インターネットや携帯電話がなかった時代に比べ、いまの仕事には「質」はもちろん、「スピード」が強く求められるようになってきました。どんなに質が高くても、スピードを伴わない仕事をしていては、顧客が満足してくれることはないでしょう。
限られた時間をどう使えば、最大限に仕事のスピードを上げられるのでしょうか。コンセプトクリエイターという枠を超えてさまざまな事業で活躍し、多忙な毎日を送る小山龍介(こやま・りゅうすけ)さんに、生産効率を劇的に上げるための時間の使い方を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子
空き時間を徹底的に生かす「15分仕事術」
とにかく「スピード」が求められる時代のなか、社会人としてまず考えなければならないのは、いかにして仕事の効率を上げるかということ。そのために僕が提唱しているのが「15分仕事術」です。
「朝飯前」という言葉がありますよね? 「朝飯前の仕事」というと、何分くらいのものだと思いますか? 朝食の前にささっと片づけられる仕事ですから、1時間や30分はちょっと長い。人にもよるでしょうけど、僕はこれが15分だと思うのです。
この15分単位の時間をどう使うかということが仕事の効率アップには重要です。5分後に打ち合わせがスタートするとしましょう。その5分で別の仕事に取り掛かる人はほとんどいません。ただ、30分後だったら多くの人が別の仕事をするはずです。
では、15分後だったら……? 別の仕事をするか、あるいは仕事をあきらめて打ち合わせまで待つかの瀬戸際といえる時間ではないでしょうか。いつも迷った揚げ句になにもしていなかった15分の空き時間——この時間を有効に使えるようになると、生産性を飛躍的に上げることができます。これが「15分仕事術」です。
15分という時間でひとつの仕事をこなすには、トレーニングが必要です。ブロガーと呼ばれる人たちは、日頃のトレーニングによってブログの記事1本を15分で書くことができます。その積み重ねが月に何十本もの記事のアウトプットにつながる。そう考えると、15分の空き時間はものすごく貴重なものなのです。ぜひ、自分が15分でできることをどんどん増やしていってください。
また、この15分という時間はスマホなどモバイル端末でする仕事にも向いています。スマホで1時間も仕事をするのはさすがにしんどいですよね。でも、15分だったらメールの返信などちょっとした仕事を片づけられます。電車での移動中などに音楽を聴いたりゲームをしたりするのもいいですが、貴重な15分を最大限に生かすことを考えてみるといいと思います。
仕事の「初期」に頑張れば質もスピードも上がる
また、仕事の質もスピードも上げるためには、「フロントローディング」という考え方が有効です。これは、「仕事の初期段階に負荷をかける」というもの。
ある仕事の締め切りが1カ月後だとして、だいたい最初はだらだらとほとんど進めず、締め切りまで2週間を切ってからちょっと危機感を持ち、残り1週間で追い込んでやる……。こういうパターンが多いのではないでしょうか。この場合の作業負荷というのは右肩上がりで、締め切りが近づくほどしんどくなってくる。
そうではなくて、仕事の初期段階でひと頑張りするのです。記事を執筆するのであれば、依頼を受けてすぐに項目を出したり構成を練ったりということをやっておく。その後は、しばらく寝かせてOKです。その間も不思議と頭のなかにそれらが残っているばかりか、ふといろいろなアイデアが出てくるものなのです。それらを書き留めておいて、最後の1週間は一気に仕上げる。
フロントローディングをしないのか、あるいはするのかによって、どんな違いが出るのか。それはアウトプットされたものの質です。前者はそれこそ「やっつけ仕事」。一方、後者の場合は寝かせている間に「熟成」されたものがきちんと出てくる。そのため、追い込みの時期の作業負荷は前者に比べて低く、スピードは早くなるという効果もあります。
バッファーの時間を使った「信頼貯金」がピンチを救う
フロントローディングしたうえでですが、最終の仕上げは直前におこないます。僕の場合、当日の打ち合わせのための資料は当日の朝につくることにしています。自分にプレッシャーをかけて、いわゆる「締め切り効果」を利用するのです。前日にやろうとすると、翌日までに時間があるからとだらけてしまいがちで、非効率なのです。
ただ、前日になにもしないわけではありません。「こういうものをつくろう」と資料の構想を練りながら寝る。つまり、寝ている間に「熟成」させるわけです。そして、打ち合わせの当日の朝、緊張感を持って資料作成に臨むのです。
この手法を使うには、経験を積んで、「これくらいのことならこの時間でできる」と、時間的なメドが見えるようになる必要があります。剣術でいえば、どんなに相手が剣を振り回しても、それが絶対に自分に届かないと見切っているような状態です。緊張感を持ちつつも、本当にまずい状態にはならないという自信を持てているということですね。
とはいえ、本当に間に合わなかった場合に備えて、「ごめんなさい」で許されるような愛嬌を持つことも心がけています(笑)。そういう意味では、時間的なバッファーの使い方も重要でしょうね。自分の仕事がスムーズに進んで、バッファーとしていた時間が残ったとしましょう。それを、周囲の人を助けることに使うのです。
これは「貯金」になる。なんの貯金かというと「信頼」の貯金です。時間も睡眠も貯金することはできませんが、信頼は貯金できるもの。バッファーを使って信頼を貯金しておけば、ピンチに陥ったときにはまわりの人に助けてもらうということもあるでしょう。そういう視点での時間の使い方も含め、タイムマネジメントと考えてみてはどうでしょうか。
【小山龍介さん ほかのインタビュー記事はこちら】 同じ情報から「1しか得られない人」と「10も得られる人」は何が違うのか? 行動力がない人に足りないのは「アドリブ」のスキルだった。
【プロフィール】 小山龍介(こやま・りゅうすけ) 1975年5月2日生まれ、福岡県出身。コンセプトクリエイター、フォトグラファー。名古屋商科大学大学院マネジメント研究科准教授。1998年、京都大学文学部哲学科美学美術史卒業後、東急エージェンシーに入社。2002年、サンダーバード国際経営大学院に入学し、2004年にMBAを取得。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、代表取締役に就任。「ビジネスモデルイノベーション」「21世紀の仕事術ライフハック」「アート思考とデザイン思考」をテーマに、広告プロデューサーとしての枠を超えて新規事業、新商品等の企画立案に携わりながら、『今日から行動力を一気に高める本 自分を効率的に動かす「やる気」マネジメント』(三笠書房)、『片づけHACKS! がんばらないで成果が上がる「場を整える」コツと習慣』(東洋経済新報社)など、数多くの著書を手がける。
【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。