強いのは「経験×リスキリング」で相乗効果を生み出せる人。AI時代のキャリアアップに不可欠な思考習慣

AI時代に活躍しているビジネスパーソン

非IT企業の非IT部門で働く人にとって、「AI」はどんな存在でしょうか。なかには、「自分には関係ない」と考えて傍観している人もいるでしょう。でも、「業種や職種を問わず、これからのキャリアアップに重要な鍵を握るのがAIだ」と言われたらどうですか?

そう語るのは、日本企業へのAI導入を支援している石角友愛さん。その言葉の真意と、これからのキャリアアップに必要な思考について解説してもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
石角友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー。2010年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行な
うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、芝国際中学・高等学校に対しAI人材育成プログラム「AIと私」を提供。順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)および東京大学工学部アドバイザリー・ボード、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
日経クロストレンド、毎日新聞、ITmediaなど大手メディアでの連載をもち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。
「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などテレビ出演も多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

これから目指すべき「π型人材2.0」とは?

AIがただ注目を集めるだけでなく、実際にさまざまなビジネスシーンで活用される時代になっています。そうしたなかにおいては、AIツールを活用していかに効率的に仕事をこなせるかということも、大きな評価軸となるはずです。

それは、ITエンジニアだけに言えることではありません。たとえば仕事に必要な書類の文章も、ChatGPTを使えば短時間で編集することができます。そのように、新しい仕事の進め方を提案できるかどうかが、これからのキャリア構築のうえで重要な鍵を握っていくと思います。

そういう意味で、「π型人材2.0」を目指すことを私はおすすめします。従来のπ型人材はπという形のとおり、ふたつの専門分野(足)をもち、それらを結びつける視野をもつ人材を指します。そして今回紹介する「π型人材2.0」は、それをさらに進化させた姿です。

π型人材の特徴は、これまでの業務経験から習得している専門分野である「ドメイン」をもちながら、リスキリングによりふたつめの専門分野である「スパイク」を新たに習得することにあります。スパイクは、ドメインと異分野であることで相乗効果をもたらし、キャリアの拡張性を高める役割を果たします。そして、このふたつの異なる知識や技術の点と点を結ぶことで新しい価値を創造する能力を「マスター」と呼びます。

「π型人材2.0」のイメージ
出典:『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(石角友愛 著・日経BP)

有名なところで言うと、スティーブ・ジョブズが開発したマッキントッシュ(Mac)は、ジョブズのドメインであるITスキルと、スパイクとなるカリグラフィーの知識が、マスターによって結びつけられた結果、イノベーションが生まれた例です。

このように生成AI全盛の時代に生き抜く人材とは、自身の力(ドメイン)と、新しい力(スパイク)を統合(マスター)し、新たな価値を提供できる人材であると考えています。

そのπ型人材がスパイクスキルを取得し、マスターへと転換するリスキリングを継続的に行ない、πの形をどんどん太らせて成長させていく学びのプロのような人材こそが、変化の大きい時代に価値のある「π型人材2.0」であると考えます。これは、キャリアアップを目指すすべての人に共通して必要な考えだと思います。

AI時代に目指すべきπ型人材2.0について解説する石角友愛さん

あらゆる事例を自分事に落とし込む

では、そのπ型人材2.0になるためには、どのようなことが必要になるでしょう。繰り返しになりますが、なんらかのドメインスキルをもっていることは大前提。ですから、まずは自分の仕事にしっかりと向き合い、そのなかで知識や知見をどんどん増やしていきましょう。また、一定のタイミングでChatGPTを使うなどして、スキルの棚卸しをするのもおすすめです。

加えて、「転換思考」というものをもってほしいと考えます。いまは膨大な情報があふれている時代ですから、たとえば、ビジネスにおけるAIの活用事例を探してみましょう。これもChatGPTを使えば一発で見つけることができます。

そうして見つかった活用事例を見て、「へー」で終わってしまえば意味はありません。医療業界や物流業界、その他あらゆる業界でのAIの活用事例を自分事としてとらえ、「自分の仕事で活かすにはどうすればいいのだろう?」と発想を転換する——それこそが転換思考です。

たとえば、あるニッチな業界の中小企業の人事部で働いている人がいるとします。そのような場合、まったく同じ業界の人事業務におけるAIの活用事例をピンポイントで探そうとしても、そう簡単に見つかるものではありません。

そんな活用事例が見つかるようになる頃には、おそらくその業界では企業の規模の大小を問わず、ほとんどの企業がすでにAIを活用して成果を挙げていて、競合他社に大きく遅れをとることになるでしょう。そうなれば、そこで働く自分の評価が業界のなかで上がることもありません。

だからこそ、他業種・他職種の活用事例の情報であっても、自分事へと転換し、さらにそこから価値に転換していく思考こそが、競合優位性を得るために重要となるのです。

AIの活用事例を知ることが大切だと語る石角友愛さん

技術とはただの横串に過ぎない

ひとつ、具体例を紹介しましょう。私はいま、順天堂大学大学院の客員教授もしていますが、ある画像認識技術の事例を紹介し、その技術の活用法を学生たちに考えてもらうという授業をしたことがあります。

その画像認識技術は、医療業界で使われているものです。帝王切開による出産現場で大量の出血があった場合、かつては医師が目視で失血量を推測していました。もちろん、それではどうしても本来の失血量とずれが生じることもあり、合併症を招いたり輸血量が足りなくなったりするといった問題があったのです。

そこで、画像認識技術の出番です。その技術が搭載されたiPadのカメラに血をふき取ったスポンジをかざすと、その血が広がっている面積や血の色の濃さなどによって、失血量を正確に測ってくれるのです。

では、その技術を応用すると、ほかにどんなことができそうですか? たとえば、食事の写真を撮影するとカロリー計算をしてくれるとか、運動後の服の写真から発汗量を測定してくれるダイエットアプリなどもできそうですよね。

要は、「技術とはただの横串に過ぎない」ということです。先の画像認識技術もそうですが、AIには「医療業界でしか使えない」といった制約があるわけではありません。それこそChatGPTだってどんな業界の人にも使えます。

そのように考えて、どんな業界のどんなAI導入事例について見聞きしても、どんなAIツールが登場しても、常に自分事に転換してとらえ、なんらかの相乗効果を起こせないかと考えるくせをぜひ身につけてほしいと思います。

AI時代にキャリアアップしていくための思考法について解説してくれた石角友愛さん

【石角友愛さん ほかのインタビュー記事はこちら】
“ハーバードMBA→グーグル→会社経営” の私が思う、このAI時代で「日本人に足りない2つの視点」
新卒でいきなりマネジメント。成長しないわけがない「グーグル式仕事術」のすごさ。
“暗記重視” がキケンな理由。自分の頭で考えられる人になるための「ハーバード式勉強法」
「AIに仕事を奪われるかもと心配する人」と「AIの進化とともに成長できる人」のたったひとつの違い
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