記憶効率を上げる黄金比は「3:7」だ。勉強に脳科学を取り入れるべし。

勉強はしたいけれど、日々の仕事に追われてなかなかその時間をつくれない——。そんなジレンマを抱えるビジネスパーソンも多いでしょう。であれば、勉強の効率を上げるしかありません。

その秘訣を聞いたのは、樺沢紫苑(かばさわ・しおん)先生。脳科学にも詳しい精神科医でありながら、最新著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版)の売れ行きが好調な作家、そして映画評論家という顔も持っています。まさに多忙としか言いようがない生活のなかで、先生はどんな工夫をして勉強をしているのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

学びのスタイルをインプット中心からアウトプット中心へ

勉強熱心なビジネスパーソンなら、1カ月に何冊も本を読むという人もいるでしょう。それなのに、「なかなか勉強の成果が出ない」「記憶に残らない」と嘆いている人もいるかもしれません。その理由のひとつとして考えられるのが、インプットばかりして「アウトプットをしていない」こと。

よほど頭がいい人は別として、本を「読む」、講義を「聞く」というインプットだけでは、その内容を記憶できないのが人間の特性なのです。しっかり記憶するためには、「話す」「書く」といったアウトプットをおこなう必要があります

では、アウトプットをどのくらいするのが最適なのでしょうか。これについては脳科学の研究ではっきりと示されています。「インプットが3に対してアウトプットが7」。これが記憶をもっとも効率化する比率。つまり、学びのスタイルを、インプット中心のものからアウトプット中心のものにしなければならないということです。

でも、みなさんが勉強できる時間は限られていますよね? 「アウトプットする時間なんてつくれない」という人もいるでしょう。ならば、勉強時間の使い方、その内訳を変えてみましょう。1カ月に3冊の本を読んでいる人なら、2冊に減らす。そうしてつくった1冊分の読書時間をアウトプットに回すのです。もっと言えば、読む本を1冊にしてもいい。そのほうが、ただ3冊の本を読むことの何倍もの自己成長につながります。

では、アウトプット法について具体的に説明します。まずは「話す」こと。読んだ本の感想を同僚や後輩、家族に話してみる。そして「書く」。わたしがおすすめしているのは、本を読んで得た気づきを3行にまとめてメモすること。「たった3行?」と思った人もいるかもしれません。でも、それで十分。3行にまとめるためには、「こっちのほうが重要だな」というふうに、本の内容を思い出す必要がありますよね。この過程で、脳は本から得た情報を「使う」作業をしています。じつは、これがすごく重要になる。

というのも、膨大な情報のなかから脳が記憶としてとどめるのは、「使う記憶」だけだからです。一方、「使わない記憶」は全部忘れるように人間の脳はできています。1カ月前の平凡な日になにを食べたかと聞かれても覚えていないでしょう? なぜなら、それは「使わない記憶」だから。でも、去年のクリスマスに家族とどこでなにを食べたかというようなことは覚えている。それは、思い出として誰かに話したり、ふとしたときに思い出したりと、「使う記憶」だからなのです。アウトプットとは情報を「使う」ことそのものですよね。これが、記憶のためにアウトプットが重要な理由というわけです。

それから、メモの代わりに、SNSを利用するのもおすすめです。SNSで公開するとなると、「変なことを書いていると誰かに思われたらどうしよう」というふうに考えるじゃないですか。じつは、この感覚が記憶の手助けをしてくれる。「ちゃんとしたものを書かないといけない」というプレッシャーが脳を刺激し、より記憶に残りやすくなるのです。

読みっぱなし、聞きっぱなしでは意味がありません。残るのは記憶ではなく自己満足だけです。そのために時間とお金を無駄にしているわけですから、むしろやらないほうがいいくらいですね。

