時間外労働をせず「定時に帰る」ことは、多くの人にとって重大なテーマです。皆さんも、2019年に注目されたドラマ「わたし、定時で帰ります」をきっかけに、自分の働き方を振り返ったのではないでしょうか。
いくら残業代がもらえるとはいえ、遅くまで会社で仕事をするのが当たり前になっている状況は、やはり考え直すべきでしょう。この記事では、成果を保ちつつ定時に帰るにはどうすればよいのか検討していきます。
定時に帰る人は少ない?
定時に帰ると決めていても、まだ仕事を続けている上司や同僚から「皆は仕事をしているのに先に帰るのか」と言われ、困った経験があるかもしれませんね。残業が当たり前になっている人は、そんなに多いのでしょうか?
2018年3月にビジネスニュースサイト「BUSINESS INSIDER JAPAN」が実施したアンケートでは、残業の頻度について「必ず毎日」と答えた人が21.5%、「おおよそ毎日」が42%でした。60%以上の人にとって、残業が当たり前のようです。
定時に帰れないのは、どうしてなのでしょうか。組織開発などを研究する中原淳教授(立教大学)は、残業が「文化」として定着してしまった原因のひとつとして「同調圧力」を挙げています。いったん残業が習慣化してしまうと、「定時を過ぎても働きつづけるのが規範なのだ」と皆が思い込むので、この「規範」を廃するのが困難になるのだそう。「私は残業したくありません」などと言い出したら、「皆、残業しているんだぞ」という同調圧力をかけられることは、想像に難くありませんよね。定時に帰るのが困難な職場で働く人は、少なくなさそうです。
定時で帰るメリット
しかし、同調圧力に負けず、定時で帰ることに努めるのは、やはり大事です。定時で帰れるよう努力すると、どのようなメリットが生まれるのでしょう。
生産性が向上する
定時に帰ろうと努めれば、高い生産性を発揮できます。
習慣化コンサルタントの古川武士氏は、午前2時まで残業したうえ、休日にも出勤するという生活を送っていた時期があるそう。疲れが溜まって集中しづらくなるため、仕事が終わらず、さらに残業が増えるという「悪循環」に陥っていたのだそうです。
そこで古川氏は、21時に退社し休日出勤もしないと決め、「しっかり寝て翌朝の高い集中力で仕事を終わらせる」ことを習慣にしたのだそう。さらに生産性を高める工夫を重ねた結果、残業時間を6割削減できたうえ、営業の成果が向上したのだそうです。
「何時まででも残業していいや」と思うと、「決められた時間内で集中して終わらせよう」という気持ちがなくなるため、時間あたりの労働生産性がどんどん下がっていきます。一方、定時までに仕事を終わらせれば、「生産量÷時間」の式における分母が少なくなるため、生産量(仕事の成果物)が変わらなくても、生産性は向上するというわけです。
ビジネスパーソンとして高く評価される
定時で帰るために生産性を向上できれば、ビジネスパーソンとしてのあなたの評価も高まります。仕事量が同じなのであれば、だらだら作業して残業する人と、工夫を重ね集中し、きびきび仕事をこなして定時に帰る人とでは、どちらがより魅力的に見えるか、いうまでもありませんよね。
2014年、ニュースサイト「マイナビニュース」の会員を対象に行なわれたアンケートでは、周囲にいる「いつも定時で帰る人」について、以下のような印象が寄せられました。
- すごく仕事ができる。
- しっかり集中している。
- 無駄な動きを全くしない。
- 非常に要領がよい。etc...
