ロールモデルとは?ロールモデルの効果&探す方法

ロールモデルとは1

ロールモデルとは、仕事や行動の「お手本」となる存在のこと。たとえば「佐々木部長のような上司になりたい」「孫正義さんのような一流ビジネスパーソンになりたい」「吉永小百合さんのような素敵な女性になりたい」などです。

「他人の模倣なんてしたくないから、自分にはロールモデルは不要だ」と思うかもしれません。たしかに、それもひとつの考え方。しかし、「いち早く大きな成果を出す」という観点だと、ロールモデルをもつことには大きな効果があるのです。

今回は、厚生労働省がロールモデル育成の推進などを目的に作成した「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」を参考に、ロールモデルを設定するメリットやロールモデルの探し方を詳しく解説していきます。

ロールモデルとは

まず、ロールモデルという言葉の意味を確認しておきましょう。

ロール(role)は「役割」、モデル(model)は「手本・模範」を表す英語。ロールモデルとは、直訳すれば「役割のお手本」なのです。「営業担当者としての役割」「上司としての役割」「プロジェクトリーダーとしての役割」など、それぞれの役割において目指すべき「理想像」が、ロールモデルの意味だといえます。

漠然と「孫正義さんをロールモデルにしよう」と考えるのではなく、孫さんの役割のうちどれをお手本としたいのか――「経営者として」なのか、「上司として」なのか、「いち個人として」なのか、「父親として」なのか――をはっきりさせると、目指すべきイメージをより具体化できるのです。

とはいえ、ロールモデルという言葉は、単に「憧れの人」や「お手本となる人」くらいの意味でラフに使われることも多いもの。小学館の『デジタル大辞泉』にも「役割を担うモデル。模範。手本」と記載されているので、日常会話レベルではロールモデルの「ロール」にそれほどこだわらなくても問題ないでしょう。

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ロールモデルの効果

数々の会社の経営に携わってきたプロ経営者・伊藤嘉明氏によると、ロールモデルには、登山における「山岳ガイド」のような効果があるのだそう。

山を登ろうとするとき、効率的なルートや必要など、自分だけではわかりません。登頂の成功確率は下がるでしょうし、登頂できたとしても多くの時間がかかるはず。

ビジネスパーソンとしての成長を目指す場合も同じです。「社内でトップセールスになろう」と志しても、ロールモデルがいないと、どのように努力すれば目的に到達できるかわからないうえ、達成までの道のりは険しくなってしまいます。

しかし、トップセールスの先輩をロールモデルにすれば、その先輩のやり方を見てまねしたり、努力の方向を教わったりできるので、山岳ガイドに導かれるように、最短距離でゴールを目指せるのです。

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ロールモデルを探す方法

ロールモデルを探す方法を、具体的に学んでいきましょう。厚生労働省の資料「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」(以下、「ロールモデルマニュアル」)を参考に、ロールモデルの見つけ方を4つのステップでご紹介します。

1. 伸ばしたい能力や、抱えている問題を書き出す

まず、成し遂げたいことや、到達したいことを書き出します。どのようなロールモデルを設定するかは、到達すべき目的地によって変わるからです。

目標をはっきり自覚できていないなら、「自分にできないこと」「この先不安なこと」のような問題点を書き出してみましょう。たとえば、「子育てをしながら仕事を続けられるか不安」と悩んでいるなら、「子育てをしながら仕事を続ける」が目標ということ。

以下は、「これから伸ばしたい能力」や「今抱えている問題点」を具体的に書き出してみた例です。

  • セールストークの能力を伸ばしたい
  • 子育てをしながら仕事を続けられるか不安
  • 先輩社員と接するのが苦手
  • 勉強したことがなかなか身につかない

2. 自分が目指す行動ができている人を探す

上で書き出した能力をすでにもっている人・問題を乗り越えた人を、周囲で見つけましょう。セールストークの能力を伸ばしたいなら、セールストークがうまいと評判の先輩や、営業成績の優れた同僚などが、ロールモデルになる人です。

