今年大きな成果を出し「有意義に過ごせた!」と充実感を味わっている人がいる一方で、「なにも達成できなかった……」と悔やんでいる人も少なくないのではないでしょうか。
次の年を気分よくスタートさせるには、一年の締めくくりが大切。このとき、満足のいく年にできず落ち込んでいる人が ”やってはいけないこと” が3つあるのです。それがいったいなんなのか、ご紹介します。自分を下げることなく今年を振り返る一助になれば幸いです。
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。
STUDY HACKER|疲れていて30%の集中力しかないときでも「やるべきことに確実に着手できる」科学的方法
外山美樹(2005),「認知的方略の違いがテスト対処方略と学業成績の関係に及ぼす影響:――防衛的悲観主義と方略的楽観主義」, 教育心理学研究, 53巻, 2号, pp.220-229.
All About|学習性無力感の克服・対処法…仕事・勉強等に無気力
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|自分に厳しすぎる悪癖を断ち切る5つの方法
やってはいけないこと1. 性格のせいにする
年末の振り返りで、この一年がうまくいかなかった原因を「自分の性格に問題があるからだ」と自己否定するのは避けましょう。
その根拠は、行動分析学における性格に良し悪しはないという考え方です。応用行動分析学を専門とする明星大学心理学部教授の竹内康二氏は、性格は「ある刺激に対してどんな反応を示すのかという、行動の傾向に過ぎ」ないと述べます。(カギカッコ内引用元:STUDY HACKER|疲れていて30%の集中力しかないときでも「やるべきことに確実に着手できる」科学的方法)
たとえば、上司から指示を受けたとき、その指示に忠実に行動する人もいれば、独自のやり方を試す人もいるでしょう。前者はまじめな性格で、後者は好奇心が強い性格かもしれませんが、行動が違うというだけで、両者の性格の良し悪しが決まるわけではありませんよね。
そのことを前提としたうえで、竹内氏は、「『自分にはこういう傾向がある』とただその事実を事実のままにとらえる」ことが大切だと語ります。(カギカッコ内引用元:同上)
「この一年がうまくいかなかったのは、意志の弱い性格のせいだ」と考えるのではなく、「自分は意志が弱い傾向がある」ということだけを把握するのです。
では、自分の傾向を把握したら、その先はどのようにすれば前向きな気持ちで新たな行動を始められるのでしょうか。
特に物事をネガティブにとらえがちな方におすすめの方法のひとつが、“自分の傾向に合わせた予防策を立てる” ことです。
教育心理学を専門とする筑波大学教授の外山美樹氏の論文によると、悲観主義傾向にある人ほど「問題解決場面についてメンタルリハーサルをしたり、起こりうるすべての可能性について広く考えをめぐらしたりすることによって、パフォーマンスが上がる」ことが示されているのだそう。このように、リスクを想定して対処を考える方法を「コーピング・イマジナリー」と呼びます。(カギカッコ内引用元:外山美樹(2005),「認知的方略の違いがテスト対処方略と学業成績の関係に及ぼす影響:――防衛的悲観主義と方略的楽観主義」, 教育心理学研究, 53巻, 2号, pp.220-229.)
筆者が実際にコーピング・イマジナリーを活用して、今後の仕事と勉強の計画目標を立ててみました。
まず、目標に対しての不安要素を洗い出し、その不安の要因になるものを青ペンで書き出しました(画像1)。要因を書き出したのは、次の対策につなげるためです。書き出したら、共通の問題を横に短くまとめます。以下、筆者が書いたなかから一部を取り出して紹介していきます。
- 勉強の目標「心理・経営関連の本を月3冊以上読む」
- 不安要素「勉強する時間が十分にとれないかもしれない」
- 不安の要因「夜時間を有効に使えない」「移動時にかばんのなかに勉強の教材等を入れていない」
- 不安要因に共通する問題「使えるはずの時間を使えない」
次に、最悪のシナリオを防ぐ計画を立て始めます。計画を立てたもののなかで、計画倒れになりそうな要因を青ペンでさらに記入(画像2)。筆者は主に「計画性の甘さ」がネックだと気づきました。
- 計画「スケジュールで空白の時間を把握する」
→計画倒れになりそうな要因「把握して満足した気になってしまうかもしれない」 - 計画「長期目標から逆算し、中期目標を立てる」
→計画倒れになりそうな要因「スケジュールに落とし込むのが面倒になって、続かないかもしれない」
上記をふまえて立てた計画目標がこちら(画像3)。
- 最終的な勉強の計画
「スケジュールには勉強内容を記号化して書き、ノルマの数値を書く(週単位で)。数字を達成していく快感を得る」
「いつも空く時間帯にリマインダー設定して、勉強するよう促す」
筆者には「計画を立てるのが苦手」な傾向がありますが、リマインダー機能の活用や週単位でノルマ設定をすれば、計画倒れを防げると考えました。自分の行動傾向がわかるからこそ、挫折する状況を想定して未然に打ち手が考えられるのですね。どうせ計画を立てられないタイプだから……とだけ考えるより、格段に行動しやすくなると感じました。
不得意な分野は人それぞれ。自分の特徴を分析したうえでシナリオを想像し、あなたにフィットした計画を立ててみてはいかがでしょうか。
やってはいけないこと2.「どうせ無理」と次の行動を諦める
「今年達成できなかったのだから、来年もきっとダメだろう」と次の行動を諦めるのは、好ましくありません。“なにをやってもダメだ” という無気力の状態から抜け出すために、小さな行動から始めてみませんか。
