わたしたちが過去の体験を思いだすとき、その内容は、実際に体験したものとは異なる場合があります。また、人は2つの現実を持っているといいます。

でも、それは人間の脳のクセなので避けられません。問題なのは、そのクセによって「何か」について思い込み、一歩を踏み出さなくなってしまうことです。

最新の研究と、脳のクセや思い込みについて、そして、脳のクセを理解することにより、“一歩先を行く自分”になれる理由を説明します。

1.記憶は逆から再構築される?:英研究

英バーミンガム大学の新しい研究によると、人間は何かを思いだすとき、実際の体験とは逆の順序で再構築しているそうです(2019年1月14日『Nature Communications誌』オンライン版で公開)。

この研究の参加者数十名は、まず画像を見せられ、各画像とリマインダ単語(画像を思いださせる単語)を関連づけ、そのあと関連画像を再構成するよう依頼されました。

その最中、参加者の脳活動は記録されていたので、脳のパターン変化は細かく観察できたそう。そして、あらゆる時点で、どのようなイメージを取り戻していたか解読するために、コンピュータアルゴリズムを訓練したそうです。

その結果、人が何かを思いだそうとするとき、脳は最初に「要点」を取り戻すことに焦点をあて、そのあと、より具体的な詳細を思いだすと発見したのだとか。たとえば、あなたが上司とのやりとりを思いだす場合……、

実際には上司に呼ばれ、穏やかな表情で「このレポートは、おおむねこれで問題ないけれど、B項目に関してのみ少し修正してほしい」といわれたあと、「それから、会議のときはもっと発言しなさい。いい感性を持っているんだから。大きな声でね!」といわれたとします。

あなたはその出来事のなかの、今後の行動にかかわる「修正箇所がある」「発言しろといわれた」「大きな声で」という、ネガティブに捉えてしまいがちな項目を「要点」として先に思いだし、

あとからやっと“おおむねこれで問題ない”“いい感性を持っている”といったポジティブな言葉を含めた詳細を思いだしていくため、後者の記憶を弱めてしまう可能性があるわけです。

論文の主執筆者である Juan Linde Domingo 氏は、「わたしたちの記憶が概念的な情報を優先する場合、それをくり返すことにより、記憶の変化に影響がある」とし、「記憶を検索するごとに、より抽象的かつ要点のみだけになっていくことを示唆している」と述べています。つまり、先の例ならば、「上司に注意された」という概念だけになってしまいかねないのです。

同氏は、「記憶は過去の単純なスナップショットではなく、再構成され偏った表現」だと伝えています。

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2.人間は2つの現実を持っている?:外山滋比古氏

東大や京大で一番読まれた本として知られるロングセラー『思考の整理学』には、知恵を授かった人間にとって、現実は決してひとつではないことが説明されています。

2つあるという現実の、ひとつめは物理的な世界です。紛れもない現実といえます。著者である外山滋比古氏は、これを「第一次的現実」としています。ふたつめは観念上の世界。知的活動によって、頭の中につくり上げられた現実世界です。同氏はこれを「第二次的現実」としています。

同書は1986年に発行されていることから、かつて読書によってつくり上げられてきた「第二次的現実」には観念上の世界らしさがあったけれど、映像を見せるテレビの出現で、物理的な世界「第一次的現実」と間違えてしまうほどリアルになったとあります。

しかし、現在はインターネットのほか、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)等の技術まであるので、もはや「第二次的現実」こそが、紛れもない現実かのように捉えられてしまいがちです。

つまり、わたしたちは、“思い込み”が強くなりやすい世の中を生きているということなのです。

3.自明と思い込んでしまう?:Andrew Forman 氏

そんななか、オンライン慈善寄付プラットフォーム Givz の共同創設者である Andrew Forman 氏は、自明な(分かりきっているような)アイデアこそ、一歩前進させるべきだと説いています。同氏は、絶対にうまくいくとわかっていた革新的なアイデアが自明に思えたことから、長いあいだ実行に移さなかったのだとか。

Andrew Forman 氏によれば、Apple のスティーブ・ジョブズ氏は1996年にこう語っているそう。

「クリエイティブな人に、どうやってそんなことを思いついたのかと尋ねると、誰もが少し後ろめたい気持ちになる。なぜなら、実際には何もしていなくて、単に物事が見えただけだからだ。それはしばらくすると、ごく自明のことのように思えてくる」

