あなたは時間管理(タイムマネジメントとも呼ばれます)という言葉に、どんなイメージをお持ちですか? 「時間を活用するために必要なもの」「やらなきゃいけないけど、なかなかできていないもの」「細かく計画を立てて、その計画通りに行動すること」といったイメージをお持ちの方も多いと思います。
あるいは「手間ばっかりかかって面倒くさい」「計画なんか立てても、物事は計画通りには進まない」「融通がきかなくって、いざというとき役に立たない」といったイメージをお持ちの方もいるかもしれません。おそらく、過去に何らかの時間管理・タスク管理の方法を試してみたことのある方でしょう。
私は、そういうイメージは正しいとは思いません。手間をかけずに実行できて、突発の仕事にも柔軟に対応できる時間管理のやり方もあるからです。「残業を減らしたい」「効率よく仕事を進めたい」「勉強を計画的に進めたい」など、時間を有効に使いたいというニーズのある方にはおすすめですよ。
「使える」時間管理の方法を求めて
申し遅れましたが、この連載を執筆する水口和彦と申します。はじめまして!
私は時間管理(タイムマネジメントとも呼ばれます)を専門に仕事をしています。でも、もともと講師や執筆の仕事をしようと思っていたわけではありません。そもそも私は理系の出身で、化学を研究していました。修士課程を修了後、住友電気工業というメーカーに就職して十数年、設計開発や生産技術などの仕事をしていたんです。バリバリの理系ですし、自分が本を書くことになるなんて昔は想像もしていませんでした。
そんな私が、なぜ現在の仕事をすることになったのか? そもそもは私自身が残業が多くて困っていたんですね。
自分としては効率よくやっているつもりなんですが、どうしても残業が多くなりがちで、仕事に追われてバタバタすることも多かったんです。「忙しいんだから仕方ない」と思う反面、「もう少しうまいやり方がないものか」とも思い、興味を持ったのが「時間管理」だったというわけです。それで、時間管理やタスク管理について調べ、いろいろな方法を実際にやってみました。
ところが……です。有名な時間管理の方法が、実際の仕事のなかでは全然うまくいかなかったりしたんですね(その理由は後の回で紹介していきます)。もっと「使える」時間管理の方法を求めて、試行錯誤をすることになりました。
そして、いろいろ試行錯誤はありましたが、結果として残業を大幅に減らすことに成功しました。その過程で、時間管理については自分自身も含めていろいろ誤解している人が多いことに気づきましたし、本当に使える方法を紹介した方がいいんじゃないかと思うようになり、現在の仕事を始めるようになりました。その後12年近くこの仕事を続けていますが、時間管理については、まだまだ誤解している人が多いんじゃないかと感じています。
この連載ではそんな時間管理について、ポイントになる考え方や、具体的な手法を紹介していきたいと思います。よろしくお願いします!
時間管理における「最大の矛盾」とは?
時間管理って、「時間」を「管理する」という意味ですよね。でも、「管理」にもいろいろあります。たとえば、「びっしり詰まったスケジュールを立て、それを忠実に実行する」ことをイメージする人も多いです。確かに、常にスケジュール通りに行動することができれば、時間を管理しているという感じはしますね。学校の時間割をもっと精密にしたイメージです。
でも、そんな時間管理って、本当に可能でしょうか? 仕事の場で使えるでしょうか?
現実には、始業時刻から終業時刻まで、すべてスケジュール通りに行動するなんて不可能です。仕事をしていれば、予定になかったことはたくさん起こります。かかってきた電話を受けるだけでも、上司からの質問や指示を聞くのも、部下や後輩の質問に答えるのも、それぞれ数分単位(あるいはそれ以上の)時間を使います。こういった「予定外の仕事」は意外に多いものです。
その結果、しっかり計画すればするほど、「時間」に細かくなればなるほど、計画通りにいかないジレンマを強く感じることになる。そんな矛盾が生じてしまいます。
現実的な時間管理は?
現実的な時間管理は、こういった「予定外の仕事」が起こることを前提に考える必要があります。つまり、細かいスケジュールにこだわるのではなく、もっと広い視野で、自分の行動を計画していくことが有効です。
もちろん、人と約束した時刻はちゃんと守る必要はありますが、自分ひとりの仕事は細かい時刻よりも、全体の流れを見ていくことが重要です。また、「広い視野で」というのは、今日明日のことを考えるのではなく、何日か先のことまで視野に入れて、先を見通しながら自分の仕事全体を整理していく。そんな感じです。
その「仕事全体の整理」について紹介していきたいのですが、その前に、私たちが普段行っている「仕事」について考えてみましょう。私たちが普段行っている仕事は、時間管理の観点では3つのタイプに分けることができます。
ひとつは、時刻が指定された仕事。いわゆる「アポイントメント」です。社内の会議や打ち合わせ、面談などの予定や、お客様などを訪問する予定、それにともなう移動の時間などです。アポイントメントはいろいろな制約があって負担が大きい活動ですが、計画の立て方そのものは割とシンプルです。
では、アポイントメントがない時間は、あなたは何をしているでしょうか? たとえば、自分のデスクでパソコンに向かって仕事をする時間も多いですよね。何か資料をまとめたり、報告書を書いたり、事務手続きをしたり……。こういった仕事は「いつまでに」という期限があっても、実行する時刻そのものは自由ですね。こういう時間的に自由さがある仕事が、2つめのタイプ「タスク」です。
タスクは時間的に自由さがあるので融通がききます。それで助かる面もありますが、逆に失敗することも多いです。「期限までにやればいい」と油断していたらいつの間にか期限が迫っていて、最後はバタバタあわてることになる……といった失敗を経験したことのある人も多いのではないでしょうか? 学生から社会人になったときにつまずきがちなのも、このタスクです。これをどう計画するかが、時間管理の中で大きなポイントになります。
そして忘れてはいけないのが、先ほども出てきた「予定外の仕事」。これが3つめのタイプに当たります。社会人経験の長い人はわかると思いますが、仕事をしていれば必ず予定外のことが飛び込んできますし、それに対応していかなければいけません。ですから、予定外の仕事に対応できるだけの時間的な余裕を残しておくことは必須なのです。先ほど述べた「びっしり詰まったスケジュールを立て、それを忠実に実行する」というやり方は、この時点で、社会人向けの時間管理としては失格です。
この「予定外の仕事」の量は個人差があります。仕事の内容や立場、役職などで変わってきますが、全体の時間の2割程度を「予定外の仕事」に取られている人が多いです。予定外の仕事って、意外と多いものですし、仕事って、単純に計画通りにはいかないものなんですね。
現実的な時間管理では、このように「計画は立てるべきだけど、計画通りいかない覚悟も必要」という矛盾した状況に対応する必要があります。次回からその方法を紹介していきましょう。