多くの人間が働く企業では、周囲と協調してスムーズに仕事を進められる常識人こそ求められそうなものです。ところが、日本たばこ産業(JT)の元執行役員で、長く採用に関わってきた米田靖之さんは「これからの時代に求められるのは『変な人』だ」と断言します。でも、これまでの教育システムが「まともな人」を育てているために、「変な人」が不足しているという実情もあるそう。

「わざわざまともになろうとしている」学生、転職を考えている人に対して、幸せなビジネスパーソンになるための貴重なアドバイスを頂きました。

■第1回『これからの時代に求められるのは「変な人」』はこちら

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

常識——前例を疑うことができるか?

いま、企業が強く求めているのはいわゆる常識人、「まともな人」ではありません。もちろん、そういう人がいなければ企業は破綻してしまいますから、決して必要ではないというわけではない。これは現実的には起こり得ませんが、ほとんどの社員がスティーブ・ジョブズのような人だったら、それこそ会社はまともに回らなくなってしまうでしょう(笑)。ただ、従来のビジネスモデルが崩壊したいま、常識にとらわれない自らの発想で「課題」や「正解」を見つけられる「変な人」がより強く求められているのです。

では、ビジネスにおける「常識」とはなにかと言えば、経験上、「前例」ということが多いように感じます。企業では、前例にないものはとにかく敬遠される傾向にある。ビジネスにはフレキシビリティ、柔軟性が必要だとよく言われますが、「フレキシビリティがある」とは「前例を疑うことができる」と言い換えることもできませんか?

商品にしろサービスにしろ、うまくいっているものを変えるということは、なかなかできるものではありません。問題があれば誰もが改善が必要だと思うでしょう。ですが、問題がなくても変える必要があるケースというのは意外に多いのです。

前年に発売した商品の売れ行きがすごく好調だったとします。しかし、1年も経てば、商品を取り巻く環境は変化します。前年の最適と今年の最適は絶対にちがうのです。そのように柔軟に前例を疑いながら改善を続けているものがロングセラー商品になる。誰もが知っているようなロングセラー商品は、ずっと同じように見えて、じつは微妙に変えているものです。

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多くの人が「わざわざまともになろうとしている」

企業には「変な人」も「まともな人」も必要です。ボリュームで考えればまともな人のほうが多く必要でしょう。ただ、充足率で考えると、変な人が圧倒的に足りないというのが実情です。

その背景にあるのは、これまでの企業が求めてきたのがまともな人ばかりだったからでしょう。企業の将来を背負う若い人を育てるいまの教育、大学入試のシステムは、まともな人を育てるようにできています。学校で教えられることには答えがあって、解法も決まっている。それを効率良く早く運用できるまともな人が高得点を取れ、優秀だとされるのです。

しかし、答えがない、答えが見えない時代ともなると、より強く求められるのはそういうマニュアル的な力ではないでしょう。そうではなくて、誰も思いつかなかった新しいことをひらめくような力、いわば芸術的な発想にも通じるものなのだと思います。そういう意味で、今後はビジネス界において芸大出身のような人材のニーズが高まってくるのではないかと思っています。いまどき、自分がやりたいことだけに純粋に集中して学生時代を過ごしているのは芸大生くらいのものでしょう。

残念ながら、その他の大勢の学生たちは、「わざわざまともになろうとしている」ようです。本来、学生時代というのは、学ぶ楽しさを知り、それを追求していく時代のはず。ですが、いまの大学は就職予備校化しているように感じます。学生たちがTOEICで高得点を取ろうとするのも、海外に留学するのも、それが就活の場でウリになるから。

就職のためだけに貴重な学生時代の時間を使ってしまうのは、本当にもったいないこと。学生たちには、自分の興味関心があることをどんどんやって、オリジナリティーのある「変な人」になってほしいですね。

企業との「相性」がビジネスライフの幸福度を左右する

学生たちに苦言を呈したついでに、もうひとつだけ申し上げておきましょう。それは、就職する企業の選び方についてのことです。多くの人がいわゆる「いい会社」に就職しようとしますよね? でも、本来は、自分に合う会社」に行くのがベストでしょう。企業の特徴と自分の相性をきちんと知って自分に合う会社に就職するようになれば、自動的に学生の就職先はわかれてそれぞれが幸せなビジネスパーソンになれるはずなのです。

でも、学生たちはいわゆる就職偏差値に左右され、「入りにくい会社はいい会社」だと思い込んでいるようです。それは、完全な間違いです。確かに、世間の大学の評価は大学の偏差値と連動しています。ところが、世間の企業の評価は、就職偏差値、つまり就職の難易度と連動しているものではありません。すでに社会に出ているビジネスパーソンの感覚からすると、たとえ就職偏差値は高くなくとも世間の評価が高い企業、その逆の企業もいくらでもあるものなのです。

そして、本来は世間の評価すらも気にする必要はありません。先に述べたように、その企業が自分と合うかどうかがもっとも重要だからです。これは、転職希望者にも当てはまること。むしろ、転職する際のほうが気をつけるべきことでしょうね。就職活動に1年ほどの時間をかけられる新卒の場合なら、就職を望む会社の人といろいろと接点ができ、社内の雰囲気や自分との相性を知ることもできるでしょう。

ところが、限られた時間のなかでおこなう転職の場合、1社1社をしっかり研究することは非常に難しい。すでにビジネスパーソンとして経験を積み、自分の得意分野や転職先の仕事内容などがわかるという有利な点もありますが、一番大事な「相性」がマッチングするかどうかというところを見落としているケースも少なくないのです。転職を考えている人は、幸せなビジネスライフを送るために、ぜひ気に留めておいてほしいですね。

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■第3回『これからの時代に求められる「変な人」は「感動する心」を忘れない』はこちら

JTの変人採用 「成長を続ける人」の共通点はどこにあるのか

米田靖之

KADOKAWA(2018)

【プロフィール】
米田靖之(よねだ・やすゆき)
1958年生まれ。1982年、東京大学工学部を卒業し日本専売公社(現JT)に入社。ニューヨーク事務所、人事課採用担当、人事部採用チームリーダー、人事部長、製品開発部長、たばこ中央研究所長などを経て、執行役員R&D責任者となる。2015年末に退任し、2018年1月に「LIFE STAGE LAB」を設立。現在は企業の人材採用アドバイザーを務める。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。