「根回し」という言葉には、どこかネガティブな印象を受ける人もいるでしょう。しかし、PwC、マーサー、アクセンチュアなどの外資系大手コンサルティング会社を経て独立し、数多くのビジネスパーソンのキャリア形成を支援している人事・戦略コンサルタントの松本利明(まつもと・としあき)さんは、「根回しは、デキるビジネスパーソンに絶対に欠かせないスキル」だと語ります。なぜそう言えるのか、具体的な根回しの方法とあわせて解説してもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
根回しは、とがった企画をよりとがらせるために必要なもの
「根回し」とは、「反対意見も取り入れて自分のプランをより確実なものにし、組織のなかで通すプロセス」を意味します。ただ指示された作業をこなすのではなく、より大きな成果を挙げられる仕事をするためには、根回しが絶対に欠かせません。
根回しというと、上層部に対する御用聞きのような振る舞いをイメージする人もいるでしょう。でも、ただ上の意見をすべて取り入れてしまうと、もともとはとがった企画だったものも丸め込まれて、可もなく不可もないといった平凡な企画になってしまいます。そうではなく、とがった企画をよりとがらせて大きな成果を挙げるためにするべきものが、根回しなのです。
そうして提案したプランが実際に動き始めると、上司や後輩、内容によっては他部署の人たちの協力も得る必要が出てきます。そうなったときにチームがひとつになって前進できるよう、反対意見がある場合も、それが建設的な反対意見であれば冷静に取り込み、プランをより強固なものにしていかなければなりません。そうするための事前のコミュニケーションや働きかけが、根回しだという言い方もできます。
そう考えると、「プランを通す」だけでは100点満点のうちまだ30点というところでしょうか。大事なことは、決まったプランをきちんと動かすこと。ほとんどの場合、企業におけるプランには、プランを立てた本人以外にも多くの人が関わります。それら関係者をひとつのチームにする、あるいは味方を増やす。それができてしっかりとプランを遂行してこそ、100点の根回しと言えます。
社会人として飛躍するためには、根回しは必須のスキル
また、根回しが重要となるのは、社内に限った話ではありません。プランの内容によっては、複数の他社が関わることもあります。それこそ社内であれば、「つうかあ」の関係で進められることもあるかもしれませんが、社外の相手にはそれが通用しません。どの会社の誰が何を担当するのか、事前に調整しておくプロセスは必要不可欠です。
ビジネスパーソンとして30代を迎えると、ただ与えられた仕事をこなすだけでは不十分。より大きな成果を挙げるためのチャレンジを求められるようになります。そして、そういった大きなチャレンジには、社内はもちろん社外の人も多く関わるものです。
そのとき、社内でさえ満足に根回しできない人が、社外の人を相手にうまく根回しできるはずもありませんよね? つまり、根回しは、ビジネスパーソンが30代までのあいだに身につけておくべき必須のスキルだと考えるべきです。
仮に、この根回しができずに40代になってしまったとしたらどうなるでしょうか? その人ができるのは、組織から与えられた仕事をただこなすだけになります。いわば、組織に使われるただの「作業員」です。その内容によっては、AIやテクノロジーの発達によって仕事がなくなってしまうかもしれません。キャリア形成においても、不利な立場に自らを追い込むことになるでしょう。
根回しの基本は、「共通の敵を探す」こと
ぜひみなさんには、組織に使われるのではなく、組織をうまく使える、根回しができる人間を目指してほしいと思います。そのための基本は、「共通の敵を探す」こと。
大きなプランには多くの人が関わる以上、立場や考え方が異なる人もいるのは絶対に避けられないことです。時には対立することもあるでしょう。でも、そこで自分の意見を無理にでも通そうと躍起になるのは大間違いです。互いが敵視する関係になってしまい、そのプランはうまく進みません。
そこで、共通の敵を探すのです。「敵の敵は味方」という言葉もあるように、共通の敵を見つけることができれば、それまで敵対していた人も味方になってくれる可能性が一気に高まります。
では、ビジネスパーソンにとっての「共通の敵」とはなんでしょう? これは、「共通の目的」と言ったほうがわかりやすいかもしれません。ビジネスパーソンにとっては、「お客様を満足させ、より大きな成果を挙げること」こそが共通の目的ではないでしょうか。立場や考え方に違いがあっても、同じプランに携わるビジネスパーソンである以上、その目的は同じです。
なんらかの事柄をめぐって意見が対立したような場面では、まずそこに立ち戻りましょう。互いの意見をただぶつけ合って堂々めぐりをするのではなく、「どうすればお客様を満足させられ、より大きな成果を挙げられるのか」「そのためにはプランをどのようなものにすればいいか」という目的をあらためて共有したうえで、意見を出し合う。その姿勢と意識こそが、根回しの基本なのです。
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【プロフィール】
松本利明(まつもと・としあき)
1970年12月12日生まれ、千葉県出身。人事・戦略コンサルタント。HRストラテジー代表。HR総研客員研究員。PwC、マーサー、アクセンチュアなどの外資系大手コンサルティング会社のプリンシパル(部長級)を経て現職。世界や日本を代表する大企業からスタートアップ企業まで、600社以上の人事改革に従事。5万人のリストラと7,000名を超えるリーダーの選抜と育成を行った「人の『目利き』」。近年は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが自分らしく活躍する世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーキングマザー、若手からベテランまでのビジネスパーソンに教えている。個別のアドバイスを5,000名以上にライフワークとして提供し、好評を博す。『できる30代は、「これ」しかやらない』(PHP研究所)、『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)、『稼げる人稼げない人の習慣』(日本経済新聞出版)、『「いつでも転職できる」を武器にする』(KADOKAWA)、『5秒で伝えるための頭の整理術』(宝島社)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。