「誰かのために」で「自分が大儲け」の科学的根拠。優しくすると脳が “自然に” 鍛えられる!?

自分が犠牲になって人を助けているイラスト

誰かのために何かすることを「時間のロス」だと考える人と、「その人が困っているなら当然のことだ」と考える人がいます。どちらがお得かと言えば、だんぜん後者がお得なのだとか。

親切で正直な生き方を “損するだけ” と揶揄されモヤモヤしていませんか? たとえあなたが無欲でも、損が嫌いで非協力的な人を説破する際に役立つはずです。「誰かのために」で「自分が大儲け」の脳科学的・心理学的理由を説明しましょう。

向社会的行動について

金品・優遇・感謝の言葉といった “報酬” を期待することなく、自らの意思で他者のために何かすることを「向社会的行動」と言います。また、自分の損失をかえりみず他者の利益を図ることを「利他的な行動」と言います。逆に、社会規範から外れた行動が「反社会的行動」で、自分の利益だけを追求し、他者の利益を軽視するのが「利己的な行動」です。

東北学院大学教養学部准教授の金井嘉宏氏によると、「向社会的・利他的な行動や考え方」は、共感性や注意のコントロールに関わる脳領域を活性化させるほか、脳内物質のオキシトシンの発生にもつながるそうです。

オキシトシンについては2015年に、東邦大学名誉教授の有田秀穂氏がストレスを緩和する事実とメカニズムについて説明しています(「スキンシップと団欒はオキシトシンを介してストレスを解消させる:会長講演, 第39回生命情報科学シンポジウム」より)。

でも、じつはそれだけじゃありません。「向社会的・利他的な行動や考え方」は、きわめて重要な脳の領域にある「腹内側前頭前野(以下、VMPFC)」も活性化してくれるのだとか。VMPFCに関する研究とともに、なぜ「誰かのために」で「自分が大儲け」するのか説明しましょう。

利己主義(Egoisme)よりも利他主義(Altruisme)のほうが重みがある様子を示した画像

1.「誰かのために」でパフォーマンスアップ

たとえば「これに成功したらほめられる、給料が上がる、人気者になる」など報酬を期待して興奮すると、仕事のパフォーマンスが下がってしまう可能性があるのだとか。しかし、前出のVMPFCが感情の中枢である脳の「扁桃体」の興奮を抑えてくれると、課題遂行のパフォーマンスが高まるそうです。

2019年に高知工科大学、米国ラトガース大学、名古屋大学、情報通信研究機構の共同研究グループが参加者を集め課題に取り組んでもらい、fMRI(磁気共鳴機能画像法)を用いて検証したところ、失敗する場合には扁桃体などの活動が見られた一方、成功する場合には、VMPFCが扁桃体の興奮を抑制していたとのこと。

VMPFCから扁桃体への情報伝達が強い人ほど、課題の平均的な成績がよいこともわかったそうです。つまり、VMPFCを活性化する「向社会的・利他的な行動や考え方」は、仕事のパフォーマンス向上にもつながるわけです。

人間の脳

2.「誰かのために」でしっかり相性予想

相性に関わる研究にもVMPFCは登場します。

他者を見たとき、私たちの脳は自動的に「その人をどれくらい好みと感じているか(印象判断)」といった情報を処理しているのだとか。高知工科大学フューチャー・デザイン研究所講師の伊藤文人氏らによる最新研究によれば、「相手から、自分がどれくらい好かれそうか(印象予想)」といったことも、同じように意図せず考えているそうです(※John Wiley&Sonsが発行する『Human Brain Mapping』に2020年8月1日に掲載)。

そして、相手の情報が限られているときの印象予想は、印象判断に基づき、VMPFCで行なわれているとのこと。

仕事ではよく知らない人と関わることが多々あります。相性を予想しながら、臨機応変に対応することも必要でしょう。だからこそ、VMPFCを活性化してくれる「向社会的・利他的な行動や考え方」が自分にも役立つのです。

商談中のビジネスパーソン

3.「誰かのために」で生き残れる!?

もうひとつ、認知的焦点化理論について説明しましょう。内閣官房参与の経歴をもつ、京都大学大学院教授の藤井聡氏が主張した心理学理論です。タテの「時間軸」と、ヨコの社会的・心理的距離で示されます。

認知的焦点化理論の図解
※『PRESIDENT Online| 解明! 運がない人は、なぜ運がないのか 』内の図を参考に筆者作成)

上の図で言うと、配慮の範囲が「他人や社会の将来」まで及ぶ人が「利他主義者」で、配慮の範囲が「家族や恋人、自分の将来」までしか及ばない人が「利己主義者」ということになります。そこから藤井氏の研究が導き出した結論は、利他的な人ほど「得」が増え、利己的な人ほど「損」が増えるというものでした。

たとえば、新しい学問の進化心理学では、人類は協力し合うことで進化を遂げてきたと考えられているそう。みなが裏切り続けると無秩序な社会になりますが、協力し合う人が多ければ、穏やかで平和な社会になります。だからこそ、裏切りが多い部族より、協力し合える部族が生き残ってきたのだとか。

また、藤井氏によれば、人間には「悪者・裏切り者」検知能力なるものが備わっているそう。「なんかあの人怪しい……」という、あの感覚です。秩序ある社会を守り、生き残るために、私たちは潜在意識のなかで常に目を光らせているわけ。だから非協力的な人の周囲からは、どんどん人がいなくなってしまいます。

つまり、誰かに協力するほど、進化し、優位になり、生き残れるということです。

***
「誰かのために」で「自分が大儲け」の脳科学的・心理学的理由を説明しました。親切で正直なあなたは恐縮するかもしれませんが、最後に得をするのはきっとあなたです。

(参考)
高知工科大学|他者からの印象を予想する脳の部位を解明 −他者に対する印象が予想に重要な役割− ( プレスリリース)
竹村和久・高木修(1987),「向社会的行動の動機と内的・外的統制志向性」, 教育心理学研究, 35巻, 1号, pp. 26-32.
公益社団法人 日本心理学会|社交不安症の認知行動療法と 神経科学
大学ジャーナルオンライン|興奮や緊張を制御してパフォーマンス向上 脳内メカニズムを解明
ScienceDirect|Ventromedial prefrontal cortex contributes to performance success by controlling reward-driven arousal representation in amygdala
有田秀穂(2015),「スキンシップと団欒はオキシトシンを介してストレスを解消させる:会長講演, 第39回生命情報科学シンポジウム」, 国際生命情報科学会誌, 33巻, 1号, p.96.
STUDY HACKER|“自分勝手なあの人” が結局損してる科学的理由。「他人に優しい人」が最後には得する。
PRESIDENT Online|解明! 運がない人は、なぜ運がないのか

【ライタープロフィール】
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