羽生善治 後悔に囚われることなく前へ進むために、 覚えておきたい天才棋士の言葉【棋士たちの言葉 第1回】

過去の失敗をいつまでも悔やんで引きずってしまう人がいます。たしかに勉強や仕事では「勝負どころ」があり、そのときに致命的なミスや失敗を犯してしまうと大きなショックを受けるのも仕方がないかもしれません。しかし、棋士の羽生善治さんは、そんな若者たちにいつも送る言葉があると言います。

失敗を犯した過去にとらわれず、再び勝負へ挑んでいくためにはどのような姿勢や考え方が必要なのでしょうか? 幾多の天才棋士たちによって将棋界に受け継がれ、羽生さんもよく口にする至極の言葉とは――。

【格言】 指した手が最善手

将棋界には、「指した手が最善手」という言葉がある。羽生善治竜王は若者たちに向けて、この言葉をエールとして送ることが多い。最近では、棋士生活で多忙のなか、高校進学を表明した藤井聡太六段の決断に、谷川浩司九段がこの言葉を引いていた。

将棋は、対局がはじまれば、自分以外には、誰にも頼ることができない。ある意味では、孤独なゲームだ。盤の前に座れば、指し手はすべて、自分で決めなければならない。数ある候補手のなかから、次の一手を選び、その結果は、すべて自分で責任を持たなければならない。

不思議なもので、指した直後に、自分が選んだ手が「悪手だった……」と気づくことも多い。しかしその悪手を、一局を戦う限られた時間のなかで、悔やんでいる暇などない。将棋は「待った」ができないからだ。

一度指した手は、もとには戻せない――。これが将棋の鉄則だ。人生もまた同様であろう。自分が指した手に責任を持って、それを前提として生きていかなければならない。もちろん、悪手に引きずられる必要はない。反省はしても後悔はしない。その局面で再び最善手を探せばよいのだから。そして再び、これが自分の選んだ最善手という自信を持って次の手を進めていく。そうした心構えで一局を戦うのが、将棋の、また人生の達人なのであろう。

*** プロの棋士たちはたとえ勝負どころでミスをしても、その結果を即座に受け入れ、次の最善手を探して前へ進んでいきます。進み続けるからこそ、ミスのなかに次なる成功へつながる貴重な気づきを得たり、勝負をもつれさす幸運を呼び込んだりすることが起こり得るのです。

成功も失敗も、すべての責任を負って生きていくのは自分自身。そんな人生の厳しい「掟」を、棋士たちは盤上の戦いを通して身をもって示しているのかもしれません。

【棋士プロフィール】 羽生善治(はぶ・よしはる) 1970年9月27日、埼玉県所沢市に生まれ、東京都八王子市で育つ。82年、小学生名人戦で優勝し、同年、二上達也九段門下で奨励会入会。85年、四段。89年に竜王、94年には名人を獲得。96年には、史上初の七冠同時制覇を達成した。2017年、永世七冠。18年、国民栄誉賞受賞。タイトル獲得数は歴代1位の99期(18年3月末現在)。

■棋士たちによる『カリスマの言葉』一覧はこちら shogi-kishi-banner1

 

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