどうすればいいかがよくわからないだけだったのです。

みんなが気づいていない情報に気づく力

このように、「できるか・できないか」は、「知っているか・知っていないか」の差に過ぎないことがよくあります。

そのためには、「みんなが気づいていないことに気づく力」も大切です。先の例では、当時まだスマホがない時代に、YouTube を活用することに気づくことが大切になるわけです。

さもなければ、「とにかく何度も泳げばいい」「努力が足りないのかもしれない」という精神論になってしまいます。

できないことをできるようになるには、まず正確な情報(やり方)を見つけ、効率的に習得することが大きなポイントになるのです。

「適切なストレス」がなければやる気がなくなり不調になる

【POINT】自らストレスを管理しよう

ストレスがたまるのはやっぱりよくない

なにかに対して努力するプロセスにおいて、不安や妬みなどの「嫌な気持ち」を普段からずっと感じていると、おのずとストレスがたまっていきます。

そうしたストレスは、自身の健康や適切なパフォーマンスを維持するうえでの障害になるため、なるべく避けなければなりません。

やはり無用なストレスは必要なく、極力自分にストレスがかかりすぎないようにしなければ、よいパフォーマンスを出すことはできないのです。

ストレスによってパフォーマンスが上がる

ですが、逆にストレスがなさすぎても「やる気」を出すことはできません。心理学者のロバート・ヤーキーズとJ.D.ドットソンが発見した「ヤーキーズ・ドットソンの法則」と呼ばれるものがあります。

ラットを用いた実験により、ある一定の罰(ストレス)を与えたラットのほうが、罰を与えていないラットよりも作業効率が高まることがあきらかになっているのです。

これを人間に置き換えて考えると、適切なストレスとなりうるレベルの「目標」や、頑張ればできるくらいの具体的な「締め切り」などを設定することで、人の力を最大限に引き出すことができると言うこともできるでしょう。

目標や締め切りで「適切なストレス」を与える

そこで、いまなにをするにもやる気が起きなかったり、思うような生活ができなかったりして悩んでいる人は、自分に「適切なストレス」がかかっているかをチェックしてみてください。

自分の本当の気持ちというものは客観視するのが案外難しく、わからなくても生活自体に支障はないため、なんとなく日々を過ごしてしまっている場合があります。

そんなときは、無理にやる気を出そうと頑張っても逆効果です。そうではなく、外部から少し緊張感(目標や締め切りなど)を設定すれば、不調を脱して前へ進んでいくきっかけをつくることができるでしょう。

自分に適切なストレスをかけることが不調を脱するきっかけとなることを語ってくれた中野信子さん

困難な状況を乗り越えるとき人は成長する

【POINT】「ちょっと大変」がちょうどいい

「なんとかなるだろう」くらいが適切なストレス

では、いったいどの程度のストレスが「適切」と言えるのでしょう? これもそれぞれ個人差があるため一概には言えませんが、目安はあります。

それは、「自分には少し大変だけど、まぁなんとかなるだろう」という程度のストレスレベルです。

自分にとっての、「適切なストレス」のレベルを知っておくことは大切です。なぜなら、無理をしすぎて頑張っていても、結局は心身の健康を損なったり、燃え尽き症候群になったりする場合があるからです。

「適切なストレス」によって脳は成長する

人間の体は、基本的に安定した状態を保とうとします。それを「恒常性(ホメオスタシス)」といいます。

体温や血圧の維持はいうに及ばず、たとえば病原菌やウイルスが体内に侵入すると、それと闘うために免疫細胞が活発化して、排除し始めます。

また、「適切なストレス」がかかると、脳は「シナプス(※ニューロン間の接合部)」をつくり始めます。つまり、自分にとって困難な状況に立ち向かい、それを乗り越えていくときにこそ人は成長するのです。

普段から我が身を「適切なストレス」にさらしていれば、いい練習にもなるし、いざというときに力を出し切れる人になれるはずです。

毎日少しずつストレスレベルを上げていく

ストレスのレベルは、少しずつ上げていくことがポイントです。運動なら、今週毎日15 分走ったのなら、来週は5分だけ増やして20分走ってみましょう。勉強ならば、今日5つ英単語を覚えたのなら、明日は1つだけ増やして新しく6つの英単語を覚えていくという具合です。

そのように小さく始めて、こつこつ続けていくことで、無理なくストレスレベルを上げていくことができます。

※今コラムは、『賢くしなやかに生きる脳の使い方100』(宝島社)をアレンジしたものです。

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