  • セールストークの能力を伸ばしたい。
    セールストークがうまいと評判のA先輩
  • 子育てをしながら仕事を続けられるか不安。
    子育てと仕事を両立できているB課長
  • 先輩社員と接するのが苦手。
    先輩社員たちにかわいがられている同僚のCくん
  • 勉強したことがなかなか身につかない。
    働きながら簿記1級を取得した友人D

3. ロールモデルの行動を分析する

ロールモデルを設定したら、そのロールモデルが優れている理由を分析します。行動を観察したり、話を聞いたりして、成果や能力に関わる特徴をリストアップしてみましょう。

  • セールストークの能力を伸ばしたい。
    →セールストークがうまいと評判のA先輩
    トークスキルに関する本を100冊も読んだ
  • 子育てをしながら仕事を続けられるか不安。
    →子育てと仕事を両立できているB課長
    夫婦で家事を分担している
  • 先輩社員と接するのが苦手。
    →先輩社員たちにかわいがられている同僚のCくん
    いつも元気に挨拶している
  • 勉強したことがなかなか身につかない。
    →働きながら簿記1級を取得した友人D
    時間を空けて5回以上復習している

4. ロールモデルの特徴を自分に当てはめて実践する

ロールモデルの優れた特徴を分析したら、自分でも実践してみましょう。優れた人をまねすることで、手っ取り早い成長を目指すのです。

  • セールストークの能力を伸ばしたい。
    →セールストークがうまいと評判のA先輩
    →トークスキルに関する本を100冊読破した。
    →自分も、トークスキルに関する本を月に5冊ずつ読んでみよう
  • 子育てをしながら仕事を続けられるか不安。
    →子育てと仕事を両立できているB課長
    →夫婦で家事を分担している。
    →我が家でも、パートナーに家事の分担を頼んでみよう
  • 先輩社員と接するのが苦手。
    →先輩社員たちにかわいがられている、同僚のCくん
    →いつも元気に挨拶している。
    →自分も明日から、元気な挨拶を心がけよう
  • 勉強したことがなかなか身につかない。
    →働きながら簿記1級を取得した友人D
    →時間を空けて5回以上復習している。
    →自分も、週に1度は復習タイムを設けよう

漠然と「あの人をまねしよう」とするのではなく、そのロールモデルがもつ美点や、美点を吸収するために自分がとるアクションを明確にするのがポイントです。

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ロールモデルを探すコツ

ロールモデルを効果的に探し、活用するには、いくつかのポイントがあります。先述した内容と重複する部分もありますが、特に以下の点を意識してみてください。

ロールモデルを複数人もつ

コンサルティング会社・エマメイコーポレーションの大塚寿氏は、ロールモデルを複数もっておくことを推奨しています。ロールモデルが1人しかいないと、自分の能力がロールモデルとかけ離れすぎていると感じたとき、「もうダメだ」と心が折れやすいのだそう。

たとえば、「社内一のエリートでイケメンで東大卒で人格者」をロールモデルに選んでしまうと、自分とのあまりの違いに落ち込み、「あの人は特別だから……」と言い訳して、成長を諦めたくなるかもしれません。しかし、ロールモデルが複数いれば、「Aさんにはなれないけれど、Bさんなら目指せるかも」という “保険” になるので、挫折しそうなときでも、気持ちを切り替えることができます。

また、「セールス能力は高いけれど、やや毒舌」「資料作成はうまいけれど、スケジュール管理がいいかげん」など、人間は長所と短所をもち合わせているもの。全ての点において尊敬できるような人など、なかなか見つかりません。そのため、ロールモデルを1人に限定するのが難しいと感じる人は多いでしょう。

「ロールモデルマニュアル」は、「目標ごとにロールモデルを設定し、色々な人の良い点から学ぶという姿勢」を推奨しています。「セールス能力に関しては○○先輩を見習おう」「資料作成に関しては××部長を見習おう」という具合に、役割ごとにロールモデルを分散させ、それぞれの美点を吸収するのがオススメです。

身近な人以外でもOK

ロールモデルが身近で見つからない場合、有名人や過去の偉人でもかまいません。「ロールモデルマニュアル」では、ロールモデルを見つける場所として、講演会や社外研修などが挙げられています。

