自分を犠牲にして、他者の幸せや利益のために尽くすこと――いわゆる利他的な行動は成功の要因になると言われています。しかし、100%の自己犠牲がいいわけではありません。専門家の意見をもとに、正しい「利他」と、間違った「自己犠牲」について説明しましょう。
「利他」は成功の要因
スウェーデンのストックホルム大学は、利己的な人と利他的な人の、どちらが高年収だと思うかアンケート調査を行なったそうです。その結果、利己的な人と答えたのは68%、利他的な人と答えたのはわずか9%で、そのほかは「わからない・どちらとも言えない」との回答だったそう(脳科学者・岩崎一郎氏インタビュー『幸せな人は脳全体が活性化している。仕事がはかどる最高の脳状態は「あの行動」で手に入れよ』より)。
利己的行動とは、他者の立場を考えず、自分の利益だけを考え行動すること。一方の利他的行動は、自分を犠牲にして他者のために行動することを意味します。それぞれの特性から言えば、納得のアンケート結果ですよね。
しかし、同研究グループが4,017人を対象に14年間の追跡調査を行なったところ、人に尽くす利他的な人の年収が、利己的な人の年収の1.5倍になるとわかったのだとか。
私たち人間には、“他者から施しを受けたら何かお返しをしなくては” と考える心理(「返報性の原理」という)があるといいます。ならば、利他的な人の他者に尽くす行動に対し、それを受けた人々が恩返しを行なうこともあるはず。脳科学者の岩崎一郎氏は、そうした手助けにより成果を挙げ続けることもできると述べます。
2種類の利他主義者
とは言うものの、冒頭で述べたように、なんでも自分を犠牲にするのはおすすめしません。ペンシルベニア大学ウォートン校教授のアダム・グラント氏によれば、人間の特性には以下3つのタイプがあるそうです(数字はそれぞれの割合)。
- 【テイカー】:受け取るだけの人――19%
- 【ギバー】:惜しみなく与える人――25%
- 【マッチャ―】:帳尻を合わせる人――56%
テイカーは自分の利益最優先の利己主義者、ギバーは利他主義者と位置づけられるのではないでしょうか。ちなみに一番多いマッチャ―は、与えられたらお返しをするバランス派です。
じつは、このグラント氏の研究でも、一番成功するのはギバーだと明らかになりました。ところが、最も成功しないのもギバーであることがわかったのです。つまり、世のなかには「成功できる利他主義者」と「成功できない利他主義者」が存在するということ。これらの違いは、いったいなんでしょう?
▽「成功できない利他主義者」とは
グラント氏は、成功できない利他主義者(ギバー)をちょっと厳しく “愚かなお人好し” と呼び、自己犠牲的だと表現します。「自分が我慢すれば」の精神で、ただただ人に与え続けてしまうからです。
- 忙しくても頼まれると手伝ってしまう
- なんでも「決めていいよ」と人に従ってばかり
- 呼び止める人に「急いでいる」と言えず時間に遅れた
精神科医の樺沢紫苑氏は、こうした人々を「燃え尽きるギバー」と呼びます。自分の時間とエネルギーを他者に与え続け、ついには燃え尽きてしまうからです。
また、日本メンタルアップ支援機構 代表理事の大野萌子氏は、自分の気持ちを我慢したり、抑え込んだりしていると、感情が退化してしまうと注意を促します。自分が何をしたいのか、どう感じているのか、つかみづらくなってしまうのだとか。これでは仕事に不可欠な、決断力まで退化してしまいます。
◎「成功する利他主義者」とは
では逆に、成功できる利他主義者(ギバー)とは、どういうものでしょう? グラント氏は、そうした人々を “最高の勝利者” とし、他者志向的と表現します。他者志向とは、人に多くを与えても、自分の利益を見失わないこと。つまり、誰にどう与えるか、しっかりと考え行動することなのだとか。
搾取するだけの利己主義者(テイカー)は、相手がなんでも与えてくれる利他主義者(ギバー)だとわかれば、感謝するどころか便利な人だと考え、常にあなたを利用するかもしれません。
自分を思いやることも忘れてはならないと説く前出の樺沢氏は、他者利益と自己利益の追求は両立できると断言します。これを機に、他者志向的な最高の勝利者になってしまおうじゃありませんか。
他者志向的な勝利者になるコツ
ではここで、他者志向的な勝利者になるための、ちょっとしたコツを紹介しましょう。
1. 危険人物を見極める
Ascent Business Consulting 株式会社 代表取締役社長の北村貴明氏は、とにかくテイカーとは縁を切りなさい、テイカーがいたらすぐに逃げなさいとアドバイスします。精神科医の Tomy 氏も、人の善意を食い尽くすテイカーとは関わらないようすすめています。
感謝の心がない人に、搾取され続ける必要はないのです。関わらないほうがいい危険人物を知っておきましょう。樺沢氏が挙げた「信頼できない人」の共通点を、かいつまんで紹介します。
- 自己中心的
- 自分の利益最優先
- クレクレ星人(いわゆるテイカー)
- 言うことがコロコロ変わる
- 不安や恐怖をあおる(騙すため)
- 時間や締め切りに遅れる
- 嘘をつく
- 言いわけが多い
- 責任をとらない
こんな人には要注意!
