「仕事にやりがいがない」というのは、多くのビジネスパーソンが抱えがちな悩みです。エン・ジャパン株式会社が2015年に実施したアンケート調査だと、48%もの人が仕事にやりがいを感じていないという統計が現れました。
会社を選ぶにあたっては、「給料」というわかりやすい報酬だけでなく、以下のように「気持ち」を重視する人も多いことでしょう。
- お客さんから「ありがとう」と感謝されたい
- 上司や同僚から高く評価されたい
- スキルを磨いて成長を実感したい
- 成果を出すことをゲームのように楽しみたい
しかし、上記のような「やりがい」を、いまの職場で感じない場合はどうすればよいのでしょうか? 今回は、転職を検討する前に実践してほしい、いまの仕事にやりがいを感じるためのポイントをご紹介します。
仕事のやりがいとは
そもそも、「仕事のやりがい」とは、具体的にどのようなものなのでしょう。仕事そのものにおける楽しさや達成感を思い浮かべる人もいれば、給料や福利厚生といったお金の面でイメージする人もいることでしょう。「やりがいか給料か」と二者択一で議論されることもありますが、そう単純ではありません。
「仕事のやりがい」に関しては、米国の臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグ氏の「二要因理論」が参考になるでしょう。二要因理論とは、人間の欲求は以下の2つで成り立っているという考え方です。
- 満足を感じたい(動機づけ理論)
- 不満を避けたい(衛生理論)
いきいきと仕事に取り組むには、満足感を覚えつつ、できるだけ不満要素を減らすことが必要なのです。
前者の「満足を感じたい」という欲求は、一般的にイメージされる「やりがい」に近いものでしょう。ハーズバーグ氏の理論では、仕事で満足を感じる要因(動機づけ要因)として、以下の6つが挙げられています。
- 仕事の達成:目標や業績を達成することによる満足
- 仕事の承認:自分の仕事や能力を認められることによる満足
- 仕事の責任:責任の大きな仕事に携わることによる満足
- 仕事の内容:仕事内容に楽しさや意義を感じることによる満足
- 昇格・昇進:組織内で昇進することによる満足
- 自己の成長:仕事を通じて人間的に成長することによる満足
上記の要因を満遍なく欲している方もいれば、1つか2つの要素を特に重視している方もいるでしょう。いずれにせよ、自分にとっての「やりがい要因」を把握するのが肝心です。
しかし、やりがいを感じつづけるためには「満足感」だけでは不十分。近年「やりがい搾取」という言葉が広まったように、いくら満足感のある仕事でも、労働環境が過酷だったり給料が少なすぎたりすれば、モチベーションの低下は必然です。
仕事に不満を感じる要因(衛生要因)として、ハーズバーグ氏は以下のようなものを挙げています。
- 会社の制度:会社の制度の不備に対する不満
- 上司の監督:上司からの理不尽な監督に対する不満
- 給料:給料が不当であることに対する不満
- 人間関係:人間関係の不和に起因する不満
- 職場環境:職場環境の悪さや不備に対する不満
上に挙げた「動機づけ要因」を満たし、「衛生要因」をなくすことで、仕事にやりがいを感じやすくなるのです。
仕事にやりがいはいらない?
「やりがいがなくても仕事はできる」「仕事にやりがいなんていらない」と思う人もいるかもしれませんね。しかし、仕事にやりがいを感じていると、ダイレクトなメリットがもたらされます。経営コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーと経済誌による『エコノミスト』の合同調査だと、意欲が低い社員と高い社員には、生産性に2倍以上の差がつくことがわかりました。
生産性に2倍以上もの差がつくとなると、「仕事にやりがいなんて求めない」とも言っていられませんね。
それに、やりがいがあると、「仕事そのものを楽しめる」という非常に大きなメリットが生まれます。「こんなことやりたくない。でも、やらなきゃ……」という義務感だけでこなす仕事は、とてもつまらなく、つらいものですよね。
しかし、自分なりの関心や目標をもって取り組めば、仕事が “趣味” のようになり、ストレスが軽くなるはず。「やりがい」のおかげで仕事が楽しくなれば、働き方や周囲の人との関わり方が能動的になり、生産性が高まって優れた成果を出せ、さらに楽しくなる……という好循環が生まれるでしょう。
仕事のやりがいの見つけ方
仕事におけるやりがいの大切さがわかったところで、どうすれば自分なりのやりがいを見つけられるのでしょう?
