「勝とう、勝とう」と思うと、かえってものごとがうまくいかなくなることがありますよね。みなさんのなかにも、目の前の勝ちにこだわり過ぎたことで思わぬタイミングで足をすくわれたり、周りの人たちと摩擦を起こしてしまったりしたことはありませんか?
一見、自分だけが損をしているような失敗した方法に思えても、あとで振り返れば「あれが最善の手だった」ということが人生では起こり得るものです。そう、人生は効率だけではうまく回らない側面があるということです。
今回は、「尾木ママ」こと尾木直樹さんに、教育評論家としての人生を支えてきた座右の銘ともいえる考え方をご紹介します。
【格言】 人生は、「負けて勝ちとれ」
わたしが小さかったころ、母がよくいっていた言葉が「負けて勝ちとれ」です。これは、目の前の“勝負”でいったん負けても、そこで培われた信頼感や誠実さなどが人を動かし、あとあと、ちがった場面で生かされて、最終的には大きなものを勝ち取ることができる、といった意味です。 人生の“勝負”はその場限りの1回で決まるのではない。長い目で見て判断せよ、ということでしょう。
思えば、わたしの人生も「負けて勝ちとれ」の精神で支えられてきました。教師生活を潔く辞めて「教育評論家」を名乗ったはいいものの、最初の年の収入は86万円。「これは先々苦労することになりそうだな……」と、自分でも内心焦りましたが、妻の「あなたのやりたいようにやりなさい」という後押しもあって、少しずつ仕事が軌道に乗っていきました。最初こそ苦労したけれど、簡単にあきらめなくてよかったと心から思っています。
いま、なににも縛られず、ひとりの教育者として自由に思う存分、自分の信念や思いを伝えることができるのは、わたしにとってなによりの喜びであり、幸せです。人生には、「負けて勝ちとれ」の精神で勝負をかけなければならないタイミングがあるのです。
【プロフィール】 尾木直樹(おぎ・なおき) 1947年、滋賀県に生まれる。早稲田大学卒業後、私立海城高校、東京都公立中学校にて22年間にわたって教職に従事。その後、大学教員に転身し、2012年4月からは法政大学教職過程センター長・教授を務める。子育てと教育、メディア問題の專門家として調査・研究に取り組む一方、知見を活かし各メディアに出演している。近著に『取り残される日本の教育 わが子のために親が知っておくべきこと』(講談社)、『教育とは何?―日本のエリートはニセモノか―』(中央公論新社)などがある。
Photo◎川しまゆうこ
*** ある分野で名を成している人ほど、じつはその陰で数多くの負けを経験しているものです。負け続けたからこそ、それが意味するものを深く見つめ、結果的に勝ちへとつなげる努力を続けてきたのです。
勝ち負けがあるからこそ「勝負」であり、勝ち続ける人生などありません。だからこそ、勉強でも仕事でもどんなことでも完璧さにこだわることなく、長い目で「勝ちとれる」生き方をしたいものです。