勉強熱心を自認し読書量も多いのに、どうにも「身になった」実感がない――。そんな人は、「読書法」を見直してみてはどうでしょうか。
『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社)は、発売から3カ月あまりで発行部数12万を越えた話題のベストセラー。その著者・西岡壱誠(にしおか・いっせい)さんは、読書法を一変させることで「考える力」を劇的に向上させ、見事に東大合格を果たした現役東大生です。そもそもどんな本を読むべきなのか――選書についての考えから、西岡さん流の読書法を聞いてみました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子
「身になる読書」のための4つの選書法
読書があまり得意ではないという人のなかには、「読む本をどう選べばいいかわからない」という人もいるかもしれませんね。僕が考える選書法の基本は以下の4つです。
1. 読まず嫌いをしない 2. ベストセラーを読む 3. レコメンドを信じる 4. マイテーマを決める
一番にお伝えしたいのが、「読まず嫌いをしない」ということ。ここで、みなさんの読書傾向を振り返ってみてください。自分が好きな同じ系統の本ばかり読んでいるという人はいませんか? 自分の考え方や好みと合っているものだけを読んでいると、知識の幅は広がりません。どんなに読書量が多くても、あまり「身にならない」読書をしているということです。
そうではなくて、あえて好みとは真逆の、あるいはまったくちがうジャンルの本を手に取ってみてはどうでしょう。理系の本が好きなら、文系の本を読んでみる。AIや未来についての本が好きなら、歴史の本を読んでみる。詳しくないジャンルの本ですから、最初はスムーズに読み進められないということもあるでしょう。でも、歴史の本を読むことで、もともと好きなAIや未来についての本がさらに面白くなるということもあるのです。
たとえば、これからの社会に起きそうな事象と同じようなことがすでに歴史上で起こっていた……というふうに、新たな発見が絶対にある。知識の幅を広げるとともに、もともと好きだったジャンルについての理解を深めることもできる選書法です。
でも、詳しくないジャンルの本となると、どう選んでいいのかますますわからないですよね。そこで、「ベストセラーを読む」のです。まずは、そのジャンルで話題になっている本を読んでみましょう。
確かに、売れている本でも内容はそれほど良くないものもあるかもしれません。それでも、多くの人に読まれているということは、それだけの理由があるのです。「毒にも薬にもならない」という言葉がありますが、ベストセラーは少なくとも毒か薬にはなる。絶対に心に刺さるものを秘めていますから、まずは、そういうベストセラーから読むことをおすすめします。
また、「レコメンドを信じる」というのも有益な選書法です。いわば、他人のおすすめに従ってみるということですね。身近な人である必要はありません。『Amazon』のレビューなどで自分のお気に入りの本を高評価している人を見つけてみましょう。その人は自分と感性が近い可能性が高いですから、その人がおすすめしている本も自分にぴったりの1冊になる可能性も高いというわけです。
最後は、「マイテーマを決める」。これは、ひとつのテーマに絞って読むということ。「読まず嫌いをしない」ことと矛盾するようですが、そうではありません。いろいろなジャンルの本を読まなければならないと言っても、それぞれのジャンルにつき1冊の本を読んだだけでは、そのジャンルのほんのわずかな知識を吸収したに過ぎませんよね。そうではなくて、1年間などある一定期間を決めて、ひとつのジャンルの本を集中的に読むことで、体系的に知識を手に入れられるというわけです。
疑問を持ちながら読み「アウトプット」することで理解と思考を深める
そうして選んだ本をより深く理解するための読書法は、前回の記事で詳しく述べましたが、もっとも重視してほしいのは、最終的に「感想をアウトプット」するということ。本を読んだにもかかわらず、なんの感想も持てない、あるいはそれを人に説明できないのであれば、ただ字面だけを追っただけでその本を読めていないのと同じことです。
僕がおこなっているアウトプットは、「感想をノートにまとめる」というもの。僕の場合はマイテーマの複数の本を並行して読んでいるので、それらの感想をいっぺんにまとめることもあります。「この本にはこう書かれていた、こっちの本はこうだった、そして自分ではこう思う」ということをまとめています。そうすると、思考が整理され、理解と自分の考えをさらに深めることになるのです。
そして、本の内容を深く理解してアウトプットするには、読み進めながら「疑問を持つ」ことが重要。読書をしていても「なにも得られない」という人は、これができていないのです。簡単なことのようで、じつはこれが難しいんですよ。実際、僕もなかなかできませんでした。でも、その壁を越えると今度は疑問や気づきがどんどんあふれてくるようになります。これが、読書の質を「爆上げ」するポイントですね。
そうして出てきた疑問や気づきは、付せんに書き込んで本に貼っておきましょう。疑問に対する解答が見つかったら、それも付せんに書いてセットで貼ってもいい。僕のまわりには、いろいろなことを本に直接書き込んでいる東大生もいますね。どちらもやっていることの意味は同じです。本を読む際にもっとも良くないのが、ただ漫然と受け身の姿勢で読むこと。付せんを使う、本に書き込むということは、それとは真逆の「能動的な読み方」と言うことができます。つまり、身になる読書法だということです。
そういう能動的な読書をしている人にはひとつの共通点があります。東大生もいろいろですから、それほど本を読まないという人も存在します。それでも、「運命の1冊」と言いますか、「強く影響を受けた本」を尋ねると、誰もが必ず即答することができます。それも、良かった理由とともに1冊の本を挙げられるということは、なにかしらの影響を受け、感想を持てる能動的な読み方をしているということなのです。
【偏差値35から読書で東大合格 西岡壱誠さんインタビュー記事一覧】 第1回:偏差値35から “読書で” 東大合格! 最強の『東大読書』の真髄を探る。 第2回:「身にならない読書」してませんか? 『“東大式” 選書法&読書法』で読書の質は劇的に上がる。 第3回:「自分で考えられない人」に足りない2つのこと。超効率的に『考える力』を身につける習慣とは?
【プロフィール】 西岡壱誠(にしおか・いっせい) 1996年3月13日生まれ、北海道出身。東京大学3年生。歴代東大合格者ゼロの無名校から東大受験を決意。読書法を一変させることで、「考える力」を向上させ東大に見事合格。その読書法をまとめた『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社)は12万部を超えるベストセラーとなっている(2018年9月10日現在)。現在は、家庭教師として教え子に読書法をレクチャーしながら、1973年創刊の学内書評誌『ひろば』の編集長を務める。
【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。