やりがいの見つけ方として、人財教育コンサルタント・村山昇氏の著書『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年)より、「リフレクションシート」をご紹介します。12の質問に答えることで、働く意味を感じる/感じないポイントを簡単に自己分析できますよ。
まず、自分が現在の仕事を続けている理由に当てはまるものを、12(13)の項目から選んでチェックを入れてください。次に、チェックを入れた項目の重要度を5段階で評価します。重要度が高い3つの項目を右の欄に記入したら完了です。あなたの「仕事のやりがい」がランキング化されました。
数値化が難しいと感じるかもしれませんが、点数や順位を真剣に考えることで、自分の本心に気づけるはずです。完成したリフレクションシートを参考に、いまの仕事でやりがいを見つけられないか考えてみましょう。以下は一例です。
- 「仕事を通じて成長できるから」を選んだ
→業務上での数値目標や、自分の成長目標を設定する - 「人との出会いが生まれるから」を選んだ
→日記をつけ、人との出会いで自分がどう影響されたか振り返る - 「社会に影響を与えられるから」を選んだ
→これまで与えた影響、これから与えたい影響を具体的に考える
リフレクションシートは、やりがいを見つけるだけでなく、仕事への向き合い方を見つめ直すことにも役立ちます。『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』の出版社のWebサイトからダウンロードできるので、ぜひやってみてください。
「仕事にやりがいがない」と感じる人へのアドバイス
「仕事のやりがいがわからない」と感じる人に試してほしいことは、ほかにもあります。どれかひとつでも実践してみてください。
1. 「目標+ご褒美」でやる気を出す
仕事にやりがいを感じるためには、目標を設定してみましょう。仕事の成果や品質、作業スピードなどの目標を設定すれば、「達成したい!」という意欲が湧き、張り合いが生まれるはずです。
ただし、やる気を出すためには、自分にとってワクワクするような目標でなくてはいけません。たとえば、「今月は契約を20件とる」と目標を掲げたところで、「達成したってなんの得もないな」と感じるのであれば、やりがいが生まれるはずもありませんよね。
心理学者の内藤誼人氏は、「達成した暁に得られるご褒美」を決めてから目標を設定することを推奨しています。以下は一例です。
- 次の査定で昇給したい!(ご褒美)
→そのために、月20件の成約ノルマを達成しよう - 代官山にある有名店のケーキを食べたい!(ご褒美)
→今週の作業目標を達成できたら、ご褒美に買おう - クルーズ船でヨーロッパ旅行をしてみたい!(ご褒美)
→そのために、貯金を100万円増やそう
単に「月20件の契約をとる」「100万円貯める」と掲げるより、その先にご褒美を用意することで、目標を達成したいという意欲が何倍にも膨らむはずです。
2. ロールモデルを見つける
やりがいを感じるには、自分が心から尊敬できる人を見つけることです。優秀な上司や歴史上の偉人、一流の経営者など、ビジネスパーソンとして尊敬できる存在がいれば、その人と同じレベルまで成長することを目標にできるため、明確な目的意識をもって仕事に励めます。
目標とする人物は、特定のひとりに絞らなくてもOK。むしろ、ひとりに限定すると、誰にでも欠点はあるわけですから、うまくいかない場合があります。たとえば、「A部長は仕事ができるけれど、リーダーとしては少し難がある」という場合なら、「仕事のスキル」ではA部長を目標にしつつ、「人間性」については別の人を目標にしてもいいわけです。
このように、分野ごとに設定した理想の人物を「ロールモデル」と呼びます。ロール(role)とは、英語で役割の意味。「ビジネスパーソンとして」「リーダーとして」「部下として」「人間として」など、役割ごとの理想像として設定した相手がロールモデルなのです。
ロールモデルにふさわしいのは、目上の人だけではありません。見習うべき能力や姿勢をもっている同僚や後輩も、ロールモデルに設定できます。同僚や後輩をロールモデルにすると、「○○さんには負けられない」という競争意識も加わるため、より意欲が湧いてくるはずです。
【ロールモデルの例】
- 孫正義さんのようなビジネスパーソンになりたい
- A部長のようなリーダーになりたい
- 同僚のBくんのように、周囲に気配りができるようになりたい
ロールモデルを見つける方法について詳しく知りたい方は、「ロールモデルとは? ロールモデルの効果&探す方法」もご覧ください。
3. 自分の強みを見つける
仕事にやりがいを感じるには、自分の「強み」を見つけることも有効です。自分の得意なことは、やっていて楽しいだけでなく、いい結果を出しやすいもの。たとえば、人前に立つことが得意な人は、仕事でのプレゼンテーションを楽しめるうえ、緊張せず堂々と話せるため、成果や評価を得られやすいはずです。
