<どうしても、いいアイデアが浮かばない……。そんなときは、ひたすら歩く、昼寝してみる、もしくはコーヒーやお茶でも飲みながら、ボーっとしてみるのもいいかもしれません。その際には、ぜひ「好きな曲」、そして「知らない曲」も聴いてみてください。きっと脳が元気になるはずですよ。その理由を、最新の研究結果などを交えて説明します。
運動するなら「好きな音楽」
たとえば少しきつい運動をする場合は、自分の好きな音楽を聴きながら行うのがベストです。脳研究者で東京大学薬学部教授の池谷裕二氏は、好きな音楽を聴き陶酔しているとき、報酬系の脳内システムが活動し、脳内物質のドーパミンが放出され、喜びの感情が生まれると述べています。
そのため、本来なら辛いランニングや腕立て伏せといった運動の負担が軽減され、比較的ラクに行えるのだとか。でも、アイデアが出ないなら、それプラス「知らない音楽」も必要です。
アイデアが出ないなら「知らない音楽」も
音楽を聴くと、感情や思考に関わる前頭葉や、情動に関わる大脳辺縁系が活性化するといいます。しかもそれが「知らない音楽」なら、ボーっと聴いていても、脳が広範囲に活性化し、強く反応してくれるようです。
知らない音楽がいい理由【その1】
医療法人社団ブレイン・ヘルスの院長で霜田里絵氏は、著書『絶対ボケない頭をつくる! 脳の専門家医が教える元気に、長生きする方法』のなかで、聴きなれた音楽もいいけれど、脳のためには普段聴かないジャンルの音楽も、あえて聴くようにするほうがいいとすすめています。
米ケース・ウェスタン・リザーブ大学のウェイン・ベルガー氏によると、音楽は脳全体にわたる多数の領域に関連しているのだとか。そのため、新しい音や調べを聴くと、脳のさまざまな部位が反応し、刺激されるとのこと。
その結果、より多くの神経細胞が働くようになり、聴覚から得た情報を処理する際に、どんどん脳の広範囲を使うようになるそう。
知らない音楽がいい理由【その2】
2018年11月6日付で「Frontiers in Human Neuroscience誌」に掲載された、国立大学法人東京農工大学グローバルイノベーション研究院・田中聡久教授らの研究では、とくに意識して(集中して)聴かなくても、「知らない曲」には脳が強く反応していることが発見されました。
田中聡久教授のグループは2017年に、馴染みのない曲を聴いているとき、脳波が曲に同調する「引き込み」と呼ばれる現象が、強く現れることを既に示していたそう。しかし、それは、知らないからこそ集中して聴くため、そのような現象が起こるのではないかと考えたのだとか。
ところが今回、音楽への集中度が低い状態と、音楽に注意を向けている状態をつくり、実験参加者15名の脳波を測定しながら、馴染み度と集中度による影響を調べた結果、集中する・しない関係なく、「知らない曲」で脳が強い反応を示すとわかったそうです。
アイデアがでないときはこれだ!
これまでの情報を踏まえ、アイデアがでないときの行動は、以下をおすすめします。
1.「好きな曲」を複数曲ピックアップ 2.「新しい曲(知らない・馴染みのない曲)」を複数曲ピックアップ 3.それらの曲をまとめたデバイスを持って、散歩に出かける
歩くと脳内では、前頭前野が活発化するといいます。それにより脳の処理レベルが上がるのだとか。また、セロトニンやドーパミンの放出により、スッキリ感や快感も得られると近畿大学医学部・講師の生塩研一氏は伝えています。
なおさら「好きな曲」はドーパミンの放出を促進してくれます。ドーパミンは脳を覚醒させ、集中力を高める作用を持っているので、グンと脳が元気になりますよ。
でも、それだけでは足りません!
普段はあまり聴かないジャンル、あるいは聴いたことがない「新しい曲」が必要です。それらを耳に入れることで、脳がより広範囲に、より強く刺激されることでしょう。あえて普段は通らない道を選んで散歩をすれば、ますます新しいもの好きな脳が満足してくれるはずです。
*** ちなみに国立大学法人東京農工大学の研究者は、今回の研究結果は、無意識下において、身近な情報よりも、馴染みのない情報のほうが、脳に入ってくる可能性が高いことを示していると伝えています。新たな可能性が見えてきましたね!
(参考) ASICS Japan|音楽は運動に効果的? 「脳科学からみる運動と音楽の関係」(前編) 国立大学法人 東京農工大学 | 〔2018年11月7日リリース〕意識して聞かなくても、知らない曲に脳が強く反応している事を発見 Frontiers in Human Neuroscience|Music Familiarity Affects EEG Entrainment When Little Attention Is Paid ねとらぼ|「歩くと良いアイデアが浮かぶ」ことの科学的理由と「歩けないとき」の対処法 HelC+|集中力は誰もが持つビッグパワー 霜田里絵著(2014),『絶対ボケない頭をつくる! 脳の専門家医が教える元気に、長生きする方法』,学研プラス.