「文章を書くのが苦手……」 多くの人が抱いている悩みですが、その原因はいったいどこにあるのでしょうか?
伝える力【話す・書く】研究所所長、“文章術のプロ” 山口拓朗さんへの全4回にわたるインタビュー。第2回では、「文章が書けない」の原因と対処法を詳しく探ります。
文章が苦手な人には、そもそも書くべき情報を持っていない「頭が真っ白」タイプと、情報は持っているものの「文章を上手に組み立てられない」タイプの2つがあると、山口さんは言います。皆さんはどちらに心当たりがありますか?
「文章が書けない」からはもう卒業! 苦手克服のための最適解を見つけましょう。
■第1回『書けなければ何も始まらない。「文章力の重要性」と「文章の難しさ」をプロが語る』はこちら
インプットは充分? 文章は何もないところからは生まれない
――1つめの「頭が真っ白」タイプについてお伺いします。このタイプの人は、何が原因で「文章が書けない」に陥っているのでしょうか?
山口さん: ずばり、インプット不足・情報収集不足ですね。食材をそろえないと料理ができないように、書く材料が何もない状態では、やっぱり文章って書けないものなんです。そんな状態でも、多くの人はなんとかして文章をひねり出そうとしますが……。ひねり出そうとしている時点で、じつは何かが欠けているということに、本来は気づかないといけないのです。
本を読む。人から話を聞く。現場に足を運んで実際に見聞きする。おおげさに言うと「取材」ですが、まずは情報を集めるところから始める必要があります。
その際に大切なのは、目的を持たないまま何も考えずに情報に当たるのではなく、必ず「文章を書こう」という意識を持っておくこと。意識を持つとアンテナが立ち、自分が欲しい情報が自然と入ってきやすくなりますし、自分の行動も変わってきますよ。
情報収集のためには “問い” を立てよ
――「文章を書こう」という意識を持つ。具体的にどうすればいいのでしょう?
山口さん: たとえば、映画のレビューを書かなければいけなくなったとしましょう。きっと多くの人は、映画を観終わったあとに、「さあ、レビューを書こうかな」と、観終わったばかりの映画を思い出し始めます。これがまさに、「文章を書こう」という意識を持たないまま情報に当たっている悪い例。もう出遅れてしまっています。
では、どうすればいいのか。映画を観る前に、「この映画で何を得たいか?」を書き出しておけばいいんです。私はよく3×3の9つのマスを使っていますが、「好きな登場人物は?」「どのシーンが印象に残った?」「心に響いたセリフは?」など、あらかじめ自分で問いを立てて書き出しておくんですね。
そうすると、その問いがアンテナとして張られるので、映画を観ているときの風景ががらりと変わってくるんです。「この登場人物、魅力的だな」「このシーンは感動的だな」「このセリフ、かっこいいな」など、映画を観ながら気づきを得ることができるんですね。
もうひとつ、もう少しビジネス寄りの例を挙げましょうか。工場視察のレポートの提出を上司から命じられたとしましょう。とりあえず工場に足を運んで、現場で(あるいは帰ってきてから)「何を書こうかな」と考え始めるのが遅いことは、先に述べたとおり。行く前に、あらかじめ「こんな課題がありそうだ」と感じるものを書き出しておくんです。「人員面の課題はないか?」「機械の課題はないか?」「コストの課題もあるのでは?」といった具合に。
そうすれば、「リーダーの統率力が足りないようだ」「一部の機械に故障が頻発しているようだ」「スタッフのシフトはもっと効率的に組み立てられそうだ」など、気づきを得やすくなりますし、大事な情報も見落としづらくなります。
「頭が真っ白タイプ」の人は、文章が書けないというよりは、情報をきちんと収集する習慣が身についていないのです。ぜひ、日ごろから問いを書き出してみてください。ほんの少しだけ手間はかかりますが、結果的に、文章作成の効率・生産性がぐんとアップするはずです。
持っている情報は “柱” を立てることで整理される
――次に、2つめの「文章を上手に組み立てられない」タイプの対処法を教えてください。
山口さん: 私が最もおすすめしたいのは、構成のテンプレートをあらかじめ自分のなかに持っておくことです。
こちらのタイプの人は、頭のなかに素材があるのをいいことに、「とりあえず、これを書こう」と、思いついたことを思いついたまま書き出してしまう傾向があります。これが、支離滅裂な流れの文章ができあがってしまう原因なのです。
だからこそ、はじめの段階で文章の構成を決めてしまう方法が有効なんです。「はじめに結論を書く」「次に理由を書く」「そこに具体例を入れ込む」といった具合に、テンプレートの流れに沿って書いていく形です。
この “テンプレート化” には、たとえば会社に行くまでの通勤時間で、パソコンの画面やノートに向かわずとも、頭のなかで文章をある程度組み立てられるようになるというメリットもあります。すると、「結論の部分にこれを当てる」「理由はこれを書く」「具体例として、この話とこの話を書く」といった作業が、頭のなかで自然とできるようになっていきます。テンプレートを知っているからこそですね。
汎用性の高い「結論優先型」と「列挙型」を覚えておこう
――ビジネスパーソンが特に覚えておくべきテンプレートを教えていただけますか?
山口さん: 非常に実用的なのは、先ほども述べた “結論→理由→具体例→まとめ” という『結論優先型』ですね。結論を述べ、そこから細かい部分へと内容を掘り下げていく。ビジネスの世界では「結論を先に」が鉄則。絶対に知っておくべき基本のテンプレートです。
このテンプレートのメリットは、はじめに結論を述べることで文章が脱線しにくくなること。結論に沿った理路整然とした文章ができやすくなるのです。書き手にとっても書きやすいですし、読み手にとっても読みやすいですよね。
もうひとつ挙げたいのが『列挙型』。「この映画が魅力的な理由は3つあります」「工場視察の結果、3つの改善点を発見しました」といった書き方ですね。冒頭で列挙する数を示してから、それぞれの列挙項目について具体的に書いていけばOKです。
テンプレートはほかにもさまざまありますが、ビジネスの世界で汎用性が高い『結論優先型』と『列挙型』の2つを使いこなせるようになることを、まずは目指しましょう。なかには、テンプレートを使うことに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、型は型。できるようになったら、使いやすいように自分なりにアレンジを加えていけばいいのです。トレーニングとして、型に当てはめて文章を組み立てる訓練をぜひ重ねてみてください。
【プロフィール】 山口拓朗(やまぐち たくろう) 伝える力【話す・書く】研究所所長。出版社で編集者・記者を務めたのちに独立。22年間で3000件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて「論理的なビジネス文章の書き方」から「好意と信頼を獲得するメールの書き方」「集客につなげるブログ発信術」まで実践的ノウハウを提供。現在、中国の5大都市で「SuperWriter養成講座」も定期開催中。著書は『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』『残念ながら、その文章では伝わりません』『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』など10冊以上。文章作成の本質をとらえたノウハウは言語の壁を超えて高く評価されており、中国、台湾、韓国など海外でも翻訳されている。
山口拓朗公式サイト http://yamaguchi-takuro.com
*** 「頭が真っ白」タイプと「文章を上手に組み立てられない」タイプ。皆さんはどちらに当てはまりましたか?
情報収集のために問いを立てる。文章を組み立てる際はテンプレートを活用する。原因に対して適切に対処していけば、悩みはきっと解消できます。文章力アップのための基本トレーニングとして、これらをぜひ習慣にしてみてはいかがでしょうか。
次の第3回では、いよいよ「文章力を伸ばす方法」に迫っていきます。
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