個人・組織が成功するための方法を研究する「ポジティブ心理学」でも、自分の強みを活かすことが重視されています。ポジティブ心理学では、個人・組織が幸福で満たされた理想的な状態を「ウェルビーイング」と呼び、ウェルビーイングの達成条件のひとつとして「自分の強みを活かすこと」を挙げているのです。
自分の強みの見つけ方として、キャリアコーチのゲイリー・グラポ氏は、「自分が人より得意だと思うことを10個書き出してみる」ことを推奨しています。「自分の強みはなんだろう?」と悩むだけでは答えにたどり着きにくいですが、「人より得意だと思うこと」と比較的な視点で考えれば書き出せるはず。
10個も書き出すのは大変かもしれませんが、無理にでも絞り出そうとすることで、思わぬ強みを発見できるかもしれません。自分の得意分野をつかめれば、「その強みを仕事で活かせないか」と考えることで、やりがいの創出につながるはずです。
【「強み」からやりがいを創出する例】
- 「話がうまい」ことが自分の強みだ
→会議や商談で説明する際、なるべく相手を楽しませるよう工夫する - 「見やすい資料をつくれる」ことが自分の強みだ
→みんなが驚くほど優れた資料をつくることに情熱を注ぐ - 「物覚えがいい」ことが自分の強みだ
→仕事上の知識を資料にまとめ、同僚や後輩に共有することをやりがいにする
4. 「ブランド意識」をもつ
ビジネス書作家・後田良輔氏は、やりがいを生む方法として、「自分の仕事にブランド意識をもつ」ことをすすめています。
たとえば、老舗(しにせ)の高級ホテルで働くスタッフの場合、そこで働いていること自体がやりがいのはず。「ホテルの看板に傷をつけてはいけない」「お客様の期待を裏切ってはいけない」というプライドが、主体的な取り組みにつながるのです。
このような「ブランド意識」は、老舗や大企業に限ったものではありません。ブランドとは、要するに「品質に対する期待値」のこと。極端ですが、「いつも仕事が丁寧なAさん」「いつも笑顔のBさん」など、周囲から抱かれているイメージも、一種のブランドと言えるでしょう。
たとえば、「仕事が丁寧であることが、自分のブランドなんだ」と意識し、そのブランドに対してプライドをもつようにすると、「誰よりも丁寧な仕事を目指すこと」がやりがいのひとつになるはず。何が自分の「ブランド」となりうるかは、上で解説した「他人より得意なことを10個書き出す」ワークによって把握できるでしょう。
【仕事に対するブランド意識の例】
- 「仕事が丁寧であること」が私のブランドだ
→誰よりも丁寧な仕事を目指すことが、やりがいになる - 「気配りができること」が私のブランドだ
→他者のニーズや悩みを察知して手を差し伸べることが、やりがいになる - 「話が上手であること」が私のブランドだ
→会議やプレゼンで誰よりもわかりやすく説明することが、やりがいになる
「どんな自分でありたいか」「他人からどのように見られたいか」という目標(ブランド)を設定すると、自分の仕事に誇りをもてるようになります。それだけでなく、周囲から評価されたり、「ありがとう」と感謝されたりすることにもつながるため、仕事にやりがいを感じやすくなるのです。
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仕事のやりがいは、ちょっとした工夫や気のもちようで生み出せるはず。仕事にマンネリを感じ、いまいちやる気が出ないという方は、本記事で紹介した方法を試してみてください。
(参考)
PR TIMES|約半数の方が、仕事にやりがいを感じていないと回答。次の転職で失敗しないポイントとは!?―『エン転職』ユーザーアンケート集計結果―
田中道昭(2013),『人と組織 リーダーシップの経営学』, すばる舎.
プレジデントオンライン|"3人に1人"の不満社員を奮起させるには
プレジデントオンライン|脱・三日坊主!「ご褒美設定法」にトライ
厚生労働省|メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル
JPPA 日本ポジティブ心理学協会|ポジティブ心理学とは
JPPA 日本ポジティブ心理学協会|2020年10月開講 JPPA第2期ウェルビーイングプラクティショナー養成・認定コース(関西講座)のご案内
ゲイリー・グラポ 著, 川村透 訳(2018),『やりたい仕事の見つけ方 30-DAY LESSON』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
村山昇 著, 若田紗希 絵(2018),『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
リクナビNEXTジャーナル|仕事に「やりがいを感じる人」が重視している「お金」「評価」以外のこととは?
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。