「とにかく書きまくる」はNG!? 効率的に文章力を伸ばすための4つのヒント――“文章術のプロ” 山口拓朗さんインタビュー【第3回】

「文章は書けばうまくなる」 どこかでこう伝え聞き、文章力アップのためにとにかく量をこなし続けている人もいるかもしれません。でも、この方法では文章力は思うように伸びていかないと、“文章術のプロ” 山口拓朗さんは指摘します。

伝える力【話す・書く】研究所所長 山口拓朗さんへの全4回にわたるインタビュー。第3回では、いよいよ「文章力を伸ばす方法」についてお送りします。

■第2回『書けなければ何も始まらない。「文章力の重要性」と「文章の難しさ」をプロが語る』はこちら

文章力が伸びない一番の理由は “第三者から指摘されない” から

――社会人のスキルのひとつとして「文章力」は欠かせないものですが、きっと多くの人が「文章がなかなかうまくならない」と悩んでいるはずです。文章力を伸ばすには、具体的に何をすればいいのでしょうか?

山口さん: じつは私、大学卒業後に6年間、出版社で編集や記者の仕事をしていたのですが……最初のころは、とにかく原稿を突き返されていたのです。「こんなの原稿じゃない」「とうてい読めない」と。あるいは、読んでもらえたとしても、赤字で埋め尽くされた状態で返ってくる。その赤字を見ながら書き直し、再提出後にまた赤字を入れられ、また書き直し……。そんなことを繰り返しながら、私の文章力は向上していきました。

結局、文章力が伸びない一番の理由って、第三者に指摘されないからなんです。よく「文章は書けばうまくなる」とおっしゃる方もいますが、それはちょっと乱暴だと私は思っていて。自分の文章の至らぬ点に気づけなければ、どれだけ書き続けたとしても、20年後30年後にも似たような文章を書いていると思うのです。

人間って、自分に関することはなかなか客観視できません。逆に、自分の文章の欠点や改善箇所を第三者に指摘してもらえば、「ここが言葉足らずだったんだな」「ここで専門用語ばかり使っていたんだな」と気づくことができます。そういった気づきを大事にしながら書き続ければ、文章力はきっと伸びていきますよ。

だから、第三者から指摘を受けられる環境づくりを始めるべきですね。自分が書いた文章についてアドバイスをもらえるように、同僚や上司に働きかける。わからないところは「わからない」と言ってほしいと、こちらから積極的にお願いする。はじめは少し恥ずかしいかもしれませんが、そういう環境づくりを、皆さんにはぜひしてほしいですね。

文章はプレゼント。「読み手を知る」を心がけよう

――たしかに、普段仕事をしているなかで、「あなたの文章はおかしいよ」と懇切丁寧に指摘されることはほとんどありませんからね。第三者から指摘をもらえるように、自分から積極的に働きかけていくと。

山口さん: はい。それともうひとつ、文章の本質として理解しておいてほしいことがあります。これも私自身の失敗に基づくのですが……。出版社に入ってまもないころ、私は「読者の顔が見えていない」と指摘されることが多かったんです。「それは山口くんが書きたいだけだよね?」「これって本当に読み手が求めている情報なの?」って。“読み手を一番に考え、読み手をきちんと知る” ことの重要性を、繰り返し植えつけられました。

私は常々、「文章はプレゼントだ」と言っています。プレゼントは誰もが贈れますが、贈って喜ばれないケースも多々ありますよね。演劇にまったく興味がない人に演劇のチケットを贈っても、心のなかでは「別に行きたくないし……」と思われてしまう(笑)。逆に、花が大好きな人に花を贈れば、非常に喜ばれるわけです。これって、文章に置き換えてもまったく同じですよね。相手を知り、それに合わせて文章を書く。

仕事の一環として文章を書く以上、そこには何かしらの目的が存在します。社内で企画を通したいのであれば、上司の納得が得られる文章を書かなければならないし、物を売りたいのならば、消費者が買いたくなるような文章を書かないといけない。そして「目的を達成できる文章」こそが「いい文章」なのです。そのためには、「読み手はどういう考えを持っているのか」「読み手は何を望んでいるのか」を知ったうえで、「何を書くと喜ばれるのか」「どう書けばこちらが望むとおりのアクションを起こしてくれるのか」を考える必要があります。

たとえば、複数の上司に企画書を出すとしましょう。3人のA、B、Cという上司がいて、全員にまったく同じ企画書を出している人は、じつはなかなか成長しない。上司Aが採算性に厳しい人であれば、詳細な数値まで盛り込んで理詰めで説明する。上司Bが情熱を求めている人であれば、企画に対するこちらの意欲を前面に押し出す。上司Cが社会的意義を重要視しているのであれば、社会貢献の話を多めに書いてみる。そういうことなんです。

読む側も人間です。読み手ひとりひとりの感情や心理にピンポイントで合わせてあげるのが、目的を達成しやすく成果も出しやすい文章の書き方ですよ。

文章を書くための「質問力」の重要性

――読み手を知ったうえで、次にするべきことは何でしょう?