定時で帰るために努力する姿勢は、ちゃんと周囲の人が見てくれているのですね。
定時で帰る方法
では、どうすれば定時で帰ることができるのでしょうか。定時で帰るための仕事術をご紹介します。
身の回りを整える
定時で帰るために有効な仕事術の1つ目は、定番とも言える「掃除」です。
「出張お片づけサービス」を手がけるビジューオーガナイズ株式会社代表・三谷直子氏によると、整理されていない環境では、頭のなかが雑然としてしまうのだそう。雑然とした頭では、仕事に集中できませんよね。
もし、あなたのデスクにモノがあふれていたり、汚れがこびりついていたりするなら、モノを整理し、デスクを拭きましょう。脳科学者の篠原菊紀教授(諏訪東京理科大学)によると、拭き掃除などの反復動作は「セロトニン」という脳内物質を分泌させるため、ストレス減少に役立つのだそう。掃除という行為自体が、心を落ち着かせ、集中力を高めてくれるのですね。
意識して休憩をとる
定時で帰るためには、意識して休憩をとることも大事です。
時間あたりの生産性を管理するアプリケーション「DeskTime」を用いた2018年の調査によると、生産性が特に高い上位10%の従業員たちは、一日に8時間より多くは働かず、こまめに休憩をとっていたのだそう。平均して、52分間集中して働いたあと、17分の休憩をはさんでいたとのことです。疲れを溜めたまま作業を続けるよりは、一度リフレッシュして、それからまた仕事に集中するほうが、全体として高い生産性を保てるようですね。
もちろん、オフィスで働いていると、昼休み以外で休憩の時間をとるのはなかなか難しいですよね。しかし、50分経ったらトイレに行く、1時間おきに姿勢を変えて肩を回す、程度のことならできるのではないでしょうか?
後回しにしない
定時に帰るには、「やるべき重要な作業を後回しにしない」ことが非常に重要です。
「慢性的先延ばし(chronic procrastination)」などを研究しているジョゼフ・フェラーリ教授(米デポール大学)によると、「先延ばし癖」のある人には、以下の特徴が見られるそう。
- 自己肯定感が低い。
- 自意識過剰である。
- セルフ・ハンディキャッピングをやりがち。
大事な物事を後回しにしてしまう癖があると、「本当はやらなくちゃいけないのに……」という焦りに捕らわれつづけることになります。精神状態に悪影響を及ぼすため、面倒な仕事は先に片づけるべきなのですね。
後回しにしたくなる面倒な仕事には、時間管理コンサルタント・石川和男氏が提唱する「アイスピック仕事術」を使ってみましょう。大きな氷を削っていくように、どこから手をつけるべきかわからないような仕事は、小さなタスクに細分化するのです。
たとえば、「プレゼンテーションの準備」という大きなタスクを抱えているとします。つい先送りにしたくなってしまいますが、以下のように小さな作業に分けてみてください。
- 企画のアイデアをたくさん出す。
- どのアイデアを発表するか決める。
- 企画の論理的なベースとなるデータを収集する。
- スライドを作成する。
- 発表の練習をする。
分けても、まだ「大変そう」「何をすればよいのかわからない」と感じるのであれば、さらに細かく分けましょう。たとえば、「発表の練習をする」は、以下のように分けることができます。
- 完成したスライドを読みながら、口頭で説明する。
- 時間を計りながら発表する。
- 発表を家族に聞いてもらう。
このように工夫をすれば、大事な仕事が後回しにならないため、定時に帰ることが実現しやすくなるでしょう。
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定時に帰るため、個人で工夫できることはあります。職場の同調圧力に負けず、定時退社へ一歩踏み出しましょう!
(参考)
「医師も脳科学者も太鼓判 掃除をするだけで心のデトックスに!」, 日経ヘルス, 2009年春号, pp. 28-33.
STUDY HACKER|後回し癖をすっと解消できる「アイスピック仕事術」がすごい。
BUSINESS INSIDER JAPAN|「終わるわけない仕事量」若手488人が挙げる残業減らない理由トップ5:「上司は仕事以外の人生がない」との声も
東洋経済オンライン|企業の「残業規制」がほぼ失敗に終わる理由
ITmedia ビジネスオンライン|あなたの残業、本当に必要ですか?
マイナビニュース|いつも定時で帰る人の仕事ぶりって? - 「すごくできる」「電話に出ない」
eo健康|片付けはココロの掃除
Desktime|The secret of the 10% most productive people? Breaking!
Vox|Procrastination is bad for your health
【ライタープロフィール】
三島春香
神戸大学経営学部所属。京都市立西京高等学校卒業。海、宇宙、音楽、レモンが好き。旅行も大好き。大学生のうちにいろいろな所へ出かけて見聞を広めたい。