多くの人と接することを要されるビジネスパーソンにとって、「礼儀」が重要であることは言うまでもありません。しかし、「礼儀だけでは足りない」と言うのは、JALの国際線チーフパーサーとして数多くの一流ビジネスエリートに接してきた山本洋子(やまもと・ようこ)さん。一流の人に必要なのは、礼儀に「節度」も加えた「礼節」なのだそう。その礼節を手に入れるため、私たちができることを解説してくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
礼儀と節度のふたつがそろって初めて「礼節」
一流のビジネスパーソンになるためには、もちろんさまざまな要素が必要なわけですが、なかでも私は「礼節」こそが最重要だと考えています。
礼節とは、「礼儀」と「節度」です。社会人として礼儀が重要であることは言うまでもないですよね。でも、礼儀だけでは足りないのです。たとえば、礼儀正しく敬語を使っているだけで十分かというと、そうではありません。「慇懃無礼」という言葉があるように、場合によっては、態度や言葉が丁寧すぎることでかえって失礼になってしまうこともあるからです。
そこで必要となるのが、節度です。節度とは、「行きすぎのない適切な程度」という意味です。相手に対する敬意や思いやりといった礼儀が前提としてあったうえで、行きすぎでないことがポイントになります。
この礼節の有無が、一流の人になるか、あるいは二流どまりで終わるかを分けていると見ています。私がJALのCA時代などに接してきた一流の人たちは、私たちCAに対しても必ず丁寧な敬語を使って話してくださいます。でも、国際線の十数時間のフライト時間のあいだに会話を重ねて互いの距離が縮まってくると、今度は適度にくだけたカジュアルな口調で話してくださるのです。そうして、互いの距離がさらに縮まっていく——。これは間違いなく、きちんと節度が備わっているからこそできることだと思います。
一方、二流どまりの人の場合、相手よって言葉遣いが大きく変わるという特徴があるようです。目上の人に対しては、それこそ慇懃無礼と言えるほどへりくだる一方で、自分の秘書や部下、あるいはCAに対する言葉遣いは尊大なのです。もちろん、CAとしてはお客さまに対するサービスも重要な仕事ですから、それでも問題ありません。ただ、個人としての印象がいいのは、当然ながら礼節をわきまえて初対面のときには丁寧に接してくれる人です。
この「第一印象」こそが重要なのです。相手によって態度や言葉遣いを変える人の第一印象がよくなるはずもありません。仕事の関係で長く付き合うことになったとしても、その第一印象は簡単には拭えないでしょう。そういう印象を与えてしまうと、本当の意味での信用を勝ちえることはできません。
みなさんが一流のビジネスパーソンになりたいと思うのであれば、何より礼節を大切にすることを考えてほしいと思います。
営業マンにとっての最重要ポイントは言葉遣い
みなさんがイメージしやすいように、一般のビジネスパーソンが礼節をわきまえるために行なうべき言動をいくつか具体的に挙げていきます。
◆ 営業等で接客をする人の場合
メインの仕事が接客という人には、礼節が欠かせません。その礼節を身につけるためには、身だしなみや表情などいろいろなポイントがありますが、それらは比較的に簡単に変えられます。最も大きなポイントは、言葉遣いです。なぜなら、長年のあいだに身についた言葉遣いは、身だしなみなどと違って簡単に変えられるものではないからです。
なかには、「お客とフランクに話すことが相手との距離を縮める近道だ」なんて思っている人もいます。しかし、先に挙げた例のように、それは互いの距離がある程度縮まったあとでの話。初対面の人に対してくだけた態度や言葉遣いで接することは、失礼以外の何物でもありません。
きちんと身につけるには時間がかかるかもしれませんが、まずは正しい敬語と丁寧語を身につけ、丁寧に人と接することを心がけましょう。正しい敬語や丁寧語を解説している書籍は書店に行けばたくさん売っています。まずはそれらを手に取って、基本を押さえていきましょう。
◆ 社内オフィスワーカーの場合
社外に出ることがほとんどなく社内の人間としか接することがない人にとっても、もちろん礼節は大切です。その礼節が欠けている人によく見られるのが、「共有」の意識の欠如です。
コピー機などはもちろん、最近広まっているフリーアドレスの会社ならデスクや椅子など社員が共有する物がオフィスにはたくさんあります。それらを使用する際、ほかに使用する人への配慮が必要です。たとえば、コピー機を使用して用紙やトナーが切れたとき、あとに使用する人のために補充しているか、離席をするときには椅子を出したままにせずきちんとデスクに戻しているか。ほんの些細なことですが、意外とできていない人が多いのです。ビジネスシーンでは、共有の意識と他者への配慮、そして他者の気持ちを想像する力が必要です。
使った椅子はもとに戻す。コピー機についても、急いでいて用紙やトナーの補充ができないのなら、「急いでいるので補充できなくて、すみません!」というひとことさえあれば、周囲の人も「大丈夫ですよ」と快く補充してくれるはずです。重要なことは、ちょっとした気遣いです。それが身についている人は、礼節をわきまえた人として周囲から信頼され、いざというときに助けてもらうことができるのです。
リモートワークで必要となる礼節とは?
◆ リモートワーカーの場合
コロナ禍をきっかけに、リモートワークが急激に広まりました。リモートワーカーにとっても、礼節は欠かせません。
オンライン会議など、モニタ画面上だけでのコミュニケーションはなかなか難しいものですよね。やはり、ここでも必要となるのは想像力です。オンライン会議中、必要だからと下を向いてメモをとるといった作業ばかりをしていたら、相手はどう思いますか? 相手からすると、話をちゃんと聞いているのかわかりませんし、寝ているようにも見えるでしょう。
そう思わせないためには、リアルのとき以上に、きちんと聞いているということをアピールしなければなりません。オンライン会議ツールで見られる上半身を使って、リアルのときよりも大きくうなずく、あるいはOKのサインを出すといったジェスチャーをするべきでしょう。
それから、カメラを意識することも考えてみてください。どうしても必要な作業をしているとき以外は、モニタではなくなるべくカメラを見るのです。話している人からすると目が合うため、「きちんと話を聞いてもらっている」という安心感を相手に与えることができます。些細なことに思うかもしれませんが、そのようなことも礼節の一部だと思います。
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【プロフィール】
山本洋子(やまもと・ようこ)
1964年生まれ、奈良県出身。接遇研修講師・キャリアコンサルタント。株式会社CCI代表取締役。元日本航空国際線チーフパーサー、客室マネージャー。25年間JALに在籍し、国際線チーフパーサーとしてファーストクラスを担当。海部俊樹元首相や天皇の特別便、MLB選手チャーター便等などで、国内外のVIPに接してきた。その間、客室訓練部での教官、CA採用面接官などを務め、サービス品質企画部ではCA評価システム構築に携わり、のべ6,000人超のCAの査察評価・育成にあたる。退職後は外資系保険会社にて7年間コンサルティング営業に従事。2018年、株式会社CCIを設立。ビジネスマナー研修や経営者のためのサロン、キャリア育成講座などを幅広く展開する。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。