セルフ・ハンディキャッピングとは? やってはいけない言動例と克服法

セルフ・ハンディキャッピングとは1

セルフ・ハンディキャッピングとは、あらかじめ言い訳をして自分自身にハンディキャップを課すこと。失敗しても自尊心が傷つかないし、成功したら「ハンデを乗り越えた自分はすごい」と快感を得られます。

多くの人がやってしまうセルフ・ハンディキャッピングですが、じつは仕事や勉強面でもデメリットがあるのです。今回は、遂行的セルフ・ハンディキャッピングと主張的セルフ・ハンディキャッピングの特徴や具体例、セルフ・ハンディキャッピングを克服する方法をご紹介します。

セルフ・ハンディキャッピングとは

セルフ・ハンディキャッピング(self-handicapping)とは、自分自身にハンデを課すこと。よく挙げられる例が、テスト前に、ついマンガを読みはじめたり部屋の掃除をしてしまったりすることです。本当なら、持てる時間の全てをテスト勉強につぎ込んで良い結果を出すべきなのに、あえて「貴重な時間を無関係な用事に割く」という不利な条件(ハンデ)を自身に課し、やるべきことを先延ばしにしてしまっています。

社会心理学を専門とする伊藤忠弘教授(学習院大学)によると、上記のような行為をセルフ・ハンディキャッピングと名づけたのは、心理学者のスティーブン・ベルグラス氏とエドワード・ジョーンズ氏。ベルグラス氏が共著者として名を連ねる“Self-Handicapping: The Paradox That Isn’t”(1990年)において、セルフ・ハンディキャッピングは以下のように説明されています。

a process wherein people protect their competence images by proactively arranging for adversity in specific performances

(訳:特定の行動における困難に対し、あらかじめ積極的に対処しておくことで、自分の能力に関するイメージを守る手段

(引用元:Higgins, R., C. Snyder and S. Berglas (1990), Self-Handicapping: The Paradox That Isn’t, New York, Plenum Press.)

難しそうな試験の本番が迫っているとします。今からでも全力で勉強すれば、まずまずの結果を出せるかもしれませんが、あえて遊びに出かけたりSNSに時間を費やしたりしてしまう人がいます。このような行為はセルフ・ハンディキャッピング理論で説明がつくのです。

セルフ・ハンディキャッピングの心理的効果を利用すれば、試験の結果が悪かったとしても、その理由を「本気を出さなかったからだ」と自分に言い聞かせることができます。「本気を出せば、自分は良い結果を出せる」と思い込む余地を残しておけるのです。

しかも、セルフ・ハンディキャッピングをしたうえで試験の結果が良かったなら、「本気を出していなかったのに、これだけの成果を出せるなんて、自分はすごい!」と悦に入ることができます。つまり、試験など難しそうなことが控えているとき、セルフ・ハンディキャッピングをしておくと、結果が良くても悪くても、自分のプライドを守ることができるのです。

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2種類のセルフ・ハンディキャッピング

伊藤教授によると、セルフ・ハンディキャッピングの分類方法には、遂行的セルフ・ハンディキャッピングと主張的セルフ・ハンディキャッピングの2種類に分けるものがあります。それぞれの特徴を紹介しましょう。

遂行的セルフ・ハンディキャッピング

遂行的セルフ・ハンディキャッピング(acquired self-handicapping)とは、実際の行動によるセルフ・ハンディキャッピングです。試験など、重要で困難な問題の直前にとる以下のような行為が、遂行的セルフ・ハンディキャッピングに当たります。

  • 努力を放棄する。
  • 飲酒する。
  • 徹夜する。

もし、全力で勉強し、体調を整えたうえで臨んだ試験の結果が悪かったら、「あんなに頑張ったのにどうして!? 自分には才能がないのか……?」と、大きなショックを受けてしまうかもしれません。しかし、全力を出さなければ、「全力を出せばクリアできたかもしれない」と思い込むことができます。また、飲酒や徹夜などによってパフォーマンスを低下させていれば、「万全の状態ではなかったから、この結果もやむなし」と受け入れることができ、心が傷つかないのです。

主張的セルフ・ハンディキャッピング

主張的セルフ・ハンディキャッピング(claimed self-handicapping)とは、言葉を発することによるセルフ・ハンディキャッピングです。自分が困難な課題に直面していると知っている周囲の人に向け、以下のようなセリフを発すると、主張的セルフ・ハンディキャッピングに該当する可能性があります。

  • 「あまり勉強していなくて」
  • 「体調が悪くて……」
  • 「自信ないなあ」

子どもの頃、友だちに対し上記のような発言をしたことのある人は少なくないのではないでしょうか。「今回のテストはすごく勉強したんだ!」と言わないのは、結果が想定よりも悪かったら恥ずかしくなってしまうから。反対に「忙しい状況だったから、あまり勉強していなくて……」と予防線を張っておけば、本当に悪い結果になったとしても、気恥ずかしさは感じにくいですよね。

実際に勉強したかどうかは別の話。「勉強していなくて」と言うだけで、セルフ・ハンディキャッピングは成立するのです。

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セルフ・ハンディキャッピングのデメリット

心が傷つくのを守ってくれるセルフ・ハンディキャッピングですが、じつは大きなデメリットをもたらします。伊藤教授によると、「採用したハンディキャップのために実際の遂行の成功確率が低下する」のだとか。