2. 取材的オウム返し
精神科医の片田珠美氏によると、イヤミな相手には “オウム返し” がよく効くそうです。「そんなことも知らないの?」と言われれば、「そんなことも知らないのって?」と返すイメージ。すると、イヤミだけで中身がない発言をした相手は、返答に困ってしまうのだとか。ならば、理不尽に搾取しようとする危険人物にも効果的かもしれません。相手に効果がなかったとしても、自分を客観的にしてくれるでしょう。
たとえば段取りよく仕事を終わらせ、定時に帰る準備を始めていたら、「ごめん、終わったなら少しだけ手伝ってもらっていい? じつは今日、用事があるから早く帰りたくて……」と、自分には関係ない仕事を、理不尽な理由で手伝わされそうになったとします。
あなたが自己犠牲的なギバーであれば、どんなに理不尽でもとっさに「いいよ」と言ってしまうかもしれません。そんなときは、まるで相手を取材するように、確認作業を行なってみてはいかがでしょう。いわゆる取材的オウム返しです。
「ちょっと確認。Aさんは用事があるから帰りたい、でも仕事が終わらない。で、Aさんは自分の仕事を、私に手伝ってと言っている――だよね?」
頭のなかだけで受け止め、対応しようとすれば、いつものクセ(自己犠牲)が勝ってしまうでしょう。しかし、言語化すれば客観的になれるはず。たったいま自分は、理不尽なお願いをされていると意識できるのではないでしょうか。
相手が先に挙げたような危険人物で、手ごわい相手なら、悪びれず「そうなんだよねー」と答えるかもしれません。そんな相手の善意に訴えてもムダなので――「ごめんね、じつは私もAさんと同じく用事があるから、定時に終わるよう頑張ったんだ。スマン! お先に!」――とでも言い、時計を見ながら急いでその場を離れましょう。
3. 不利益を防いで・与える
もしも前項のようなお願いをしてきた相手が、人にものを頼むことが滅多にない人物で、本当に困っている様子ならば、自分にもたらされる不利益を防ぎつつ、相手に与えられるよう対処してみてはいかがでしょう。たとえばこうです。
「じつは私も用事があるので早く帰りたいんだけど、30分だけなら手伝えるよ」
もちろん、自分が指定した時間は絶対に厳守です。時間ピッタリに手を止め、「ごめんね」と言い残して先に帰ったとしても、相手がギバーあるいはマッチャ―ならば、「用事があるのに無理して手伝ってくれた」と恩を感じてくれるはずです。
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たくさん人に与え続けているあなたこそが、たくさん成功しますように。
(参考)
ITmedia ビジネスオンライン|他人に惜しみなく与えて「成功する人」と「搾取される人」はどこが違うのか:お人好しと勝利者の分かれ目は
ダ・ヴィンチニュース|精神科医が教える信頼できない人の共通点「言い訳が多い」「時間に遅れる」あとは…?
STUDY HACKER|幸せな人は脳全体が活性化している。仕事がはかどる最高の脳状態は「あの行動」で手に入れよ
ダ・ヴィンチニュース|イヤミには“オウム返し”が効果的! カチンとくる言葉に賢く反撃する方法
ダイヤモンド・オンライン|精神科医が教える「関わらないほうがいい人」の特徴とは?
東洋経済オンライン|「自分さえ我慢すれば」を続けると起こる悲劇
コトバンク|利己的とは
コトバンク|利他的とは
Wikipedia|返報性の原理
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STUDY HACKER 編集部
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