「自分は内向的な人間だ、だから仕事ができない」——そんなふうに考えている人はいませんか? たしかに、多くの人と関わりながら仕事を進めるビジネスパーソンにとっては、外向的であることはひとつの能力と言えるかもしれません。
しかし、「内向的だから仕事ができない」というのは単なる思い込みだと指摘するのは、自身の経験をもとに内向型の人のキャリア支援やリーダーシップ開発のために国際的に活躍している、『「静かな人」の戦略書』(ダイヤモンド社)著者のジル・チャンさん。その思い込みを払拭する方法を解説してくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
ジル・チャン(Jill Chang)
台湾出身。ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。ハーバード・シード・フォー・ソーシャル・イノベーション、フェロー。アメリカの非営利団体でフィランソロピー・アドバイザーを務める。過去2年間で行なったスピーチは200回以上に及ぶ。15年以上にわたり、アメリカ州政府やメジャーリーグなど、さまざまな業界で活躍してきた。2018年、ガールズ・イン・テック台湾40アンダー40受賞。本書は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、米ベレットコーラー社が28年の歴史で初めて翻訳刊行する作品となり、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出されるなど話題となっている。現在は母国の台湾・台北市に拠点を置きながら、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発のため国際的に活躍している。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
他人からの自分に対する思い込みを払拭する
人間と思い込みは切っても切れないものです。どんな人も、それぞれになんらかの思い込みをもっています。内向型の人の多くは、たとえば「私は内向型だから仕事ができない」といった、自分自身に対する思い込みをもっています。あるいは、「この人はおとなしすぎるから、仕事の出来にはあまり期待しないほうがいいな」といった、上司や同僚など他人からの思い込みもあるかもしれません。
もちろん、そんな思い込みは払拭していかなければ、仕事においていいパフォーマンスを発揮することが難しくなります。思い込みが自分自身を縛り、本来であれば発揮できるはずのパフォーマンスが抑えられてしまうこともあるからです。
他人からの自分に対する思い込みを払拭するには、2段階あると考えます。最初の段階は、マネージャーやスーパーバイザーといった層の人たちに、「人にはいろいろな性格があり、物静かであることは能力がないこととイコールではない」と知ってもらうことです。
自らマネージャー層に働きかけることは、内向型の人にとっては簡単ではないかもしれません。でも、それをすることは、マネージャー層からしても「チームのメンバーそれぞれの性格を活かしてよりよいマネジメントをしていく」ことの重要性に気づかされるいいきっかけにもなりえます。こう考えると、マネージャー層への働きかけに対するハードルは、少なからず下がるのではないでしょうか。
そして、次の段階は、「内向型の人自身が、自分ができることを周囲にアピールしていく」ことです。内向型の人は、その性格のためにまわりの人から気づいてもらうことを期待しがちです。でも、周囲がこうした期待通りに勝手に気づいてくれることなど、そうはないと考えましょう。仕事で正当に評価されたいと思うのなら、「外向型の人とはやり方は違うけれども、こうすればこんなことができる」というふうに自らアピールしていくことも大切なのです。
内向型の自分に合ったアプローチを探す
一方、自分自身に対する思い込みに関しては、まさに自分自身で払拭していくしかありません。私自身ももともと内向型ゆえに、自分を過小評価していたタイプでした。社会全体に「外向型のほうがいい」という見方があり、「外向型になることこそが成功のための唯一の道だ」といった認識が広まっているからなのでしょう。自分に対しても、そんな観点から評価をしてしまっていたのです。
しかし、多くの経験を積むなかでその思い込みはなくなりました。内向型の人と外向型の人は、それこそタイプが違います。タイプが違うのであれば、それぞれにもっている武器やツール、簡単に言うと強みが違うのです。ですから、内向型の人は外向型の人がもっている武器をうらやむのではなく、自分がもっている強みを最大限に発揮する方法を見つけることを考えればいいだけなのです。
物事を成し遂げるためのアプローチはひとつではありません。外向型の人に合ったアプローチもあれば、内向型の人に合ったアプローチもあります。問題は、自分に合ったアプローチを見つけられるかどうかというだけです。
そういう意味では、外向型の人と内向型の人は対等だとも言えます。その気づきが、自分自身に対する思い込みを払拭してくれるでしょう。
問題の解決策を明白にして、成功体験を積み重ねる
また、内向型の人は、ある悪循環に陥りがちだという点には注意が必要です。先のような方法でうまく思い込みを払拭できればいいのですが、そうできなかった場合にこの悪循環に陥ってしまうのです。
何度も言うようですが、内向型の人は、どうしても「自分は内向型だから仕事ができない」と考えてしまいがちです。「自分にはできない」と思うから自信をもてない。自信をもてていないからうまく仕事ができない。その結果、「自分は内向型だから仕事ができない」という思い込みをさらに強めてしまう悪循環に陥るのです。
この悪循環から抜け出すための鍵となるのは、「成功体験」です。そこで、まずは自分が内向型であるがゆえに困っていることや苦労していること、そして、それらが生まれている理由を探ってみてください。
内向型であるがゆえに担当業務に苦労しているのなら、その理由は上司にあるのかもしれませんし、必要なスキルが足りないことや、あるいは仕事そのものの性質かもしれません。そういった理由をきちんと見据えることが大切です。なぜなら、内向型の人は、「困っていることがあるのは内向型だから」と単純に自分の性格と結びつけて考えてしまいがちだからです。
でも、そこで一歩下がって、「なぜ思うようにできないのか、大変に感じるのか」という理由を探ってみる。そうすることで、自分の性格を無理に変えるというのではない、解決策が見えてくるはずです。
そして、解決策さえ見つかればあとはそれを実践するだけ。やるべきことが明白になりますから、それだけ成功する可能性も高いでしょう。そのようにして成功体験を積み重ねていくことで、先の悪循環から抜け出すことができるはずです。
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