厚生労働省によると、令和2年3月卒業者の就職後3年以内の離職率は、新規大卒就職者で32.3%。ほぼ3人に1人が、新卒で入社しても3年以内に退職しています。
(参考元:厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します)
また、このあと詳しくご紹介しますが、退職の原因として多く挙げられるのは、人間関係。なかには、上司とうまくいかずに退職してしまうケースも多いようです。
そこで今回は、「若手社員が人間関係の問題で離職してしまうのを防ぎたい」と考える研修担当者の方へ向けて、新入社員研修のテーマとしておすすめの、職場の人間関係をよくする方法をご紹介します。
研修担当者はもちろん、OJTのトレーナーの方や、先輩として新入社員に関わる方に向けて、新入社員に向けて人間関係の築き方を教える際の、具体的なコツを解説します。
【この記事はこんな方におすすめ】
- 近年、新入社員や若手の退職が多く、採用・育成コストがかかっている
- 退職者を減らすためのアイデアが知りたい
- 新入社員研修の担当になったが、どのような研修内容がいいか悩んでいる
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ|なぜ早期離職は起こるのか?離職理由や留まる理由を紹介
就職ジャーナル|覚えたら一生モノ!就活で役立つ「傾聴力」実践のポイントをプロが解説
厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳|傾聴とは
厚生労働省・中央労働災害防止協会|「メンタルヘルス教育研修担当者養成研修テキスト」
やまぐち総合教育支援サイト|カウンセリングの基本的技法(傾聴的態度と受容)
新入社員が抱えやすい悩み
まず、新入社員を含む若手層がどのような悩みを抱えて退職に至っているのか、確認しましょう。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ2023年の調査では、若手層の退職理由として、労働時間や休日の取りやすさといった「労働環境・条件がよくない」(25.0%)、「給与水準に満足できない」(18.4%)に次いで、「職場の人間関係がよくない、合わない」「上司と合わない」(同率14.5%)という人間関係の悩みが挙げられています。(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ|なぜ早期離職は起こるのか?離職理由や留まる理由を紹介)
慣れない環境でいままで携わったことのない業務に取り組むのですから、新入社員の心には負荷がかかって当然。さらに上司や先輩など仕事をレクチャーしてくれる相手と良い人間関係が築けていなければ、新入社員のストレスはいっそう増してしまいますよね。
労働環境や給与については現場ですぐに改善策をとれるとは限りませんが、人間関係なら研修を通して改善できるかもしれません。
ここからは、上司や先輩社員とよい関係を築くために、新入社員に受講させたい研修テーマをご紹介します。
「聞き上手」になることは成長の近道! 傾聴力を上げる研修
新入社員が上司や先輩社員と良い人間関係を築く方法のひとつは、傾聴力を身につけること。人の話を上手に聞けない新入社員は、上司や先輩からよくない印象をもたれてしまう可能性があるのです。
マネジメントおよびビジネススキル担当トレーナーとして講師経験豊富なエディフィストラーニング株式会社の浅野裕将氏は、教わり方や話の聞き方が、新入社員のその後のキャリアに大きな影響を及ぼすとして、次のように述べています。
入社1年目は上司や先輩から教わることが多く、相手の話にしっかり耳を傾けて聴く姿勢ができていると、「もっと教えてあげたい」と思ってもらえることも。そのことで、得られる情報の量と質、ひいてはその後の成長にまで影響を与えうるのです。
(引用元:就職ジャーナル|覚えたら一生モノ!就活で役立つ「傾聴力」実践のポイントをプロが解説 ※太字は編集部が施した)
浅野氏はこの「相手の話にしっかり耳を傾けて聴く」ことを傾聴力と言い換えています。(カギカッコ内引用元:同上)
傾聴力がある新入社員は、指導役の上司や先輩社員から「こちらの話をしっかり聞いている」と好印象をもたれ、両者がよりよい関係を築きやすくなるということですね。
