上司や会社から重宝される「デキる部下」になるには、上司への「提言力」と自ら行動する「率先力」で成り立つ「フォロワーシップ」を高めていく必要があると語るのは、研修トレーナーの伊庭正康(いば・まさやす)さん(『「本当にデキる部下」はたった3%。あなたは “理想型” になれている? 10項目で確認を』参照)。ここでは、提言力と率先力のうち、提言力を高めるための方法を教えてもらいます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
提言力には4つのレベルがある
提言力を高めるための方法をお伝えする前に、まずは具体的なシチュエーションにおける、提言力のレベルによる言動の違いを見てみましょう。いわゆる「あるある」ではないですが、そのほうがみなさん自身の提言力のレベルを自覚してもらいやすいはずです。
私は、提言力のレベルを4つに分けて考えています。コロナ禍のなかリモートワーク導入にあたってなんらかの問題が生じている会社において、それぞれのレベルの部下が上司に対してどのような言動をするのか、その例を示しましょう。
レベル1は「積極的な人」。決して提言力がないわけではありません。でも、レベル1の人は、「やっぱりリモートワークを導入すべきだと思いますよ」というふうに、ただ上司に意見を言うだけ。これでは問題の解決にはつながりません。
それが、レベル2の「主体的な人」になると、「私なりにリモートワークを導入するための方法を考えてきました」と、自分なりの解決策を提示するようになる。もちろん、上司から「デキる部下」だと思われるのは、レベル1よりもレベル2にある人でしょう。
提言力に長けた「参謀級の人」は、上司の考え以上の提言をする
さらに、レベル3の「支援する人」になると、レベル2までとは大きな違いが生まれます。それは、「上司の立場から物事を考えられる」ということ。レベル1、2のように「リモートワークを導入すべきだ」とただ意見を言うことや、自分なりの解決策を提示することは、決して難しいことではありません。
でも、そもそも上司はリモートワーク導入に対してどんな考えや問題意識をもっているのかを知らなければ、上司の意向に沿った解決策をつくれるわけもないのです。そこで、レベル3の人は、まず上司の考えを確認して、そのうえで情報を収集して解決策を練るのです。
それから、レベル4の「参謀級の人」になると、上司が考えている以上のことを提言するようになります。こういう人は、職場が抱える問題や上司の考えを把握していることは当然として、社外のネットワークを通じてさまざまな情報を入手しています。
そして、「じつは、同業他社のA社ではこういう手法でリモートワークを実現しているそうです。これなら、ちょっとアレンジすればうちにも導入できるのではないですか?」というふうな、上司の悩みを一気に解決できるような提言ができます。
レベル4の人は、言ってみれば「上司を驚かせる人」です。その提言が実現して大きな成果を挙げることができれば、社内における上司の評価も上がるでしょう。そのため、レベル4の人は、上司にとって「手放せない人」にもなる。文字通り、「参謀級」なのです。
本と新聞を読み、社外にネットワークをもつ
では、提言力を高めて参謀級の「上司を驚かせる人」になるにはどうすればいいのでしょうか。私からは、なにより「インプットに注力する」ことをアドバイスしておきます。
なんらかの解決策を実行に移す率先力がどんなにあったとしても、その解決策自体が的外れのものだったとしたらどうでしょう? その行動はまったく意味がないことであり、せっかくの率先力を無駄にしてしまうことになりかねません。それこそ、空回りです。
このケースで言えば、先にもお伝えしたように、リモートワークに対する上司の考えをインプットしておかないことには上司の意向に沿った解決策を考えられるはずもありませんよね。また、社内外問わずさまざまなネットワークをもち、上司が知らない情報をインプットしておかなければ、レベル4の人のように上司を驚かせるような提言もできません。
提言力は、インプット量に左右されるのです。これまでさまざまな人に会ってきたなかで、提言力がレベル3以上にある人とレベル2以下の人のあいだには、インプット量に決定的な差があると感じています。
特にレベル4の人は、とにかく本をよく読み、ジャンルを問わずトレンドに精通している。また、ほとんどの人が日経新聞を読んでいます。そして、社外にもっている自分のコミュニティーのなかでさまざまな生の情報をインプットしてもいるのです。
コロナ禍にあるいまは、かつてのように社外の人との飲み会などで情報をインプットすることは難しいかもしれません。でも、逆に言えば以前より読書時間は確保しやすくなっているでしょうし、インターネットを通じていくらでも情報を収集することが可能です。日常的に多くの情報にさらされる社会にはすでになっているとはいえ、提言力を高めるため、これまで以上に情報のインプットを意識するようにしてください。
【伊庭正康さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「本当にデキる部下」はたった3%。あなたは “理想型” になれている? 10項目で確認を
上司が欲しがる「参謀級」の部下になるために。“2つの口癖” で行動力を高めよ
【プロフィール】
伊庭正康(いば・まさやす)
1969年1月1日、京都府生まれ。研修トレーナー。株式会社らしさラボ代表取締役。1991年、リクルートグループ入社。法人営業職に従事し、プレイヤー部門とマネジャー部門の両部門で年間全国トップ表彰4回を受賞。累計40回以上の社内表彰を受け、営業部長、株式会社フロムエーキャリアの代表取締役を歴任。2011年、研修会社・株式会社らしさラボを設立する。リーディングを中心に年間200回を超えるセッション(営業研修、営業リーダー研修、コーチング、講演)を行っている。実践的なプログラムが好評で、リピート率は9割を超え、その活動は日本経済新聞など多数のメディアで紹介されている。『目標達成するリーダーが絶対やらないチームの動かし方』(日本実業出版社)、『なぜ、一流は歩きながら仕事をするのか?』(クロスメディア・パブリッシング)、『トップ3%の人は、「これ」を必ずやっている 上司と組織を動かす「フォロワーシップ」』(PHP研究所)、『計算ずくで目標達成する本』(すばる舎)、『できるリーダーは、「これ」しかやらない メンバーが自ら動き出す「任せ方」のコツ』(PHP研究所)など著書多数。YouTube「研修トレーナー伊庭正康のビジネスメソッド」もスタート。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。