「すべて中途半端」
「結局、何もできていない」
こんなふうに “できていないこと” ばかりに目を向け、落ち込んだ経験はありますか? 筆者はたまにそうなることがあります。でも最近、少しでも “できていること” に注意が向くと、物事がスムーズに運びやすくなると知りました。
そこで筆者が思いついたのは、予定ではなく “できていること” で埋め尽くす「できたことカレンダー」。書き続ければ、後悔や不安に悩まされることなく、仕事に打ち込めるようになるのではと考えたのです。実践を交えて詳しく説明しましょう。
「できていないこと」ばかりに目が行く理由
少し前、昔の資料をいまだに片づけられない、書籍等の置き場所が決まらないなどと、“できていないこと” ばかり考えていたら、叶えられていない夢にまで思考が及び、なんだかとても落ち込んでしまいました。
しかし、その際にボーッと眺めていた先が、たまたま以前片づけられた場所だったので、「あのとき、よく頑張って片づけたなぁ」と自分を慰めていたら――ふと「その横に少し資料などを置けるかも」と思いつき、ほかのものについても、続けざまに整理のアイデアが浮かんだのです。
最初から “できていること” に目を向けていればよかった……。そう思いましたが、そもそも人間は、“できていないこと” ばかりに目が向いてしまう状況にあるようです。なぜならば、私たちの日常にはツァイガルニク効果という現象があふれているから。
ツァイガルニク効果とは、ドイツの心理学者が立てた仮説(目標に向かうときは緊張しているが、達成されると緊張が解ける)を、旧ソビエト連邦の心理学者が実験で示し、「未完の課題のほうが、達成した課題より思い出されやすい」と結論づけた現象のこと。
(参考:心理資格ナビ|ツァイガルニク効果とは)
たとえば、話しかけてきた同僚が電話に気づいて話を中断すれば、さほど重要な話ではなさそうだとしても「あの人はいったい何を話したかったんだ」と気になりますよね。中断されたから気になる――これもおそらくツァイガルニク効果です。
「ネガティブスパイラル」に巻き込まれる危険性
じつのところ、ツァイガルニク効果は何年も前からメディアで取り上げられているので、仕事や勉強にうまく利用している人は多いかもしれません。取り組んでいる作業を未完了のまま中断すると、それが気になって適度な緊張感が続き、再開時にパッと集中しやすくなるのです。
単純に考えても、目標達成を目指すなら、達成できていないことに注意を向けるのは正解ですよね。
でも、そればかりだと、ネガティブスパイラルに巻き込まれてしまう危険性も。先の例で言うと、筆者も最初はただ “片づかない” と嘆いていただけなのに、だんだん達成できていない夢や目標についても考えだし、挙句の果てには「太ったし」「目も悪くなったし」「もうダメだ」などと、悪いことばかり考え始めてしまったからです。
心理学研究者で、東京大学大学院医学系研究科 特任研究員の関屋裕希氏も、ないものばかりに目を向けがちな人間のクセが、「後悔や未来への不安」を引き起こすと注意を促しています。
(参考およびカギカッコ内引用元:こころの雨宿り(社会保険出版社)|「ないもの」より「今あるもの」に目を向ける)
つまりは、放っておいても “できていないこと” には意識が向くわけです。私たちはもっと能動的に、“できていること” に目を向ける必要があるかもしれません。
「できていること」に意識を向けるコツ
では、どうしたら “できていること” に目を向けられるのでしょう? じつは、意外と簡単なコツがあるようです。“どこか” ではなく、いまここ・すぐそこに意識を向けるといったところでしょうか。
たとえば前出の関屋氏は、マインドフルネスで自分のからだの感覚に注意を向け、「いつも通り呼吸をしていられる」などと感じてみるようすすめています(参考およびカギカッコ内引用元:同上) 。
そうすれば、確実に自分が “できていること” に目を向けられるわけです。「いつものようによく噛んで、ちゃんと食べている」「いつものようにちゃんと歯を磨いている」――なんてことでもいいかもしれません。できて当たり前のことですが、あえて目を向けてみると、想像以上に安心感が生まれますよ。
あるいは『1日5分 「よい習慣」を無理なく身につける できたことノート』(クロスメディア・パブリッシング)の著者で、株式会社ネットマン 代表取締役社長・CEOの永谷研一氏が伝えている言葉も、大いに参考になります。
同氏は、どんなに小さなことでも、日々の “できていること” に着目すれば、自己肯定感が高い状態をつくれると述べ、そのコツとして
自分は何かできているんだということを前提にして、
考えてほしいと思います。
なぜならば、あなたはすでに「できている」からです。
(参考および引用元:永谷研一@できたことノート&手帳|【vol.3】あなたはすでに「できている」世界一簡単な自己肯定感の高め方)
と伝えています。
あなたはすでに「できている」――この言葉で目からウロコが落ちました。自分の「できた」を無理やり探すというより、自分の「できた」を拾い集めればいいのですね。なぜならば、私はすでに「できている」のですから。
「できたことカレンダー」をやってみた
とは言っても、いきなりコツをつかむのは難しそう。そこで、無理なく日々の出来事を思い浮かべられて、記録しやすい「紙のカレンダー」を使ってみることにしました。
たとえば筆者は、ちょっとした予定を壁掛けカレンダーに書き込んでいるので、「〇〇をやったのはいつだったかな?」などと調べる際にも必ず参照します。たとえカレンダーに書いていない些細な出来事でも、前後の日程と、手書き文字のクセ、そしてその位置関係のおかげで思い出しやすいのです。
自分の “できていること” を無理なく拾い集めるには、ちょうどいいツールではないでしょうか。
そうして、さっそく「できたことカレンダー」用にシンプルなカレンダーを用意して、2024年の2月から始めてみました。まずは、仕事の日報や進行管理シートなどを見ればわかる内容を書いていきます。これなら、必ず細かい仕事の「できた」が存在するはず。
でも、なんだか事務的になりそうなので、雲形フレームで囲み、“できた感” を高めてみました。
書き込んだのは、たとえば「1案件完了」「構成案できた」などといった、ごく単純なことです。
同じ日に雲形フレームで囲んだ「できたこと」を重ねて書くと、よりいっそう気分が上がりますね。
そのうち、だんだん仕事以外の小さな「できた」も思い出し始めたので、区別するためにカラーペンで書いてみたら――
ますます楽しいカレンダーになってきました。「なんにもできていない」と落ち込んでいた時間は、いったいなんだったのでしょう。
ちなみに、思わぬ副産物もありました。自分の仕事のサイクルに、なんとなくリズムがあるとわかったのです。それを分析することにより、仕事の効率化も図れるかもしれません。
今回、この「できたことカレンダー」をやってみて、自分がいかに普段、“できていないこと” にばかりに意識を向けているかがわかりました。多くがムダな嘆きだったのですね。こんなに “できている” のですから。
でも、この実践で、ジワジワと自己肯定感が高まり、仕事や日々のリズムも見えてきましたよ。ぜひ、みなさまも体感してみてくださいね。
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もしも、自分は “できていないこと” ばかりだと感じているなら、「できたことカレンダー」で、たくさんの “できていること” を拾い集めてみませんか?
心理資格ナビ|ツァイガルニク効果とは
こころの雨宿り(社会保険出版社)|「ないもの」より「今あるもの」に目を向ける
永谷研一@できたことノート&手帳|【vol.3】あなたはすでに「できている」世界一簡単な自己肯定感の高め方
STUDY HACKER 編集部
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