世のなかには、フットワークが軽い人、いわゆる「行動力」にあふれた人がいます。また、行動を維持する力や、行動を起こすモチベーションを高める力も、行動力に含まれるものでしょう。
ビジネスの場において、行動力は大きな武器となります。新商品・新規事業開発から地域活性化まで広くカバーするコンセプトクリエイターでありながら、その枠を軽やかに超えてさまざまな事業で活躍する小山龍介(こやま・りゅうすけ)さんは、どのようにその行動力を高めているのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子
世のなかで起きているものごとに即興的にリアクションする
行動力がないと感じている人にまずアドバイスできるとしたら、「リアクション芸人になれ」ということですね。リアクション芸人はご存じですよね? 自分からなにか働きかけていこうとしたらハードルは高くなりますが、リアクションならやりやすい。テレビなどに出演するにも、芸人の多くは、いきなり面白いことをいおうとするよりも、まずはリアクションを磨くことからスタートします。
それと同じことが一般社会にもあてはまるはずです。自分からなにかを起こすには、かなりのエネルギー、モチベーションが必要です。でも、起こったことに大げさに驚いていくとか、大げさに受け止めるということなら比較的ラクな部類に入る。そんなところからはじめていくのはどうでしょうか。
そのリアクションに創造性を加えることのヒントになるのが、「即興劇」です。即興劇とは、脚本がない演劇のこと。ステージに上がった数人の俳優が、まさに即興でストーリーをつくっていくものです。脚本がないので、その場で起こっている出来事をきっかけに、物語を創造しなければなりません。つまり、どんな小さなヒントからでも発想を広げていく必要があるのです。そのトレーニングとして、「イエス・アンド」というものがあります。
ひとりの俳優が、「あ、雨が降ってきた」と傘を差すアクションをしたとしましょう。そのときに、別の俳優が「いや、雨なんか降ってないよ」というリアクションをしてしまったらどうでしょうか。その場でストーリーは終わってしまいますよね。
そうではなくて、起こっている出来事を「イエス」で受け入れて、「アンド」で次のアクションを起こすのです。「あ、雨が降ってきた」というアクションがあったのなら、それを受け入れて、別の俳優はかばんで雨をよけながら走るとか、軒下で雨宿りをする演技をする。それが「イエス・アンド」です。
このトレーニングを日常に取り込むのです。これができるようになると、どんな状況からでも新しいアイデアを生み出すことができるようになります。これは、じつはなにもおかしなことではありません。なぜなら、世のなかで起こっていることというのは全部即興ともいえるからです。いまこの世界は、誰かが書いたシナリオに沿って進んでいるわけではありません。陰謀説というものもありますが(笑)、多少はそういう側面があったとしても、世のなかの出来事はやっぱり偶然が重なって起こっているものでしょう。
その偶然をいかに生かしていくか、それが重要だと思うのです。偶然を受け入れて、ポジティブに生かしていくことができる人は、世のなかの即興劇を楽しみながらどんどんいろいろなアクションを起こすことができる、つまり行動力がある人なのです。
一方で、自分が決めたストーリーにこだわり過ぎてしまうとどうでしょうか。きっと、予期せぬことが起きるたびに、「あれもうまくいかない、これもうまくいかない」と袋小路にはまって、結局は身動きできなくなってしまうでしょう。先の読めないいまの時代においては、即興的に判断し、行動することが求められているのです。
つねに行動し続けるため「打ち手」を増やす選択をする
また、行動力を維持するには、行動の「打ち手」を増やしておくことも重要です。オセロの戦略のなかには、自分の石を打てる場所が増える手を選ぶ、というセオリーがあります。自分の石を打てる場所が5カ所ある状況である手を打ち、相手が打った後に自分の打てる場所が7カ所に増えた。これは、いい手だったということです。逆に、打てる場所がどんどん減って、最終的に1カ所になってしまったら、これは完全に負け戦です。
つまり、自分のオプションを増やすような手を打つというのが大原則。これをビジネスにあてはめると、いろいろなことにチャレンジをして「あんなこともこんなこともできる」というふうに、自分の打ち手を増やす、幅を広げるということです。しかも、ひとつのことにチャレンジして増える手はそのひとつではありません。普通は、ひとつのチャレンジによって、それに付随する手がいくつも増えるのです。
いま、企業に勤めながらも副業をしているという人も少なくないでしょう。賢明なことだと思います。先の予測ができない時代にあって、ひとむかし前と同じようにひとつの会社のひとつのキャリアにしがみつくのはすごく危険なことだからです。自分の将来に対して本当に安心できるようになるには、いろいろなオプションがある状態をつねに維持する必要があるのです。
日々の「小さな成長」に気づきモチベーションを維持する
こうしたオプションを増やすのは、若いうちがいいでしょう。僕は広告代理店に勤めていたときにビジネススクールに通うことにしました。マーケティングの領域だけにとどまるのではなく、新規事業開発などビジネス全体に自分の専門分野を広げたいと考えたのです。そうしてMBAを取得し、その後、活動の幅が格段に広がりました。いまではビジネススクールで教鞭を執るまでになりました。
MBAを取得するために、機会損失も含めて1000万円が必要だとしましょう。その後、30年のキャリアがあれば、1年あたりわずか30万円ほどの投資額に過ぎず、確実に投資を回収できると計算が立ちます。でも、行動を起こすのが遅かったがために20年のキャリアしか残されていなければ1年あたり50万円、10年なら1年あたり100万円となる。どんどん回収のハードルが上がってしまうのです。そういう意味で、若い頃こそやりたいことを先延ばしすることなく、特に大胆に行動するべきだと思います。
一方で、そうやって新しいことに取り組めば取り組むほど、自分の力不足を実感して、自信をなくしてしまうこともあります。世のなかにはすごい人がいっぱいいますからね。ビジネススクールで教えていても、「自分はまだまだだ」と思っている人が多いと感じます。そういう人は、モチベーションを維持するために「日々の小さな成長」に気づくようにするといいと思います。
僕はあるときから楽器をはじめたのですが、これがなかなか上達しない(笑)。1カ月前と比べても、全然うまくなった気がしないのです。でも、5年前に比べると、ずいぶん上達している。長い目で見れば、少しずつではあるけれど、着実に成長していることを認識できるのです。あきらめることなく行動し続けるため、自分の成長、進化を実感するように心がけてみてください。将来、きっと大きく花開くときがくるはずです。
【小山龍介さん ほかのインタビュー記事はこちら】 同じ情報から「1しか得られない人」と「10も得られる人」は何が違うのか? 微妙な “15分の空き時間” をどう使うかで仕事の生産性は決まる。
【プロフィール】 小山龍介(こやま・りゅうすけ) 1975年5月2日生まれ、福岡県出身。コンセプトクリエイター、フォトグラファー。名古屋商科大学大学院マネジメント研究科准教授。1998年、京都大学文学部哲学科美学美術史卒業後、東急エージェンシーに入社。2002年、サンダーバード国際経営大学院に入学し、2004年にMBAを取得。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、代表取締役に就任。「ビジネスモデルイノベーション」「21世紀の仕事術ライフハック」「アート思考とデザイン思考」をテーマに、広告プロデューサーとしての枠を超えて新規事業、新商品等の企画立案に携わりながら、『今日から行動力を一気に高める本 自分を効率的に動かす「やる気」マネジメント』(三笠書房)、『片づけHACKS! がんばらないで成果が上がる「場を整える」コツと習慣』(東洋経済新報社)など、数多くの著書を手がける。
【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。