「勉強が足りない」「勉強ができる」「勉強しろ」と言われた時、あなたは「勉強」にどんなイメージを持ちますか? 具体的な国語数学理科社会、という教科が浮かびますか? それとも学ぶ姿勢? 記憶力? 実際のところ、人々は勉強という言葉についていろいろな考え方を持っています。今回皆さんにご紹介したいのは、自分の勉強に対する考え方を理解すると勉強についての取り組みが変わってくるという事実です。そのためにはまず、勉強のできる人は何ができるのかを知っておく必要がありそうです。
「勉強ができる」とは?
いわゆる勉強のできる人は「何が」できるのでしょうか。これについては古今東西さまざまな議論がなされてきましたが、一般には次の2つのことが出来ているために理解力が高まっている状態を指すことが多いようです。
1 精緻化:新しい事柄をもともと知っている事柄と結び付けて覚えること 2 モニタリング:自分の理解具合をメタ的に自己監視すること
まず1の精緻化から説明をします。いわゆる「勉強ができる人」というのは、新しい学習内容を元々知っている内容に結び付けて、「あー、これはこうつながっているんだ」と捉えることができます。新しい学習内容を「今初めて知ったこと」ではなく、「既に知っていること+α」として処理しています。この能力により、与えられた知識はたった一つだったとしてもその人の脳の中では知識と知識が融合し、無限に広がって行きます。2つ目はモニタリング能力です。これは別名メタ認知能力などと呼ばれていて、自分自身を客観視する力とも言えます。ではこの2つについて、それぞれ説明をしていきます。
精緻化
60年前にミラーという研究者が実験したところ、「人がパッと見て覚えることのできる(記憶できる)数は7個、プラスマイナス2」という結果に至りました。これは10秒程度で忘れてしまう短期記憶となります。この時私たちは「もの・こと」を塊としてではなく、「意味の」塊として物事を記憶するという事実も合わせて発見しました。つまり、いろいろなことを別々に覚えるのではなく、そこに意味の関係性をみつけると覚えることのできる量も多くなるのです。私たちが日本史を勉強する際、歴史の年号を「いいくにくつくろう」などど、語呂合わせで覚えたりしたのがまさにこの方法。新しいことを覚える際に、前に知っていることとの関係性に注目して自分の中で何らかの「理屈付け」ができると、記憶の定着も良くなるのです。
イチローとメタ認知
2つ目の「モニタリング」は「メタ認知」という能力のこと。この威力についてはかのイチローが次のように語っています。
その時、なんだか自然に頭の中で始めているんですよ。『イチロー選手バッターボックスに入りました。さあ、緊張の一瞬。ピッチャー足が上がって第1球、投げたー』みたいに。そうしたら、なんだかとても落ち着いてきたんです
出典:日経BIZアカデミー 梶尾しけるの「プロのしゃべりのテクニック」
このように、自分自身のことを第三者的に見ているこの感覚こそがメタ認知。イチローが優れているのはもちろん身体能力の高さや野球そのもののスキルが突出しているからなのですが、彼をさらに超一流にしているのがこのメタ認知能力の高さと言われています。自分をモニタリングできる人は感情をコントロールし、今の自分に何が必要かを冷静に考えることができます。ですから、勉強する際にっちょっと「自分の理解していないところはなんだろう」と考えてみることが大切です。ぜひ、イチローのように「一人実況中継」をしてみてください。
勉強に対する考え方
さて、勉強に対する考え方をこのように考えると、あとはどういう方向性で攻めるかです。次の3つの方向性が考えられます。
1 環境志向:成績のよいクラスや優秀な仲間や良い教員が必要と考えること 2 学習量志向:とにかく学習量が大切と考えること 3 方略志向:何よりも勉強方法について考えること
実は研究結果から「勉強が苦手な人ほど物量作戦に頼り、成果が出ないと環境のせいにする」という結果が出ています。逆に、勉強のできる、つまり精緻化と自分のモニタリングがよくできる人ほど学習の方法をしっかりと考えているのです。ただただ根性論で数や量をこなすことよりも、効果的な勉強法、自分に合った勉強法を探すことが重要だ、というのはこのstudy hackerでも繰り返し述べていることです。日頃からあなたにあった勉強方法についてしっかりと考えることが大切なのです。
*** いかがでしょうか。良い勉強とは、「既に知っている知識と新しい勉強内容に結びつけ、自分の理解度をモニタリンして常に改善していくこと」です。勉強のスピードや質が落ちているな、と感じる人は、ぜひ一度この視点で自分の勉強法を見直してみてください。
参考: 植木理恵 (2002)、 「高校生の学習観の構造」、 教育心理学研究、50、301-310. 日経BIZアカデミー|梶尾しけるの「プロのしゃべりのテクニック」 Miller, George A.(1967), “The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on Our Capacity for Processing Information”, Psychological Review, Vol. 63, No. 2, pp. 81-87. MOTERU2.0 メタ認知能力とは