パロアルトインサイトCEO兼AIビジネスデザイナーとして、日本企業へのAI導入を手がけている石角友愛(いしずみ・ともえ)さん。
石角さんは16歳で日本を飛び出し単身渡米すると、ボーディングスクール、オクシデンタル・カレッジ、ハーバード・ビジネススクールと、アメリカの学校で学び続けてきました。
日本とアメリカの教育現場には、どんな違いがあるのでしょうか。日本人が取り入れるべき「学びの姿勢」を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
アメリカの学びに求められる「主体性」
日本とアメリカでは、企業にさまざまな点で違いがあるように、「学びの姿勢」にも大きな違いがあるように思います。
アメリカの場合は、それこそ「主体性」が求められます。自分はなにが好きなのか、なにを学びたいのか、どうすれば幸せになるのかと考え、たくさんの教科と先生のなかから自分が「これだ!」と思うものを選択していきます。
しかも、勉強の内容は本当に大変なのです……。日本で一般的な「暗記すればいい」といったものではありません。基本的にすべて論述式で、暗記しただけのつけ焼き刃の知識では対応できないです。でも、自分の「好き」で選んだわけですから、誰もが主体的にしっかり学ぼうとします。
わたしは日本の学校には高校1年までしか通っていませんから、そのあとのことはまわりから聞いた話でしかわかりませんが、個人差こそあれ、日本の大学生はあまり勉強をしないといいますよね。それだと、与えられた課題をこなすだけというふうになりがちです。
「学ぶことってどうしてこんなに楽しいんだろう!」と思っているような、主体性と知的好奇心を持っている人にとっては、日本の学習環境はあまりおもしろく感じられないのではないでしょうか。
人生において「正しい答え」なんてものはない
少し前に日本の女子高生に向けてトークショーをしたときに出会ったひとりの生徒が印象に残っています。
彼女は大学で天文学と教育学を学びたいと考えている生徒でした。天文学と教育学が融合するところに自分のパッションがあると考えているのですが、日本の大学ではその両方を専攻して学士を取ることができないのだそうです。それで、アメリカに留学するつもりだと語っていました。
わたしは、彼女のような日本人がもっと増えてほしいと思っています。ただ単に留学したほうがいいといいたいわけではありません。しっかりとキャリア形成のデザイン能力を持っていて、かつそのキャリアを歩むためには日本を出ることもいとわない。そういう主体性が人生においては重要だと思うのです。
そもそも、数学などのテストは別としても、人生において「正しい答え」なんてものはありません。「なにが正しいか」は、個人の置かれている状況によって違ってくるものだからです。それこそ、人によっては黒が白に見えることだってあるわけです。
わたしがアメリカで学んだことのひとつは、この「正しい答えはない」ということです。「君ならどうする?」という問いに対して、「自分ならこうする」という答えがあるだけに過ぎません。でも、それこそがビジネスの複雑さであり、その複雑な状況下で自分はどう判断をするのかと考えるきっかけになるのです。
これからの「個の時代」の鍵を握るアウトプット能力
先にアメリカの学校での授業はほとんどが論述式だとお伝えしました。「正しい答え」に速く正確に到達することを重視する日本のスタイルと比べた場合、大きく違ってくる点として、「アウトプット能力」が身につくということが挙げられます。論文の書き方のイロハを学ぶので、文章の構成力はもちろんのこと、参考文献の引用のルールなどを含め、総合的な「書く力」が身につくのです。
「個の時代」になるといわれる今後に求められる力として、最も重要なものがアウトプット能力だとわたしは考えています。もちろん、それは「書く力」だけではありません。「話す力」もそうですし、なにかを「つくる力」もそうでしょう。
個の時代に個人を評価する基準を考えた場合、もはや大企業の肩書といったものはそれほど力を発揮しないはずです。そうではなくて、個人個人が過去になにを生み出してきたか、なにをアウトプットしてきたかということが評価基準になるのです。「わたしの勤める会社はこんなにすごいんです」ではなく、「わたしはこういうことをしてきました」「こういうことができます」というものを論より証拠で見せられなければなりません。
アウトプットとインプットがいい仕事をするための両輪
アウトプットに慣れていない日本人がそうできるようになるには、とにかくアウトプットをしてみることです。ブログでも「Twitter」でも、いまはいくらでもアウトプットのツールがあふれているのですから、どんなかたちであれ、まずはアウトプットをしてみてください。
それが、大きなチャンスを自分にもたらしてくれることもあります。どんなにおもしろくて画期的なものを生み出したとしても、それをアウトプットしなければ、誰にもその価値を知ってもらうことはできません。でも、たとえばエンジニアが自分でつくったコードを「GitHub」に上げておけば、世界中の人が目にすることになる。そこから、「こんなおもしろいことをやっている人間がいるんだ」「ちょっと会ってみよう」なんて思う人が現れ、大きなビジネスにつながるということは、いまの時代においてまったく珍しいことではありません。
そして、いいアウトプットをするために、いいインプットをすることも心がけてください。たとえばムーク(MOOC/大規模公開オンライン講義)を利用して学び直してみるのもいいですよね。
大学を卒業したあとは、特になにも学んでいないのでしたら、その時点でインプットは止まったままです。そんな古い知識が、変化が加速している時代に通用するはずもありません。アウトプットとインプットを両輪と考え、これからの時代にいい仕事をしてほしいですね。
【石角友愛さん ほかのインタビュー記事はこちら】
“ハーバードMBA→グーグル→会社経営” の私が思う、このAI時代で「日本人に足りない2つの視点」
新卒でいきなりマネジメント。成長しないわけがない「グーグル式仕事術」のすごさ。
【プロフィール】
石角友愛(いしずみ・ともえ)
AIデザインビジネスカンパニー「パロアルトインサイト」CEO。AIビジネスデザイナー。お茶の水女子大学附属高校を中退し、16歳で単身渡米。ボーディングスクールを経てオクシデンタル・カレッジに進学。帰国後に起業家を支援するインキュベーションビジネスを立ち上げて3年間運営するも、2008年に再び渡米しハーバード・ビジネススクールに入学。2010年に長女出産と同時にMBAを取得。Google本社にシニアストラテジストとして勤務し、多数のAIプロジェクトをリード。2012年に退職し、HRテックや流通AIベンチャーを経てシリコンバレーでパロアルトインサイトを起業。日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供している。著書に『才能の見つけ方 天才の育て方 アメリカ ギフテッド教育 最先端に学ぶ』(文藝春秋)、『可能性を見つけよう 世界のエリートから学ぶ自分の枠を突破する勇気』(講談社)、『ハーバードとグーグルが教えてくれた人生を変える35のルール』(SBクリエイティブ)、『私が「白熱教室」で学んだこと ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで』(CCCメディアハウス)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。