一流、二流という言葉があります。一般的に、一流とは「その分野で第一等の地位にあること」であり、二流とは「一流より程度がやや劣ること」です。では、「一流のビジネスパーソン」といった場合、どんな人間を指し、どんな要素が求められるのでしょうか。
お話を聞いたのは、JALの元国際線チーフパーサー、元客室訓練部教官の山本洋子(やまもと・ようこ)さん。ファーストクラスで数多くの一流の人たちに接し、一流のCAを育成してきた山本さんが、一流になるための「7つの条件」を挙げます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
メンタルコントロールに長けた人間が成功できる
お客さまであるみなさんの目からは、CAは優雅にサービスをしているように見えるかもしれません。でも、CAは「メンタルソルジャー」であると私は考えています。精神的なダメージを負う場面が多く、メンタルコントロールをうまくできずに退職してしまったCAを何人も見てきました。
逆に言うと、メンタルコントロールに長けた人がCAとして成功をつかむことができ、「一流」に近づくということ。そういう成功者に見られるのは、次のような7つの特徴です。これは、一流になるための7つの条件と言い換えてもいいと思います。
それぞれ解説していきましょう。
まず、CAにとって絶対に欠かせないのが「礼節」です。これについては、上下関係など、CAの職場における人間関係が厳しいということも関係します。ですが、それ以上に、お客さまに対する礼節に欠けて必要以上にカジュアルに接するようなCAが評価されることはありえません。
それから、いい意味で「鈍感」であることも大切な要素です。どんな仕事においても同様ですが、お客さまのなかに理不尽な要求やクレームをしてくるような方がいないわけではありません。そのことについていつまでも気にしてくよくよしていては、CAとしては仕事になりません。もちろん、そういった理不尽な要求やクレームに対してもきちんと対応はしますが、心のなかではスルーするといったことも必要なのです。
最大限の努力をしたうえで、いい意味で開き直る
3つめは「規律」です。当然ですが、航空会社に勤めるCAは遅刻厳禁です。よって、時間を厳守するためのタイムマネジメント術、あるいは自身の健康をしっかり管理することはとても重要なことです。
4つめは「柔軟性」です。先の理不尽な要求やクレームへの対応にも通じることですが、お客さまにはいろいろな方がいますから、どんなお客さまに対しても柔軟に対応することが求められます。また、ときにはエンジンの不具合といったトラブルも起きますので、置かれた状況に対する柔軟性も必要不可欠です。
それから、こう言ってしまうと身もふたもないかもしれませんが、5つめはズバリ「感情コントロール」です。CAの多くは年頃の女性ですから、異性関係などプライベートでの悩みを抱えている人もいます。でも、そういったトラブルの影響を仕事にもち込むことはもちろん許されません。
6つめは「大局観」です。業務中のCAには、お客さまからたくさんの要求があります。たとえば、機内食のミールサービス中に「免税品をちょうだい」と言われるようなことも……。その要求に応じることは簡単ですが、そうしてしまうとほかのお客さまに対するミールサービスが滞ったり、ほかのCAがカバーに入らなければならなかったりします。目の前のことだけではなく、全体を俯瞰していま何をすべきかを考えることが求められるのです。
最後は「開き直り」です。開き直りと言うと、「もうどうなってもいいや」とやる前から諦めてしまうといったネガティブなイメージをもつ人もいるかもしれませんね。でも、そのような後ろ向きの開き直りに対して、前向きな開き直りもあります。
どんなに努力を重ねたとしても、結果そのものはコントロールできません。成果を挙げるために最大限の努力をしたうえで、それでも思うような結果を出せなかったときには、「これだけ一生懸命にやったのだから、良しとしよう!」と開き直り、次に向かって努力を続けられるマインドの有無は、大きな差を生むと思います。
一般ビジネスパーソンにとって最重要である「礼節」
もちろん、これら7つの要素は、CAに限らず一般のビジネスパーソンにとっても重要であることは言うまでもありません。ビジネスパーソンとして成功をつかむことを考えれば、なかでも「礼節」が最重要だと私は考えます。
いくら業務知識があって仕事の遂行能力が高くても、礼節がない人が信用されることはありません。どんな職種であっても、他人といっさい関わらずにできる仕事などないのですから、礼節によって得られる信用こそが、ビジネスパーソンにとって最大の武器となるのです。
ところが残念なことに、いまはこの礼節が欠けている人が多いようです。それこそ、「きちんと相手の目を見て話す」といった、人と接するときにやるべき当たり前のことができていないのです。もちろん、悪気があってそうしているわけではないでしょう。私が推測するに、いまの若い人の場合は幼い頃からデジタル社会で育ってきたために、リアルで人と接する経験と慣れ、対人スキルが足りていないだけだと思うのです。
そうであるなら、そのスキルを知って経験を積めばいいだけの話です。そうするための具体的な方法については、次回の記事(『世界の一流を知り尽くすCA歴25年の元JAL管理職は「エリートに必須の資質」をこう見る』参照)で解説しましょう。
【山本洋子さん ほかのインタビュー記事はこちら】
世界の一流を知り尽くすCA歴25年の元JAL管理職は「エリートに必須の資質」をこう見る
一流ビジネスエリートは「4つのピンチ」をこう乗り越える。危機だからこそ “これ” が必要
【プロフィール】
山本洋子(やまもと・ようこ)
1964年生まれ、奈良県出身。接遇研修講師・キャリアコンサルタント。株式会社CCI代表取締役。元日本航空国際線チーフパーサー、客室マネージャー。25年間JALに在籍し、国際線チーフパーサーとしてファーストクラスを担当。海部俊樹元首相や天皇の特別便、MLB選手チャーター便等などで、国内外のVIPに接してきた。その間、客室訓練部での教官、CA採用面接官などを務め、サービス品質企画部ではCA評価システム構築に携わり、のべ6,000人超のCAの査察評価・育成にあたる。退職後は外資系保険会社にて7年間コンサルティング営業に従事。2018年、株式会社CCIを設立。ビジネスマナー研修や経営者のためのサロン、キャリア育成講座などを幅広く展開する。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。