山口さん: 「文章を書く」とは、自問自答し続けること。自分に質問をし、その質問に答えていくのです。じつは、文章を書くのが苦手な人は、この「質問力」が弱い傾向にあります。

商品Aの説明文を200文字で書きなさい――こう言われたときに、思考が停止して「書けません」となってしまう。でも実際は、“書くために必要な質問をしていない” だけ。「書けない」と嘆くのではなく、自分がすぐに質問を始めないといけないのです。“読み手の代わり” に。

値段はいくらか? 具体的なスペックは? 他社商品との違いは? 開発の経緯は? 消費者に最もアピールできる点は? 単純なものも含めて、いろいろな質問が想像できるはず。そして、この質問に対する答えを書いていくのが、まさに「文章を書く」という行為なんです。

質問に対する答えがわからなかったら、調べればいいですし、人に聞いてみてもいいでしょう。実際に開発の現場に足を運んでみるなんてこともできるわけです。書く材料を集めるためにも、質問の意識を上げることが重要ですよ。

質問することに少し難しさを感じるようでしたら、人にインタビューしてもらうのもいいでしょう。「商品の紹介文を書かないといけないんだけれども、何でもいいから質問してよ」と頼んでみるのです。書く際に使える質問がどんどん集まってきますよ。

文章の基本は “一文を短く”。読み手の負担にならないように注意しよう

――次は、少々テクニック寄りの質問になりますが……。「読みやすい文章」「伝わる文章」を書くうえで、文章の書き方そのもので心がけておくべきことは何でしょうか?

山口さん: “一文を短く” ですね。具体的には、一文が60字や70字を超えてきたら一度読み返してみて、区切れる箇所がないか探してみてください。前後の内容をつないでいる「読点」が、いい目印になるでしょう。

一文を長く書けると、たしかに気持ちがいいものです。よく読めば、論理も破綻していないかもしれません。でも、それは書き手の都合しか考えていない書き方。一文がだらだらと長く続くと、読み手の読解力はどうしても落ちてしまうのです。

句点が打たれるまでのひとつの文章に盛り込む情報はひとつだけ。この「一文一義」の原則のもと、句点で区切りながら慌てずに文章を書いていきましょう。「まずはここを理解させる」「次にここを理解させる」「その次にここを理解させる」というふうに、1回1回うなずきをもらいながら読み進めてもらえるように。シンプルですが、それだけでも読みやすさはだいぶ変わってきます。

一文一義で文章を短く書いていくと、よくある「主語と述語のねじれ」も防げます。主語はあるけれども述語がない。主語と述語がうまく対応していない。文章の理解度を大きく下げかねないミスですよね。これ、文章が長くなればなるほど起こりやすくなるのです。

厳密には、すべてを一文一義でつなげてしまうと少し幼稚な文章に見えてしまうので、ときどき「一文二義」の長めの文章も混ぜてあげると、全体にリズムが生まれます。ただ、ベースは一文一義を心がけましょう。

【プロフィール】 山口拓朗(やまぐち たくろう) 伝える力【話す・書く】研究所所長。出版社で編集者・記者を務めたのちに独立。22年間で3000件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて「論理的なビジネス文章の書き方」から「好意と信頼を獲得するメールの書き方」「集客につなげるブログ発信術」まで実践的ノウハウを提供。現在、中国の5大都市で「SuperWriter養成講座」も定期開催中。著書は『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』『残念ながら、その文章では伝わりません』『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』など10冊以上。文章作成の本質をとらえたノウハウは言語の壁を超えて高く評価されており、中国、台湾、韓国など海外でも翻訳されている。

山口拓朗公式サイト http://yamaguchi-takuro.com

そもそも文章ってどう書けばいいんですか?

山口拓朗

日本実業出版社 (2018)

*** これまで数々の研修を手がけてきた山口さんは、文章力が伸びていく人に共通する特徴として「素直」であることを挙げています。

第三者に指摘してもらえる環境をつくろう。相手を知ろうとしよう。自問自答し続けよう。プロからのアドバイスを素直に受け取ってすぐに実行に移せる人は、斜に構えて何もしない人に比べて、文章力の伸びが格段に違うのだそう。この、「素直」であることの重要性は、文章のみならず、スポーツや技芸などさまざまな分野にも通じるものと言えそうですね。

次の最終回では、ちょっと趣向を変えて「語彙力」のお話を皆さまにお届けします。

■第1回『書けなければ何も始まらない。「文章力の重要性」と「文章の難しさ」をプロが語る』はこちら ■第2回『あなたはどちらのタイプ? 「文章が苦手」2つのタイプの原因と克服法」をプロが語る』はこちら ■第4回『「言葉を知らない」では深い思考ができぬ。語彙力を伸ばす大切な習慣』はこちら

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