「一流のビジネスパーソン」とそうでない人を分けるものはなんでしょうか。仕事を遂行するための具体的なスキル、仕事に対する考え方や姿勢、日頃の行動・思考習慣などさまざまありそうですが、「ピンチの場面での振る舞い」もそのひとつと言うのは、JALの元国際線チーフパーサーとして数多くの一流ビジネスエリートに接してきた山本洋子(やまもと・ようこ)さん。多くのビジネスパーソンが遭遇するピンチの場面を想定して、一流の人がどう対処するのかを教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
理不尽な上司を変えるのではなく、自分が変わる
かつてはJALの国際線チーフパーサーとして、そしていまはキャリアコンサルタントとして、私は多くの「一流」と言われるビジネスパーソンと接してきました。今回は、いわゆるお悩み相談ではないですが、一般ビジネスパーソンが遭遇しがちな「ピンチ」の場面において、私の経験から考える一流の人の対処法をお伝えします。
◆ 上司の指示がころころと変わり、納得がいかないケース
これなど、特に若いビジネスパーソンにとっては「あるある」ですよね。このケースでまず考えるべきは、上司に問題があるのか、それとも指示に問題があるのかということです。
上司に問題がある場合は、「自分が変わる」ことを考えましょう。他人を変えることはそう簡単にできることではありません。朝令暮改で指示を変えるようなもともと理不尽な上司に対しては、どんな働きかけも無意味と言っていいと思います。
ですから、自分が変わるのです。もしかしたら、自分が上司に対して「嫌だ」と思っているために上司が嫌な人に見えているだけかもしれません。あるいは、上司に対する「嫌だ」という気持ちが上司にも伝わり、上司もあなたに対して理不尽な振る舞いをしてしまっている可能性だってあります。こちらが「嫌だ」と思っていたら、相手も「嫌だ」と思うものです。
でも、フラットな目線で見てみれば、「自分が上司に対してよくない態度をとっていたことが原因だったのかも……」と思えることもあるでしょう。それどころか、自分の態度を改めてよくよく上司の話を聞いてみれば、あなたの成長を願って厳しく接していたということがわかることだってあるかもしれません。
一方、指示に問題がある場合は簡単で、そうなった原因を追求すればいいだけのことです。たとえば、指示が変わったのは、上司しか知らない新たな情報によるのかもしれません。そうであるなら、その情報を共有できるようにシステムを変える、あるいは上司の説明不足を解消するように働きかけるといったこともできるはずです。いずれにせよ、ビジネスシーンでは、好き嫌いの感情で人に接しないことが重要です。
自分に仕事が集中していることは、誇るべきこと
◆ お客さまから理不尽なクレームを言われたケース
CAからすると、本当に頻繁にある話ですね……(笑)。もちろん、自分に非があってクレームを言われた場合は誠心誠意を尽くして謝罪すべきです。
でも、相手の勘違いということも十分にありえます。そんなときに絶対にやってはいけないのは、開口一番の言い訳と説明です。こちらに非がなく相手の誤解によるクレームなのですから、「それは誤解です、こういうことなんですよ」と早く本当の状況を説明したくなるのもわかります。でも、相手は頭に血が上っていますから、その説明の言葉には耳を傾けないでしょう。
このときにまずやるべきことは、相手に誤解を与え不快な思いをさせたことに対する謝罪です。いくらこちらに非がないとはいえ、相手に誤解させ、不快な思いをさせたことは紛れもない事実です。そのことに対してまずは謝罪し、相手の気持ちがほぐれたところで状況を説明するのがベストな対処法です。
◆ 自分に仕事が集中して大変な状況なのに、同僚が助けてくれないケース
これはもう考え方次第ではないでしょうか。「どうして自分だけ……」と思ってしまえば、それだけのことですし、そんな思考では二流どまりで終わってしまいます。
ビジネスシーンでは「大きな仕事は忙しい人に頼め」とも言われるように、重要な仕事というものは、デキる人、一流の人にしか集まってこないものです。ですから、たくさんの仕事を任されていることを誇りに思いましょう。その経験は、あなたの同僚にはできないことですし、その経験がいずれは大きな花を咲かせてくれます。
あらゆるケースに求められる「冷静さ」
◆ 自分の部下が大きなミスをしたケース
若いビジネスパーソンにはそう多くあるケースではないかもしれませんが、後輩のミスによって足を引っ張られる、仕事が滞るということはあるでしょう。
こういうとき、「何をやってるんだ!」「どうしてくれるんだ!」と頭ごなしに部下や後輩を叱りたくなるかもしれません。でも、それで事態は好転するでしょうか? 最優先でやるべきことは、部下や後輩を叱ることなどではなく、ミスによって引き起こされた状況を把握し、最良の対処を考えることです。
そのうえで、ミスが起きた原因を追求するのです。もしシステムに問題があればその改善をし、部下に問題があったのであれば適切に指導をするのです。
そして、いずれのケースにも大切となるのは、「冷静さ」です。冷静さを欠いて感情的になってしまえば、不信感を抱いている上司やクレームを言ってきたお客さま、自分を助けてくれない同僚との関係はこじれるだけです。そして、ミスをした部下や後輩を感情的に叱ってしまえば、ミスが招いた事態の収拾そのものが遅れます。そんなことでは、自分の評価を高めることにはつながりません。ピンチであればあるほど、冷静さが求められ、その冷静さこそが一流を目指すために欠かせぬものなのです。
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【プロフィール】
山本洋子(やまもと・ようこ)
1964年生まれ、奈良県出身。接遇研修講師・キャリアコンサルタント。株式会社CCI代表取締役。元日本航空国際線チーフパーサー、客室マネージャー。25年間JALに在籍し、国際線チーフパーサーとしてファーストクラスを担当。海部俊樹元首相や天皇の特別便、MLB選手チャーター便等などで、国内外のVIPに接してきた。その間、客室訓練部での教官、CA採用面接官などを務め、サービス品質企画部ではCA評価システム構築に携わり、のべ6,000人超のCAの査察評価・育成にあたる。退職後は外資系保険会社にて7年間コンサルティング営業に従事。2018年、株式会社CCIを設立。ビジネスマナー研修や経営者のためのサロン、キャリア育成講座などを幅広く展開する。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。