アッシュの同調実験とは
アッシュの同調実験とは、社会心理学者ソロモン・アッシュ(1907~1996)によって1951年に報告された、人間の同調行動を検証した実験。『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』は、同調行動を以下のように説明している。
集団規範,慣習,他者の反応に一致するような行動様式であり,広く人間が行う適応の一形態である。社会が安定していればいるほど同調行動が一般的となる。
(引用元:コトバンク|同調行動)
アッシュの同調実験が証明したのは、問いに対する正解・不正解が明らかな場合でも、自分の周囲の人々が不正解を選択すると、それに同調して自身も不正解の答えを選んでしまうという人間の傾向である。
2017年、社会学博士である岡本浩一教授(東洋英和女学院大学)は、「脳と心の正体」を特集した『文藝春秋SPECIAL 2017年 季刊夏号』および「文春オンライン」において、第2次世界大戦で起こったユダヤ人大虐殺に関して「なぜあれほど多くの人々が非人間的な行為を粛々と実行したのか、ナチスの非倫理的な命令に服従してしまったのか」という文脈でアッシュの同調実験を紹介した。岡本氏の記事は、ブックマークを保存・共有できるサービス「はてなブックマーク」やFacebook上で話題となった。
アッシュの同調実験の手法と結果
アッシュの同調実験は、以下のような手順で行われた。
まず、実験室に8人の人間を集める。このうち7人は「サクラ」であり、アッシュの指示通りに行動する。
したがって、被験者となるのは残りの1名のみである。
次に、図版Aと図版Bを参加者たちに提示する。図版Aには1本の線が描かれており、図版Bにはそれぞれ長さの異なる3本の線が描かれている。
そして、図版Bの3本の線のうち、図版Aの線と長さが同じものはどれか、参加者に1人ずつ答えさせる。なお、図版Bに描かれた線の長さはそれぞれはっきりと異なり、正解は明らかである。
アッシュはこのような問いを18種類用意し、そのうち12の問いにおいてサクラに不正解を答えさせ、それによって被験者の答えがどう変化するのかを調査した。アッシュの同調実験の結果は以下のとおりである。
サクラ全員が正解を答えると、被験者も堂々と正解の選択肢を選んだ。しかし、サクラが不正解を答えると、被験者も不正解の選択肢を選ぶ傾向が確認された。
実験の結果、全ての質問に正解を答えつづけた被験者は全体のおよそ25%で、残りの75%は不正解のサクラに一度でも同調してしまった。被験者がサクラに同調して不正解の選択肢を選ぶ確率は、約3分の1であったという。
アッシュの同調実験から学ぶこと
アッシュの同調実験からは、自分一人で考えるときは正確な判断ができても、集団のなかにいるときは、集団に合わせて誤った判断をしてしまう傾向が明らかになった。このような人間心理は、経済や金融の分野でも知られている。
金融を専門とする林康史教授(立正大学)は、金融市場において多数派に同調することのメリットとデメリットを挙げつつ、以下のように述べた。
一般的には、しばらくは、「長いものには巻かれろ」のスタンスで大衆とともに歩み(もちろん、同調する価値すらない他人の行動に引きずられてはいけないのだが)、しかし、いずれかの時点で逃げ出すのが無難ということになるだろう。あるいは、同調する価値のある人の傍にいるというのが有効かもしれない。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|長いものには巻かれるべきか)
また、社会心理学者の榊博文氏は、同調行動の例として、飲み会において最初に注文する飲み物を決める際、最初の人が「ビール」と言うと、あとの人も続けて「ビール」と答えることや、会議においてほかの人と異なる意見を主張しづらく感じることを挙げた。そのうえで、「流行」も同調行動の一種だと説明した。
流行に追随する人は「社会から受け入れられたい」「社会の一員でありたい」「自分も皆と同じでありたい」という社会的帰属の動機からこれを受け入れます。自分も皆と同じであることで、人は制裁や懲罰、嘲笑を免れ、安心できるわけです。流行に乗るということは、集団に同調しているということにほかなりません。
(引用元:日経ビジネスオンライン|なぜ人は思い通りに動かないのか(第3回))
(参考)
GoodTherapy|Solomon Asch (1907-1996)
Verywell Mind|Biography of Psychologist Solomon Asch
Verywell Mind|The Asch Conformity Experiments
AlleyDog.com|Solomon Asch
コトバンク|同調行動
ダイヤモンド・オンライン|長いものには巻かれるべきか