寝る直前の10分は「記憶のゴールデンタイム」

勉強、記憶の効率を上げるために、アウトプットと同じくらい重要なのが「睡眠時間」です。脳科学の研究によって「睡眠を挟まないと記憶は定着しない」ということが証明されています。記憶定着に必要な睡眠時間は最低6時間。「6時間も寝ることはできない」という多忙なビジネスパーソンもいるかもしれない。でも、そんな人がいくら勉強しても、残念ながら「ザルに水を注いでいる状態」だということです。6時間以上の睡眠時間を確保できるよう、なんとか工夫してくださいね。

ここで、ひとつ、面白い研究を紹介しましょう。それは、複数の学生に一定時間の勉強をさせた後でテストをするというものです。勉強の後、ひとつのグループには試験時間までそのまま起きていてもらう。もうひとつのグループには仮眠をさせる。すると、仮眠を取ったグループのほうがテストで好成績を残した。寝たら勉強したことを忘れてしまいそうなものですが、そうではないのです。

となると、寝る前に勉強をしたほうが効率的なのでしょうか? それは、一部では正しいと言えます。夢によって情報が整理されてまっさらな状態になっている朝の脳は、論理的思考に向いています。つまり、勉強に最適な時間帯は、本来は朝だということ。一方で、寝る直前の10分間は記憶のためにすごく重要な時間帯。その時間帯を、わたしは「記憶のゴールデンタイム」と呼んでいます。

夜、勉強したことをおさらいした後、寝る前にテレビを観たとしましょう。すると、おさらいして覚えようとしていることに加え、テレビから新たな情報が一気に入り込んでくるために脳は混乱する。結果、記憶から抜け落ちてしまうことが出てくるのです。そうしないためには、おさらいした後にすぐに寝ることです。そうすれば、覚えたいことを高純度の記憶として脳に定着させられます。

「楽しい!」と声に出して勉強する

「アウトプット」「睡眠時間」のほか、勉強と記憶の効率を上げるために重要なことを挙げるなら、「楽しく勉強する」ことですね。人間が「楽しい」と感じるとき、脳のなかにはドーパミンという物質が分泌されます。これは、幸福を感じさせると同時に、「記憶を増強させる」作用を持つもの。楽しいことを覚えているほうが人間はハッピーに生きられますよね。脳というのはうまくできていて、楽しいことはちゃんと記憶するようにできているのです。

逆に、「苦しい」と感じるとどうなるかというと、ストレスホルモンというものが分泌されます。これは、記憶を取り除く、「忘れさせる」物質です。苦しい記憶を抱えたまま生きていく人生はつらいですからね。つまり、楽しさを感じながら勉強すれば、より記憶に残りやすく、苦しさを感じながら勉強すればすぐに忘れていくというわけです。

でも、どうすれば楽しく感じられるのでしょうか。それはすごく簡単なこと。「楽しい!」と言うだけでいい(笑)。自分の声によって、意図的に脳に「楽しい」と認識させるというわけです。試合前に「俺はやれる!」「絶対に勝てる!」と自分に発破をかけるスポーツ選手もいるじゃないですか。じつは、あれも脳科学的にはすごく効果がある行為なのです

どうせ勉強するのなら楽しいに越したことはない。しかも、楽しければ勉強の効率が上がるという大きなメリットもある。笑顔で楽しく勉強する。結局は、それがもっとも効果的な勉強法なのかもしれませんね。

【樺沢紫苑先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
アウトプットのプロはなぜ午前中に文章を書くのか? 脳科学に基づく「仕事力アップ習慣」
アウトプットスキルは日記とSNSで鍛えられる。“書く習慣” がとても大事なワケ。

学びを結果に変えるアウトプット大全

樺沢紫苑

サンクチュアリ出版(2018)

【プロフィール】
樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
1965年生まれ、北海道出身。精神科医、作家、映画評論家。1991年、札幌医科大学医学部卒業後、札幌医大神経精神医学講座に入局。北海道内8病院への勤務を経て2004年からイリノイ大学に3年間留学。帰国後、東京にて樺沢心理学研究所を設立。メンタル疾患の予防を目的に、インターネット媒体を駆使して精神医学、心理学、脳科学の知識・情報の発信を続ける。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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