サンクコストに囚われる人ほど仕事も勉強も失敗するワケ

経済学には「サンクコスト」という言葉があります。これは埋没した費用を意味しますが、実は経済のみならず、仕事や勉強、日常生活においても活用できる言葉なんですよ。よりよい未来を目指すために、「サンクコストを忘れるべき理由」について説明します。

サンクコスト(埋没費用)とは

サンクコスト=埋没費用とは、すでに投じてしまった、回収できないコストのことです。

たとえば購入した株が値下がりして、なんとか損を取り返そうと売らずに待っていたら、ますます値下がりした場合。その株を売った際の損失分がサンクコストです。

また、たとえば、毎年赤字だらけの事業なのに、せっかく多くの時間と資金をつぎ込んだから「もったいない」と、いつまでも赤字営業を続け、結果的に事業を中止した場合。最初につぎ込んだ多額の資金とかけた時間、そして、赤字の補てんもサンクコストになります。

そうしたことから、経済界には「サンクコストは忘れろ」という格言があるそう。

前者であれば、最初に株価が値下がりした時点で客観的に、「いまこの会社の株を、この株価で購入しようと思うだろうか?」と冷静に考えるべきなのです。そこで、「いや、そうは思わないから、いつまでもこの株を持っているべきではない」と判断できれば、最小限の損失で済んだはず。

後者の場合も、見込みがないと判断した時点で事業を中止していれば、赤字を補てんするために投入していた多くの資金を失うことはなかったでしょう。好転する確信も根拠もないのに、「もったいない」という考えだけで物事を継続すべきではないということ。

かけた費用や時間に執着し、結果的にますます損失を大きくしてしまわないよう、早いうちに「サンクコストは忘れて適切な判断をしなさい」という意味なのです。

仕事や勉強におけるサンクコスト

仕事や勉強においても、サンクコストは忘れるべき理由があります。

たとえば、いつもより奮発して2,000円の参考書を買ったら、思いのほか使いにくかった場合。「もったいないから」とそれを使い続けて結果を出せないより、2,000円という回収できない費用(サンクコスト)をサッサと忘れ、もっと使いやすい参考書を購入しなおし勉強したほうが、時間をムダにせず結果を出せる可能性も高くなります。

また、たとえば企画書が70%ほど仕上がった時点で、多少の軌道修正が必要になった場合。せっかくここまで書いたからと、途中までつくった企画書を活用することで余計時間がかかってしまうなら、その70%というサンクコストを忘れ、最初から書き始めたほうが、結果的には企画書を早く仕上げられるはず。

大切なのは、「いまどうすることがベストか」なのに、わたしたちは、ついつい過去にとらわれてしまいます。

サンクコストを忘れれば日常生活もスムーズに

読書も同じです。せっかく買ったからといって「つまらない」と感じる本を読み続けるのは、知識より苦痛を得ようとしているようなもの。本にかかった費用を早めに忘れて、読みたい本を購入して読むほうが、よく頭に入り、再読の可能性も高まるので記憶が定着しやすくなります。それは知識となって、未来に役立てられるはず。

また、似合うと思って購入した服が、思っていたよりも似合わず心地悪いのに、「もったいないから」とその服を着続けているのも、不快感という損害を大きくしているようなものです。

こんな話もあります。クレジットカードのポイントで、新たなコーヒーチェーンのプリペイドカードに課金しようとしたある人は、会員登録やアプリのインストール、カードの登録などで、だんだん疲れてきたそう。しかし、「せっかくここまで時間をかけたから」と無理をして、スマートフォンの操作を続けたのだとか。

ところが、最後の操作を終えても課金されず、とうとう疲れて寝てしまったといいます。すると、翌日、自分が登録したプリペイドカードの番号が1つだけ間違っていたことに気づきました。費やした労力と時間がもったいないと思ったばかりに、その人はわざわざ苦労して見ず知らずの人のプリペイドカードに課金してしまったのです……。

実は、このように費用(労力・時間)が埋没してしまうことを嫌うのは、人間だけではないのだとか。

マウスもラットもサンクコストが嫌い!?

米ミネソタ大学の神経科学、心理学などの研究室では、人間と動物で「費やした労力に執着心を抱くかどうか」という実験を行ったそう。つまり、サンクコストへの執着心を調べたのです。

参加者は65人の人間と、32匹のマウス、同じく32匹のラット。マウスとラットには「餌」を、人間には「動画」を与え、時間制限を設けて、「餌が出るのを、あるいは好みの動画が観れる」のを待ち続けるか、次に進むか観察したそう。その結果、人間も、マウスもラットも、すでに何分か待っているといった“時間の損失”があるほど、最後まで待ち続けようとしたそうです。

この実験だけで確信に至るのは難しいかもしれませんが、「動物は費やしたものに執着しやすい」と考える材料にはなりますよね。

いま、このとき、なにをするのがベストか

そうしたことから、わたしたちは「費やしたもの」に執着しやすい傾向があるので、見通しが悪いと感じたら、損失をそれ以上大きくしないよう「サンクコストは忘れろ」と自分自身に語りかけたほうがいいということです。

大切なのは、「いま、このとき、なにをするのがベストか」を考えること。過去にとらわれない意思決定を行いましょう。多くのことが効率よく、スムーズになるはずですよ。

*** 株式投資には、「損切りはすばやく、利食いはゆっくり」という格言もあります。損は最小限におさえ、利益はゆっくり伸ばすという意味ですが、売りどきを逃して損が拡大しないよう、損は忘れて早く見切りなさいという意味合いは、「サンクコストは忘れろ」に共通します。意外にあらゆる場面で役立つ経済学の格言を、ぜひ活用してみてください。

(参考) 塚崎公義著(2015),『なんだ、そうなのか! 経済入門』,日本経済新聞出版社. 日経ビジネスオンライン|「サンク・コスト」で考えるアベノミクス 国際ニュース:AFPBB News|マウスもサンクコスト嫌う? 「せっかく」の心理明らかに 研究

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