先行きの見えないこれからの時代を生きるうえで、もっとも重要な財産というとなにをイメージしますか?

大企業を中心としたクライアントを相手に経営コンサルタントとして活躍する平野敦士カールさんは、「それは人脈だ」と断言します。その根拠とはどんなもので、どんな人脈を築いていくべきなのでしょうか。ネットワーク理論、そして、自身の経験を通じて語ってくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子

誰かと誰かをつなぐポジション——「ブリッジ」を取る

いま、将来に不安を抱えている人も多いでしょう。1990年には2割だった非正規雇用の割合は、2017年には4割に膨れ上がり、経済格差はどんどん拡大しています。そして、世帯所得の中央値は、1995年の550万円から2015年には428万円にまで下がっている。おまけに、少子高齢化の進行により年金受給開始年齢は3年以内に70歳になるとも言われていますよね。日本人男性の平均健康寿命は72歳ですから、いわゆる老後の楽しみを味わえるのは2年間だけになってしまうということです。つまりは、「寝たきりになるまで働け」と言われているようなもの。にもかかわらず、技術革新によって現在の仕事の4割はAIに奪われるという話まであります。

こんな情報ばかりを聞かされては、不安にならないほうがおかしいほどです。となると、どんな時代の変化があっても生きていける力を身につける必要がある。では、その力とはどんなものでしょうか? 不動産などなんらかの資産を持っておきたいと考える人もいるでしょう。でも、それを持つにもお金が必要です。なにが起きるかわからない時代のなかでいちばんたしかなもの――それこそが「人脈」だとわたしは考えています

なにしろ、人脈はほぼ無料で構築可能。もちろん、不動産などとちがって非課税です。誰かと友だちだからといって、税金を徴収されることはありませんからね(笑)。また、サラリーマンであっても独立事業者であっても、立場によらず誰もがつくることができる。そして、人脈はそれぞれの固有の財産であり、基本的には誰かに奪われるということもありません。

ただ、人間関係のなかで自分がどんな「ポジション」を取るかということが非常に重要です。自分がいなくなってもすぐに代替が利くようなポジションではあまり意味がありません。誰かと誰かをつなぐことができるのは、自分だけだというポジション――ネットワーク理論で「ブリッジ」と呼ばれるポジションを取らなければならないのです。そして、数多くのブリッジを手にすると、ブリッジを超えて「ハブ」と呼ばれるようになります。多くの航空路線の中心として機能する「ハブ空港」という言葉がありますから、イメージしやすのではないでしょうか。

実際、現在のビジネスシーンで成功しているのは巨大なハブを持つ企業やサービスです。「誰かと誰かをマッチングする」サービスが大きな利益を生んでいますよね。『YouTube』は世界最大の動画コンテンツサイトですが、オリジナルの動画はほとんどつくっていません。やっているのは、動画を公開したい人と動画を見たい人、広告主などをつなぐということだけ。膨大な量のブリッジを手にする仕組みをつくりあげたからこそ、『YouTube』はコンテンツをつくることなく大きな利益を上げているのです。

これは、『Google』『Apple』『Facebook』『Amazon』などのプラットフォーム企業にも共通するものです。これらの企業は、誰と誰をどう結びつけるかということを考えた結果、誰も思いつかなかったサービスを生み出した。言葉は少し悪くなりますが……「自分でやらずにいかに人にやらせるか」という発想を持って、唯一無二の「ハブ」になったということなのです。

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知識や理論に走り過ぎず「波長」の相性を見る

これは、本来はプラットフォーム戦略®という企業戦略の理論ですが、先に少しお伝えしたように、人間関係においても生きる考え方です。

わたしの場合、かつて日本興業銀行やNTTドコモに勤めていた頃に、いろいろな人から「この案件はどこの部署に持っていくのがいいか」というような相談をされることがとにかく多かった。当時は「電話交換手みたいだな」なんて思ってちょっと不愉快でもあったのですが……(笑)、結果的にすごく感謝されました。あとから、「顧問になってほしい」だとかいろいろな話につながることにもなったほどです。

振り返ってみれば、当時のわたしがいたポジションはブリッジに他なりません。相手の目的は抱えている案件を最適な部署に持っていくこと。直接わたしに用があるわけじゃないし、わたしがその案件を処理しなければならないわけでもない。最適な部署を紹介するという相手の目的を叶えてあげるだけでいいのです。つまり、「誰かと誰かをマッチングする」だけのこと。これは、すごく簡単なことですよね。なんらかのビジネススキルを求められるわけでもありません。求められるのは、それこそ人脈だけ。だからこそ、人脈の重要性が証明されているとも言えると思うのです。

とはいえ、「人脈をつくるんだ」「ブリッジを取るんだ」とあまり躍起になる必要もないかもしれませんね。そういう知識、理論を知っておくことは重要かもしれませんが、人間というのは「波長」が合うかどうかが、結局はその関係性を大きく左右するものですから。いくら「この人と知り合っておけば得をする」と思う人であっても、波長が合わない人との関係は続かない。これについては、残念ながら理論的にはなにも言えません(笑)。ただ、わたしの経験から断言できることでもあります。

あまり深く考え過ぎたり、人脈構築術といったものに走ったりことなく、とにかく数多くの波長が合う人となるべくいい関係になっておく。そういうことが、結果的には数多くのブリッジをつくってくれるのだと思います。
(プラットフォーム戦略®は(株)ネットストラテジーの登録商標です)

【平野敦士カールさん ほかのインタビュー記事はこちら】
「人脈を築けない人」2つの致命的欠陥。異業種パーティーより大切にしなければいけないこと。
良質な人間関係は “昼12時” から始まる。口下手でも人脈が築ける「アライアンスランチ入門」

『世界のトップスクールだけで教えられている最強の人脈術』

平野敦士カール 著

KADOKAWA/中経出版(2018)

【プロフィール】
平野敦士カール(ひらの・あつし・かーる)
1962年4月21日生まれ、アメリカ・イリノイ州出身。経営コンサルタント。株式会社ネットストラテジー代表取締役社長。社団法人プラットフォーム戦略協会代表理事。麻布中学・高校、東京大学経済学部経済学科卒業。日本興業銀行、NTTドコモを経て、2007年、コンサルティング&研修会社・株式会社ネットストラテジーを創業。ハーバードビジネススクール招待講師、早稲田大学MBA非常勤講師、BBT大学教授、楽天オークション取締役、タワーレコード取締役、ドコモ・ドットコム取締役を歴任。著書に『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)、『ビジネスモデル超入門』(ディスカヴァー21)等、監修本に『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社)、『大学4年間の経営学見るだけノート』(宝島社)など20冊以上。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。