持ち帰りの仕事、人との付き合い、家事に家族のケア――。社会生活を営むうえで必要なさまざまなことをこなしながら目標を達成するのは、容易ではありません。
しかし、そこで「どうせ資格の勉強をしてもムダ。きっとまた合格できないのだから」「環境が変わらないのなら、努力する意味がない。忙しくてまた挫折するだろう」と無力感に慣れてしまうのには、注意が必要。そうした状態のことを「学習性無力感」と呼ぶようです。
精神科医の中嶋泰憲氏によれば、「学習性無力感」とは過去に困難な状況に置かれ、対処できなかった体験から「『無気力になること』で心理的に折り合いをつけてしまった状態」のこと。無気力状態が長く続くと「自尊心の低下や気持ちの落ち込み」が現れ、メンタルヘルスに影響を及ぼすのだとか。(カギカッコ内引用元:All About|学習性無力感の克服・対処法…仕事・勉強等に無気力)
とはいえ、実際に物事がうまくいかないことが続けば、どうしても次の行動に消極的になるものですよね。たとえば、仕事で企画案を何度考えても、上司からダメ出しばかりされる状況下では、「どうせ、どんな案をつくってもダメだろう」と思ってしまうのも無理はありません。
では、そのように落ち込んでいるときは、どういった行動が望ましいのでしょうか。
中嶋氏によれば、初めは大きな目標を目指すのではなく「『自分に達成できる何かを行う』ことが大事」なのだそう。(カギカッコ内引用元:同上)
つまり、「なにをやってもダメだ」と感じてしまったのなら、今度は「自分は達成できる」という自信で上書きすればいいのです。
たとえば、次のようなささいなことから始めてもいいのではないでしょうか。
<仕事> 職場環境をよくするために「あいさつ」を心がける
<勉強> ビジネス書の要約サービスで、1週間に3冊読む
「新しく何かにチャレンジしていく気持ちを『学習』していくことが大切」だと中嶋氏。小さなことでもいいので達成できたら、「また、自分なりの次のチャレンジを考えて挑戦する」といいそうですよ。(カギカッコ内引用元:同上)
うまくいかなかった体験で落ち込んでいる場合は、「急がば回れ」の言葉のとおり、ゆっくりとスタートを切って大きな目標に向かってみてはいかがでしょう。
やってはいけないこと3. 頭のなかで自己批判する
自分に厳しいあまり、内省が自己批判に変わってはいないでしょうか。自分に厳しくすれば、成果が出せる――そう考えているのかもしれませんが、自己批判ばかりしてもいい結果につながるとは限らないものです。
人間行動学の専門家であり、エグゼクティブコーチのメロディ・ワイルディング氏によれば、「自己批判」と「パフォーマンス」には負の関係が示されているのだそう。
調査によれば、自己批判は戦略として不備がある。過度に用いれば、一貫してモチベーションも自制心も低下し、先延ばしが増長される。自己批判は実際、脳を思考停止の状態に移行させ、目標達成のために行動することを妨げるのだ。
(カギカッコ内および枠内引用元:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|自分に厳しすぎる悪癖を断ち切る5つの方法)
たとえば、この一年を振り返って「努力が足りなかったから、目標を達成できなかった」「先延ばしの言い訳ばかりしていたから、なにも成し遂げられなかった」などと自己批判をすればするほど、いいパフォーマンスで次のスタートを切ることはできないのです。
自己批判に陥る人は優秀である一方、「繊細な努力家」と呼ばれるタイプに多いのだと、ワイルディング氏は言います。「自身の高すぎる期待に応えられないと、生来の感受性の強さと考え込む性質によって自己批判のスパイラルに陥」ってしまうのだとのこと。(カギカッコ内引用元:同上)
もしあなたが、今年十分に成果を出せなかったことで強く落ち込んでいるのなら、そんな面をもち合わせているのかもしれません。
「まさに自分のことだ……」と心当たりのある方は、ぜひ、ワイルディング氏が提案する「リリースライティング」を実践してみてください。自己批判の感情を処理するために行なう、「3~5分間ひたすら自由に文章を書き、鬱積したフラストレーションを放出する」というものです。(カギカッコ内引用元:同上)
筆者も新年に描いていた目標に届かず、「努力できなかった」と嫌悪感に苛まれているので、さっそく自分の心にたまっているものを吐き出してみました。1年という長めの期間について吐き出すにはある程度時間が必要だと考え、10分かけて行なうことに。
リリースライティングの結果が、こちらです。
最初は後悔と自己批判の記述が多かったのですが、終盤になるにつれ、目標を達成できなかった真因が浮かび上がってきました。それは、自分のキャパシティを見誤り、欲張って行動していたこと。となれば、「いままでの行動をリスト化し、目標達成に不要なものを洗い出していけばいいのでは?」と気づきました。
自分に厳しい姿勢で自己批判を徹底してしまうと、メンタルやパフォーマンスにも影響を与えてしまいます。フラストレーションにもなるでしょう。あなたもぜひ、次の年の新たな目標を立てる前に、一度心にたまっているものを吐き出してみてください。気づきも得られますし、いい気分で次の年を迎えることができますよ。
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「この一年なにもできなかった……」という後悔や落ち込みは、年内で終わらせましょう。次の年には、新たな気持ちで行動を変えていけばいいのです。この記事が、そのお役に立てれば幸いです。