また、ミネソタ大学が発表した論文には、こう書かれているそう。

――自明なことに気づくことは「創造的プロセスの5段階」の重要な一部である。

「すべてが明晰に見えるとき、あなたの解決策は自明でシンプルであるように思える。だが実際には、シンプルに見える理由は、すべてのピースがしかるべき場所に収まり、あなたの解決策を照らし出すからだ」――

(引用元:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|HBR.ORG翻訳リーダーシップ記事|自分の思い込みで素晴らしいアイデアを諦めるな)

楽で簡単な世界を目指し発展していく技術によって、むしろ、どんどん複雑化していく社会では、「自明であること」に対し価値を置かなくなっているのかもしれません。それは、外山滋比古氏のいう「第一次的現実」を無視して、「第二次的現実」だけに傾いていくようなもの。知能が発達した人間は、シンプルなことを、複雑に考えたがるわけです。

脳のクセを理解すれば“一歩先を行く自分”になれる

以上3つのことを踏まえると、人は思い込みに惑わされることがある、と理解できます。だからこそ、次のような考えが浮かんだら、まずは「思い込みかもしれない」と疑ってみるべきでしょう。

思い込み1:「きっとまた否定される」

何かを発言、あるいはアイデアを出し却下された場合、そのことを思いだすたび嫌な気分になるかもしれません。

しかし、何度もその出来事を思いだしているうち、その記憶が再構築され、偏った記憶になっているかもしれないと疑う必要があります。つまり、「苦い経験」という概念だけになっている可能性があるということ。

たとえば、ミーティングで「何かいい考えはないかな?」といわれ、「〇〇はどうでしょう?」といったあなたに対し、Aさんは「たしかに、それだと発注が増えそうですね」と同意し、Bさんも「それなら、先週集めたデータが役立つかもしれません」とアイデアを後押ししてくれたとします。

しかし、そのあと上司が「自分もそれはいいと思うが、2年前に似た方法を試したところ、思うほど効果が生まれなかった」といい、Cさんの「○○社のやり方を参考にしてみてはどうでしょう」という言葉にみなが同意し、Cさんのアイデアをもとに物事が運ばれることになったとします。

すると、そのことをあなたが思いだすたび、もっとも大きな要素である「アイデア却下」というネガティブな要点に絞られてしまうわけです。実際には、あなたに同意する意見がいくつもあったのは確かであり、上司も、単に却下したのではなく、あくまでも考慮すべき情報を提示したにすぎません。

上司を含めミーティングに参加した5人でアイデアを出し合い、たまたまそのなかの1人のアイデアが基礎となった事実を、否定された記憶として再構築してしまうのです。

つまり、この次にまた何かを発言したりアイデアを出したりしても、きっとまた否定されると考えるのは、単なる思い込みの可能性があるということです。

思い込み2:「自明のアイデアである」

何かのアイデアを“ハッ”と思いついたとき、「こんな自明なこと、いまさらアイデアとして提案する必要はないかもしれない」「こんなアイデア、誰でも思いつくだろうな……」と考え提案しないのは、とても“もったいない”ことです。

たとえば、ある地域を活性化するアイデアを出さなければならない場合、地元の人に人気のパン屋さんやケーキ屋さん、ラーメン屋さんや神社などを効率よくまわれるよう、地方公共団体を巻き込んだ「地域マップ」と「休日コミュニティバスの運行」が最適だと考えたとします。

しかし、最適解だと思いながら、その内容がシンプルであったり、よく知られたことであったりするほど、「いまさら地域マップとコミュニティバスなんて当たり前すぎるかな」と不安になってしまうわけです。

もちろん、「たいしていいアイデアだと思わない」なら、わざわざそれを公表する必要はありませんが、「いいアイデア」だと思えるにもかかわらず、すでに明らかな内容だろうだと思い込み、闇に葬ってしまわないようにしましょう。

すべてのピースがピタッと収まったからこそ自明に思えるだけかもしれません。また、霧が晴れ目の前に出現したアイデアを、大切に温めているうち、自明のように思えてきただけかもしれないのですから。

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最新の研究やプロフェッショナルのアドバイスをもとに、 思い込みやすい脳のクセを理解することなどについて説明しました。一歩踏み出せば、昨日より一歩先の自分になれるはず。機会を逃さず歩んでくださいね。

(参考)
Health News – Medical News Today|How do our brains remember?
University of Birmingham – A leading global university|The human brain works backwards to retrieve memories
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|HBR.ORG翻訳リーダーシップ記事|自分の思い込みで素晴らしいアイデアを諦めるな
外山滋比古著(1986),『思考の整理学』,筑摩書房.