ビジネスコンサルタントの方喰正彰氏が紹介しているのは、ロールモデルをインターネットで検索する方法。「ヒットメーカー」「成功者」「業界トップ」「第一人者」などのキーワードを、自分の職種や業界と組み合わせて検索することで、ロールモデルの候補を探せます。なるべく、著書やインタビュー記事が豊富にあり、行動・思考を把握しやすい人がオススメです。

たとえば、「食品業界 ヒットメーカー」で検索してみたところ、株式会社湖池屋代表取締役社長・佐藤章氏がヒット。佐藤氏は、かつてキリンビバレッジ株式会社でマーケターを務め、「生茶」「アミノサプリ」など数々のヒット飲料を世に送り出しました。佐藤氏の仕事術や思考法は、著書『ヒットを生み出す最強チーム術』やWebのインタビュー記事で学べるので、ロールモデルにしやすいでしょう。

検索キーワード ロールモデル 著書
食品業界 ヒットメーカー 株式会社湖池屋代表取締役社長・佐藤章氏 『ヒットを生み出す最強チーム術』
システムエンジニア 成功者 株式会社ドワンゴ代表取締役会長・川上量生氏 『ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち』
トップセールス 有名 元野村證券トップセールス・冨田和成氏 『営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて』

人間でなくてもOK

方喰氏は、ロールモデルを人間以外で設定してもかまわないと言います。「○○社のようなビジネスを立ち上げたい」「××バーガーのようなハンバーガーショップをつくりたい」「△△レジデンスのような高級マンションに住んでみたい」など、目標によっては、店や企業をロールモデルにしたほうがよい場合もあるのです。

店や企業をロールモデルに設定する場合も、人間の場合と同様、「ロールモデルの特徴を分析」→「自分に当てはめる」という手順で行ないます。

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キャリア段階別のロールモデル例

ロールモデルの探し方と活用法を学びました。しかし、どのような人をロールモデルに定めるべきか、まだよくわからない方もいるかもしれません。そこで、「新人」「中堅」「管理職」「スペシャリスト」という4つのキャリア段階ごとに、ロールモデルの設定例をご紹介します。

新人(~入社3年)

入社3年目くらいまでの会社員が設定すべきロールモデルとして、「ロールモデルマニュアル」には、以下2種類の人物像が挙げられています。

積極的にさまざまな仕事にチャレンジしている人

入社から3年くらいは、右も左もわからない時期。仕事の全体像も、目指すべき方向性もわからず、目の前の仕事にしがみつくので精一杯、という方がほとんどだと思います。だからこそ、与えられたチャンスはどんどんものにし、こなせる仕事の幅を積極的に広げていくことが大切です。

自分なりの基準をもって行動している人

自分なりの目標を見つけることも大切です。「とにかく笑顔だけは絶やさないようにしよう」「みんなが気持ちよく働けるよう、コミュニケーションには人一倍気を遣おう」「将来的に起業したいので、ひとつでも多くのことを学び取ろう」など、仕事がわからなくても何かしらの指針をもって行動していれば、モチベーションを維持しやすいはず。

中堅(入社3年~30代前後)

入社3年~30代前後の若手・中堅社員に適したロールモデルとしては、以下2種類の特徴が挙げられます。

仕事の幅を広げようと努力している人

入社3年~30代前後になれば、仕事の基本はおおむね把握できます。現在のルーティンワークに満足せず、さらに幅広い業務や、より上流工程の業務に携われるよう、貪欲に学びつづける姿勢をもちましょう。

キャリアビジョンを描き、スキルアップに努めている人

仕事がわかりはじめると、将来的なキャリアアップを見据える余裕が生まれてくるはず。資格を取得するための勉強や、セミナーへの自主的な参加など、自分の市場価値を高める努力を積極的に行なっている先輩・同僚を、ロールモデルとして選びましょう。

管理職

管理職の立場となり、課長・部長などの役職に就いた人には、以下に挙げた3つの特徴をもつロールモデルが最適です。

中心的存在としてリーダーシップを発揮している人

管理職に就くということは、「指示する側」に回り、いよいよ自分の判断で仕事を動かしていくわけです。部下の暴走やトラブルにも動じず、的確に部下をマネジメントできるベテラン上司などが、ロールモデルに適しています。

