2018年8月21日、大阪桐蔭高校の史上初の2度目の春夏連覇で幕を閉じた、第100回全国高等学校野球選手権記念大会。同大会で特に注目を集めたのが、準優勝を飾った秋田県立金足農業高校です。
金足農業は、出場校の中では珍しい公立高校。予算は潤沢とは言えず、冬の間はグラウンドに積雪もあり、決して恵まれた練習環境ではありませんでした。そんな中でも見事に快進撃を続け、最終的に準優勝を手にすることができたのです
いったい、その強さの秘密はどこにあったのでしょうか。詳細を調べてみると、金足農業高校野球部の練習法は、私たちの勉強にも大いに活用できる点があることがわかりました。
文・藤田描
“甲子園で勝つ” という曖昧なイメージを具体化していた!
じつは、秋田県では2011年より、県の予算を使った「高校野球強化プロジェクト」が行なわれていました。全国制覇経験がある監督経験者をはじめとした、スポーツ医科学に精通した専門家ら6人をアドバイザーとして招き、さまざまな取り組みを行なっていたのです。
なかでも注目すべきは、中京大中京高校の監督として全国制覇経験がある大藤敏行さんによる、県内の指導者や選手らに対する “意識付け”。具体的には、甲子園出場校の体験に基づいた準備や心構えなどを綴ったマニュアルを配布し、試合までの日程が空いたときの過ごし方などを共有していたのです。
つまり、今まで漠然としていた「甲子園で勝つ」という曖昧な部分を、経験に裏打ちされた “はっきりとしたイメージ” として共有することで、どこか遠く感じていた目標を具体的にしたということ。
私たちが参考にするべきは、以下のようなことでしょうか。
たとえば、英語を勉強するとします。そのとき、ただ漠然と「英語を勉強しよう」と考えてしまってはいませんか? もう一歩踏み込み、「なぜ自分は英語を学ぶのか?」「学びのゴールは具体的に何か?」「学んだ成果として、どういったことを具体的にできるようになるのか?」などのイメージを、ぜひ具体化してみましょう。自分自身に対する “学びの意識付け” が、より明快になるはずです。
スケジュール管理・目標設定は “固有名詞” まで落とし込む
“ただ練習する” “ただ学ぶ” では、自分がそもそも何をしたいのかが見えてきません。それでは「練習のための練習」「勉強のための勉強」となってしまい、いたずらに時間を消費してしまいます。
そこで重要になってくるのが、先行する具体的な成功例に基づいた「徹底的な具体化」です。
「どういったスケジューリングで英語習得までの勉強時間を確保するのか?(→月曜日は〇時~〇時までのX時間、火曜日は……)」「使用教材は何がいいのか?(→『〇〇』と『△△』と『□□』?)」「学習場所はどうする?(→自宅だけでなく、図書館や自習スペースも活用する?)」「学習にはどんなツールを使う?(→「〇〇」というリスニングアプリが使える?)」といった具合に、過去の成功例も参考にしながら、固有名詞のレベルまで落とし込んでみるのです。
成功者が成功できた背景には、必ず客観的に抽出できる理由がひそんでいます。それらを分析し、自らの勉強計画や目標設定にも応用できれば、“ただ勉強している” という感覚に陥らず、着実に前進しているという自信にもなるでしょう。これが、モチベーション維持にとって大切なことだったのです。
あのバントを何度も続けていた深い理由
金足農業は日頃のバント練習で、一発での成功を求める「1本バント」を行なっていました。ほかの高校の打撃練習とバント練習の割合が8:2だとすれば、金足農業の場合は、バント練習のほうが8に相当するくらい、徹底的にバントを練習していたのです。
これは、金足農業を春夏通算7回甲子園に導いた、元監督の嶋崎久美さん(70)がチームを率いていたころからの伝統。嶋崎元監督は、金足農業に「1点の重み」を教え、顔の位置やひざの高さを意識したバントを徹底させていました。そこに、吉田輝星投手という逸材が加わることで、失点を抑え、確実に1点を重ねる展開に持ち込む——。これこそが、金足農業の “勝ちパターン” だったのです。
記憶に新しい、準々決勝での対近江高校戦でのツーランスクイズは、まさに金足農業の勝ちパターンへの練習が見事に結実したと言えるでしょう。
勝ちパターンの意識の徹底。それにより、具体的な練習方法を決定する。ただ漫然と練習していたのではなく、金足農業は「バント」に力を入れるという、選択と集中を行なっていたのです。
たとえば英語学習の場合、学習者の「勝ち」とは何でしょうか。単に「ビジネス英会話がしたい」だけでは、まだ具体的な勝利イメージとは言えないかもしれません。「英語圏に自らの商品を売り込みたい」ぐらい具体的にイメージを絞れば、学習過程で学ぶべき項目や作戦が、より明確なものとなって浮かび上がってくるはずです。
*** 以上、今年の甲子園を沸かせた金足農業高校から見た、学習者にとって参考になるポイントを考えてみました。
金足農業の躍進は、単なる偶然ではありません。日々の過酷な練習量は当然として、さらに明確な目標設定と勝ちパターンの習得こそが、彼らの大躍進の理由だったのです。
皆さんも、金足農業高校を参考に、日々の学習生活を見直してみてはいかがでしょうか?
(参考) サンスポ|金足農の快進撃支える秋田県の強化プロジェクト 理論や練習法を共有、学童野球の充実も Business Journal|なぜ戦力の劣る「公立校」金足農業は甲子園で勝てたのか? 時流と逆行の戦術&練習