そこで、新入社員向けの研修テーマとしておすすめなのが、 “傾聴力” を上げる研修なのです。
“傾聴” において大切な3つの要素
そもそも “傾聴” とは、カウンセリングの大家である心理学者カール・ロジャーズ氏によって提唱された技術のことです。ロジャーズ氏は聴く側に必要な3つの要素を次のように提示しています。
相手の立場に立ち、相手の気持ちに共感しながら理解する。
2.無条件の肯定的関心
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、その考えに至る背景について関心をもって聴く。
3.自己一致
聴く側の気持ちも自分の気持ちも大切にし、話の内容がわからない場合は聴き直して内容を確認する。
(参考元:厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳|傾聴とは より編集部がまとめた)
これら3つの要素だけ見ると難しそうに感じてしまうかもしれませんが、実際に会話に取り入れてみると以下のようになります。
3つの傾聴の要素を入れた返答と、傾聴になっていない返答を比較してみたので、傾聴力のある会話とはどのようなものか、確認してください。
先輩社員「私が入社して2か月目に、自分で正しいと思っていたAという方法を、B上司の確認を取らずに進めてしまって、とても怒られたんだ。そのときは落ち込んだよ」
1. 共感的理解
〇:そうなんですね。強く怒られたら落ち込みますよね。
✖:わかります。私も先日B上司から怒られて……
2. 無条件の肯定的関心
〇:B上司から怒られて、落ち込んだんですね。Aは、自分では正しいと思っている方法だったんですよね。
✖:でもそれはAという方法で合っていますよね。怒る方がおかしいですよね。
3. 自己一致
〇:いまは通常Aの方法で進めていますよね。そのときはAではない方法があったんですか?
✖:(どうしてAの方法ではだめなんだろう?と思いつつ)そうなんですね。まだ2か月だし、わからないですよね。
いかがでしょうか。
傾聴の要素を入れた3つの返答に共通して言えるのは、相手の話を一度しっかり受け止めている点。
相手の話を遮って自分の話にすり替えたり、相手の感情の背景を知る前に自分がどう思うかを述べたりしていません。
“傾聴” はカウンセリングの技術ですが、この技術を知っていれば、上司や先輩などから仕事を教わるときや、同僚と話をするときにも使えますよ。
“傾聴力” をテーマにした研修の一例
では、実際の新入社員研修で “傾聴力” をテーマにする場合、どのような取り組みができるのか、厚生労働省などの資料をもとに、一例として研修の流れを挙げてみます。
- “傾聴力” を身につける意義を説明する
(上司・先輩とよりよい関係を築ける。自分の成長にもつながる) - “傾聴” の3つの要素と、実践例について学ぶ
- “傾聴” を意識し、相手の話ができるだけ長く続くよう、10分間、ペアになった人の悩みを聴く(聞き手が質問ばかりしない、聞き手が別の話題に誘導しないことに注意)
- 話し手・聞き手を交替して10分聴いてもらう
- ペアの相手を変えて、また3、4を行なう
- 全体で今日の研修内容を振り返り、ポイントを再確認する
(参考元:厚生労働省・中央労働災害防止協会|「メンタルヘルス教育研修担当者養成研修テキスト」、やまぐち総合教育支援サイト|カウンセリングの基本的技法(傾聴的態度と受容))
1回の研修で完璧に身につけさせることはできないかもしれません。
ですが、傾聴はプライベートな会話でも使えるテクニックなので、研修後も家族や友人との会話のなかで練習してみるよう、新入社員に促してください。
新入社員が傾聴力を身につけて “聞き上手” になれば、上司や先輩社員は仕事を教えやすくななるはず。両者のあいだで、よりよい関係が築かれるでしょう。
また、このようなトレーニングはペアやグループで行ないますから、この研修をきっかけに新入社員どうしのコミュニケーションが増えることも期待できますね。
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今回は、若手層の離職につながる人間関係の悩みに焦点を当て、研修を通じて新入社員の退職を防ぐアイデアをご紹介しました。記事の内容をヒントに、新入社員と指導役の社員がよりよい関係を築けるよう、研修を企画してみてくださいね。