セルフ・ハンディキャッピングを行なう人は、目標の達成よりも「自我防衛」に意識が向いてしまっているそうです。たしかに、仕事や勉強で目標を達成したいと本気で思っているのなら、セルフ・ハンディキャッピング――特に遂行的セルフ・ハンディキャッピングをしている場合ではありませんよね。

また、セルフ・ハンディキャッピングを行なうと、周囲の人から悪印象を持たれてしまう恐れもあります。伊藤教授によると、セルフ・ハンディキャッピングを行なう主人公と行なわない主人公が登場するシナリオを被験者に読ませた実験では、セルフ・ハンディキャッピングを行なう主人公は読者から嫌われ、将来的に成功しないだろうという印象を持たれたそう。ほかの研究でも、セルフ・ハンディキャッピングを行なう人が「非好意的に認知される」という結果が出たそうです。

目標を達成しにくくなるうえ、周囲の人からの評価が下がってしまう……。セルフ・ハンディキャッピングのデメリットは、メリットに比べ、あまりにも大きいといえるでしょう。

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セルフ・ハンディキャッピングを克服する方法

セルフ・ハンディキャッピングはデメリットが大きいため、「やってしまっているかも」と気づいたら、すぐにでも改善したいところです。セルフ・ハンディキャッピングという「クセ」は、どうしたら克服できるのでしょうか?

伊藤教授の論文「セルフ・ハンディキャッピングの研究動向」では、セルフ・ハンディキャッピングを抑制する要因のひとつとして、「他者からの不承認の可能性」が挙げられています。「あまり勉強してなくて……」などのセルフ・ハンディキャッピングを行なうことで、ほかの人から否定的に評価される可能性が顕著な場合、セルフ・ハンディキャッピングは抑制されるのだそうです。

そのため、まずは「セルフ・ハンディキャッピングをすると嫌われるかも」ということを意識し、言い訳を口にしないよう心がけることから始めましょう。本当に「体調が悪い」「あまり寝ていない」などの理由でうまくいかないのであれば、生活リズムを整えて心身の調子を保つことが大切です。詳しくは「仕事が出来る人の特徴14選&仕事が出来る人になる方法4つ」をご覧ください。

同時に、セルフ・ハンディキャッピングをしてしまう原因に対策することも重要です。前述の“Self-Handicapping: The Paradox That Isn’t”によると、セルフ・ハンディキャッピング傾向の強い人は自尊心(self-esteem)が低いのだそう。

「ゆうメンタルクリニック」の創設者で精神科医のゆうきゆう氏によると、自尊心(自尊感情)とは「自分を認める気持ち」のこと。自尊心の低い人には、以下をはじめとする特徴があるそうです。

  • 周囲の人の言葉や態度を過剰に気にする。
  • やる前から「どうせ自分にはできない」と決めつける。
  • チャレンジを避ける。

周囲の反応が気になると、「あまりテスト勉強しなかったんだよね」のようなセルフ・ハンディキャッピングを行ない、「勉強したのに成績が悪かった」と笑われる状況を避けます。そして、失敗することで自己評価が下がってしまうと思い、難しいことへの挑戦を避けるのです。

セルフ・ハンディキャッピングのクセを改善するには、自尊心を高めるのがよさそうですね。どうすればよいのでしょうか?

心理療法士のデイビッド・ブローチャー博士は、自尊心を高める方法のひとつとして「自分の気持ちを尊重する」ことを挙げています。ポジティブなものだろうがネガティブなものだろうが、自分の心に生まれた感情を否定せず全て認めることが必要なのだそう。

自分の感情を認めるのにブローチャー博士が勧めるのが、ジャーナリング。頭に思い浮かんだことを脚色せず、何でも紙に書き出すという手法です。ジャーナリングには、ストレス軽減や血圧低下など、さまざまな効果が認められています。詳しくは「頭に浮かぶことを “紙に書く習慣” 始めませんか? 科学的に証明された『ジャーナリング』のすごさ。」をお読みください。

「言い訳を口にしないよう意識する」「ジャーナリングなどによって自尊心を高める」という2つが、セルフ・ハンディキャッピングを克服するには有効だといえます。

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仕事や勉強で不安があるからといって、セルフ・ハンディキャッピングをすると、本当に失敗してしまいかねません。それに、セルフ・ハンディキャッピング的な言動は、あまり格好いいとはいえないでしょう。ついついやってしまいがちなセルフ・ハンディキャッピングの危険性を意識しつつ、前向きな言葉を心がけてみませんか。

(参考)
Higgins, R., C. Snyder and S. Berglas (1990), Self-Handicapping: The Paradox That Isn’t, New York, Plenum Press.
J-STAGE|大学生のセルフ・ハンディキャッピングの2次元
東京大学学術機関リポジトリ|セルフ・ハンディキャッピングの研究動向
マイナビウーマン|自尊心が低い人の特徴って? 心療内科医が教える原因と対処法
Psychology Today|Four Ways to Improve Self-Esteem
StudyHacker|頭に浮かぶことを “紙に書く習慣” 始めませんか? 科学的に証明された「ジャーナリング」のすごさ。

【ライタープロフィール】
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