全体の目標のためにマネジメントできる人

一人ひとりの部下をまとめ上げるだけでなく、部署全体、ひいては会社全体の目標を達成するために、的確な判断・マネジメントを行なうこともリーダーの役割です。マネジメントに関する専門的な知識や思考法は、上司の背中を見て学ぶのにも限界がありますから、著名な経営者やリーダーの著書にロールモデルを求めるのも、有効な手段です。

現状にあぐらをかかずに向上心を抱きつづけている人

管理職に就くと、収入の面でも、社会的ステータスの面でも、気持ちが満たされてきます。しかし、そこで満足するのではなく、リーダーとしてのスキルを磨くなどして、さらに上を目指しつづける貪欲さを忘れないようにしましょう。

スペシャリスト(エンジニア・医者・職人など)

小学館の『デジタル大辞泉』によると、スペシャリストとは「特定分野を専門にする人。特殊技能をもつ人」。たとえば、エンジニアや医者、職人などは、特定のスキルを専門にしているので、スペシャリストだといえます。反対に、一般的な会社に勤める多くのビジネスパーソンは、営業部から人事部へ異動になったり、同じ営業職でも担当する商品が替わったりするので、スペシャリストとは反対の「ゼネラリスト」(いろいろな分野の知識や能力をもっている人)です。

なお、この解説が「管理職」の次に来ているとはいえ、管理職からスペシャリストにステップアップするというわけではありません。システムエンジニアの例だと、30代で管理職に昇進し、実務作業から離れる人もいれば、独立してフリーになる道を選ぶ人もいます。

スペシャリストが目指すべきロールモデルの特徴としては、以下の2種類が挙げられます。

専門分野をもち、スキルを積極的に高めながら働いている人

スペシャリストは、ひとつの分野を究めるため、常にスキルをブラッシュアップしつづける姿勢が必要です。ロールモデルを探したり、仕事への向き合い方を学んだりするのには、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』や毎日放送の『情熱大陸』など、一流のスペシャリストたちに密着取材したドキュメンタリー番組も参考になるでしょう。

活躍の場を広げながら能力向上に努めている人

専門スキルを「深める」一方で、「広げる」努力も大切です。エンジニアの例でいうなら、プログラミング言語を5つ使える人よりも、6つ使える人、7つ使える人のほうが、活躍の幅は広がります。専門分野のなかで、どの方向に知識を広げれば自分の市場価値が高まるかを考えつつ、スキルアップを続けていきましょう。

「新人」「中堅」「管理職」「スペシャリスト」における、ロールモデルの例をご紹介してきました。いずれのキャリア段階においても、現状より高みを目指しつづけ、成長につながる行動を積極的に起こしている人が、ロールモデルにふさわしい人物像として推奨されています。

***
ロールモデルの存在は、「登山ガイド」のような道しるべとなり、私たちを最短距離でゴールへと導いてくれます。仕事の目標が見つからない方や、目標が明確でない方は、まずは尊敬できる人を見つけ、愚直にまねしてみることから始めてはいかがでしょうか。

(参考)

goo辞書|「ロールモデル」の意味
厚生労働省|メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル
大塚寿(2016),『20代のうちに知っておきたい100の黄金ルール 1万人のビジネスパーソンから学んだ成功法則』, PHP研究所.
方喰正彰(2016),『とことん調べる人だけが夢を実現できる』, サンクチュアリ出版.
日経 xTECH|飲料の商品開発は毎年「2勝100敗」キリンビバのヒットメーカーが明かす
佐藤章(2009),『ヒットを生み出す最強チーム術』, 平凡社.
川上量生(2014),『ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち』, 日経BP.
ZUU online|元野村證券トップセールスが語る金融営業の極意
冨田和成(2017),『営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて』, クロスメディア・パブリッシング.
コトバンク|スペシャリスト
コトバンク|ゼネラリスト

【ライタープロフィール】
佐藤舜

大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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