これまでに数々のイノベーションを起こし、世界中の誰もが知る巨大テクノロジー企業「Google」。アメリカにある本社に若くして入社した日本人女性が石角友愛(いしずみ・ともえ)さんです。現在はパロアルトインサイトCEO兼AIビジネスデザイナー として独立し、日本企業へのAI導入を手がけています。
日米をまたにかけて活躍する石角さんが、Googleならではのすごい仕事術を教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
シリコンバレーで働く夢を捨て切れずGoogleへ
わたしが2010年にハーバード・ビジネススクールを卒業したあとに入社したのは、アメリカのGoogle本社でした。当時、じつは日本の戦略コンサルの会社からオファーをもらっていて帰国する予定だったのですが、どうしてもシリコンバレーで働いてみたいという思いが捨て切れなかったのです。しかも、一番クールで伸びている技術系の会社で働くことで学べることがたくさんあると考えていました。それで、Googleを志望したわけです。
もちろん、就活にあたってはものすごく勉強しました。Googleに関するあらゆる本を読んだり、マリッサ・メイヤー(元Google副社長)の講演を聴いたりして、Googleのビジョン、DNA、考え方、仕事の仕方を事前に自分のなかに取り込みました。それこそ、入社する前からGoogleの社員のように振る舞えるくらいでしたね。
そうして入社したGoogleでは、日本語では「分類器」と訳されるクラシフィケーションというシステムをつくるチームに最初はいました。たとえば、「Googleショッピング」で「iPhone8」と検索した結果としてきちんとiPhone8が表示されて、かつ、ほかの機種は表示されないようにする。また、加えて「SIMフリー」のフィルターにチェックを入れたら、きちんとSIMフリーのものだけが表示されるようにするといった技術です。それらはほとんどAIでやっているのです。
日米企業の大きな違いは「当事者意識」と「ゴール設定」
その後、日本とアメリカを行き来しながら働くうちに感じたのは、日本とアメリカの企業における「当事者意識」と「ゴール設定」の在り方の違いです。
Googleはそれこそ新卒の人間でも数人のコントラクター(請負業者)のマネジメントをすることになる。20代になって間もない人間でも、入社した途端に当事者意識を持たせられるわけです。
また、ゴール設定という点で重要となるのが、OKR(Objectives and Key Results)という目標管理法です。これは、四半期ごとにすべての社員に提出させる目標であり、つまりゴールです。そして、そのゴールに至るためにはなにをやればいいのかということも併せて提出させます。
日本の企業に入社したばかりの若い社員の場合だと、どうしても「いわれたことだけをやらされる」ということになりがちですよね。当事者意識を持つことも自らのゴールを設定することもないのですから、アメリカのビジネスパーソンに比べれば、仕事に臨む姿勢には大きな違いが出てくるはずです。
また、よく日本人が苦手だとされることとして「効率化」が挙げられます。その点ではやはりGoogleはかなり進んでいたように思います。ミーティングを例にすれば、日本だと議論には参加しないでずっとメモをしているような人がいますよね? そして、ミーティングのあとで議事録にまとめて共有する。これでは無駄が多いように感じます。
一方、Googleの場合はどうかというと、みんなで「Google Docs」を使います。共有ファイルですから、参加者それぞれが書いていることを見ながら議論もできますし、そもそもあとから議事録をまとめて共有するような必要もありません。
また、ミーティングの時間自体も基本的に30分以内です。しかも、参加者にはミーティングがはじまる前にメールがあり、議論すべきアジェンダが明確に伝えられます。日本の企業のように、話し合うこともさほどないのに大勢が集まる定例会議といったものはありません。
おもしろいところでいうと、Googleでは書類をプリントアウトする人が誰もいなかったということ。チームのメンバーとは必要なものはGoogle Docsで共有していますから、プリントアウトする必要がないのです。オフィスにプリンタはあったように思いますが、使っている人は見たことがありませんでしたね。
「Win-Win-Win」の状況を生む副業の在り方
そういうふうにアメリカで仕事をしてきたわたしが日本のみなさんの働き方に提案するとしたら、「副業」に対する考え方になります。
いま、日本は副業がブームになっていますよね。でも、日本での副業に対する認識は、「本業の空き時間でお小遣いをちょっと増やすための仕事」といったものでしょう。これは本当にもったいないことだと思います。そこで、Googleで採用されていた「20%ルール」の考え方を副業にあてはめてほしいのです。
知っている人も多いかもしれませんが、20%ルールとは、「勤務時間のなかの20%の時間を、通常の職務を離れて従業員自身が取り組みたいプロジェクトに費やすことができる」というもの。その20%ルールによって、Google DocsやGmailなどGoogleの主要サービスが数多く生まれたことから、Googleのイノベーションの源泉といわれることもあります。
本業とまったく関係のない副業をしてお小遣いを稼ぐことも悪いことではありませんが、それでは本業のスキルにはなんの影響も与えてくれませんよね。そうではなくて、自身のキャリアを形成していくうえで、本業に対して副業がポジティブな影響を与えるようなものであるべきではないでしょうか。
そうすれば、副業をする本人、その人を受け入れる企業、その人を正社員として雇っている雇用主の3者にとって「Win-Win-Win」という状況を生んでくれるはずです。
【石角友愛さん ほかのインタビュー記事はこちら】
“ハーバードMBA→グーグル→会社経営” の私が思う、このAI時代で「日本人に足りない2つの視点」
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【プロフィール】
石角友愛(いしずみ・ともえ)
AIデザインビジネスカンパニー「パロアルトインサイト」CEO。AIビジネスデザイナー。お茶の水女子大学附属高校を中退し、16歳で単身渡米。ボーディングスクールを経てオクシデンタル・カレッジに進学。帰国後に起業家を支援するインキュベーションビジネスを立ち上げて3年間運営するも、2008年に再び渡米しハーバード・ビジネススクールに入学。2010年に長女出産と同時にMBAを取得。Google本社にシニアストラテジストとして勤務し、多数のAIプロジェクトをリード。2012年に退職し、HRテックや流通AIベンチャーを経てシリコンバレーでパロアルトインサイトを起業。日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供している。著書に『才能の見つけ方 天才の育て方 アメリカ ギフテッド教育 最先端に学ぶ』(文藝春秋)、『可能性を見つけよう 世界のエリートから学ぶ自分の枠を突破する勇気』(講談社)、『ハーバードとグーグルが教えてくれた人生を変える35のルール』(SBクリエイティブ)、『私が「白熱教室」で学んだこと ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで』(CCCメディアハウス)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。