重要で骨が折れる仕事は、「早くやらなければ」と思いながらもつい後回しにしてしまいがちです。でも、そういった仕事もいつの間にか終わらせることができる方法があるのだそう。
そのテクニックである「アイスピック仕事術」を提唱するのは、建設会社の総務経理担当部長を務めながら、税理士、大学講師、専門学校講師、ビジネス書作家、時間管理コンサルタントなどとしても活躍する石川和男(いしかわ・かずお)さん。「アイスピック仕事術」と併せて、仕事の効率を上げるために石川さんが実践していることも教えてもらいました。
構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/石塚雅人
「好楽円」の仕事を優先するのはNG
なるべく効率的に仕事を進めるためには、よく言われることではありますが「緊急度」と「重要度」によって仕事に優先順位をつけることが大切です。つまり、「緊急かつ重要な仕事」「緊急だけど重要ではない仕事」「重要だけど緊急ではない仕事」「緊急でも重要でもない仕事」という具合です。
本来、出社後の午前中に取り組むべき仕事は、やっぱり「緊急かつ重要な仕事」です。そうではなくて、進めやすい仕事から手をつけるという人もいるでしょう。確かに、慣れていたり得意だったりする仕事はどんどん進められますから、次々に仕事をこなせます。多くの人がやりがちなことですが、はっきり言ってこれはNG。
有名なセミナー講師の箱田忠昭先生は、本人にとって進めやすい仕事を「好楽円(こうらくえん)の仕事」と呼んでいます。「好きで楽しくて円滑に進められる仕事」というわけです。でも、「緊急かつ重要な仕事」を放置したまま、「好楽円の仕事」から着手するとどうなるでしょうか。
仕事はどんどん進められているにもかかわらず、実際は優先度が高い仕事を後回しにしているのですから、どこか落ち着かない。つねにドキドキして不安にかられる。そういう経験がみなさんにもあるのではないですか? そうなると、集中力を削がれて、得意なはずの「好楽円の仕事」のクオリティーも下がってしまう。だからこそ、まずは「緊急かつ重要な仕事」からはじめることが鉄則なのです。
大きな仕事を細分化し「罪悪感」を利用する
仕事を進めるための具体的なテクニックについてもお伝えしておきましょう。なかなか手をつけにくい「緊急かつ重要な仕事」というのは、簡単にいえば骨が折れる仕事です。だからこそ、つい後回しにしたくなる。そういう大物の仕事に臨むときは、わたしが提唱する「アイスピック仕事術」を使ってみてください。
大きな氷も細かく砕けば空気に触れる表面積が増えて解けやすくなりますよね。仕事も同じです。手強いと感じる仕事も細かい作業に細分化すれば、意外に早く片づけられるものなのです。
経理担当者が決算という重要な仕事に臨むのなら、「去年の決算書のコピーを取る」「現金のチェックをする」「預金の残高を調べる」「受取手形記入帳の付け合せをする」というふうに、必要な作業を細かくノートに書き出します。そして、終わったところには赤で丸をつけてチェックする。終わらなかったものには、ちがう色で丸をつけ、翌日にやるべきこととして再び書き出します。
この作業を繰り返せば、なかなか本腰を入れて取り組めなかった作業にもきちんと臨むことになります。というのも、毎日のように「翌日にやるべきこと」に回していることがあると、「いい加減やらないといけないな……」という罪悪感が働くからです。
タスクを付箋に書き出してパソコンまわりに貼っている人もいるかと思います。でも、それだと罪悪感が芽生えない。「いつも見る風景」になってしまって、脳が慣れてしまうからです。もし付箋を使うのであれば、ノートの「翌日にやるべきこと」に書き出すのと同じように、付箋を貼る場所のルールを決めて貼り変えるべきですね。
人間は起床してから16時間後には酩酊状態に……
1日のはじめに「緊急かつ重要な仕事」に取り組んだ後は、「緊急だけど重要ではない仕事」「重要だけど緊急ではない仕事」をこなし、終業時間が近づく頃には「緊急でも重要でもない仕事」をすればいいという状況にしておくことが理想です。
というのも、当然ではありますが、人間の集中力は時間が経つにつれて失われるからです。厚労省の研究によると、人は起床して12時間後には集中力が切れ、16時間後には酩酊状態になるのだそう。つまり、朝6時に起きる人は、夕方6時には完全に集中力が切れ、夜10時には酔っ払い同然だということ。優先順位を間違ったために仕事を効率的にこなせず、夜遅くまで残業をすることになれば、それこそお酒を飲みながら仕事をしているのと同じ状態になっているのです。
そんな状態で残業すれば、仕事の効率はますます下がってミスも出る。そんな人間に高い残業代を支払わなければならないのですから、本人はもちろん、会社としても不幸なことです。そうならないためにも、闇雲に仕事に臨むのではなく、まず優先順位を考え、仕事を細分化して一つひとつこなしていく癖を身につけましょう。
ビジネスマンは年間150時間も「モノ」を探している
それから、作業環境を整理整頓しておくことも、仕事を効率化するためには大切なことです。それは、「モノを探す」という無駄な時間を省くため。大塚商会の調査によると、ビジネスマンは1年間に150時間もの時間を探しものに費やしているのだそうです。通勤日数が250日だとすると、1日のうち36分はモノを探しているという計算です。
その時間を減らすためには、筆記用具など、仕事に使う道具を整理しなければなりません。これは、仕事のチーム全体で取り組むべきことでしょう。同じチームに所属していても、その立ち場により使う筆記用具などは変わってきます。まず、メンバー各自が「毎日のように使うもの」「毎日ではないけど使うもの」「ほとんど使わないもの」に筆記用具を分類します。
そして、最も使用頻度が高い「毎日のように使うもの」は、すぐに取り出せるデスクの引き出しトレーにしまう。「毎日ではないけど使うもの」は、「5Sマット」といった商品名で販売されているものを使って整理します。これは、スポンジ素材のマットで、収納するものの形状に合わせて切り抜き、収納場所を決められるというものです。これを、「毎日のように使うもの」と同じ引き出しにセットする。
つまり、仕事に使う筆記用具などは、すべて同じ引き出しにしまうということです。そうすれば、「あれはどこにしまったかな?」なんて言いながら、デスクのすべての引き出しを引っかき回すこともなくなります。
そして、「ほとんど使わないもの」は、チームの共有のものとする。わたしの場合、はさみやホチキスなどはほとんど使いませんから、ごくたまに必要になったときは共有の物入れから取り出して使います。
一方、それらを頻繁に使う業務を担当しているメンバーは、当然、自分のデスクの引き出しにそれらを入れておきます。つまり、メンバー全員が各自の必要度に応じて道具を分類することで、それぞれの「モノを探す時間」を軽減するというわけです。
また、「モノを探す時間」を減らすという点では、パソコンの中身の整理も重要です。さまざまなフォルダやファイルでデスクトップが埋め尽くされているという人もいるでしょう。週に一度はそれらを整理し、必要なフォルダやファイルにスムーズにアクセスできるようにしておきたいところです。
わたしがおすすめしているのが、「保留フォルダ」をつくるということ。パソコンの中身を整理するには、不要なファイルを削除することも必要です。でも、「もういらない気もするけど、捨てていいのか迷う」というファイルもありますよね。そこで、ゴミ箱のそばに「保留フォルダ」をつくり、そういうものはどんどん放り込む。もし後からまた必要になれば、「保留フォルダ」から取り出せばいいのです。
【石川和男さん ほかのインタビュー記事はこちら】 通勤時間で「読書PDCA」を回せ。 部下を成長させるリーダーは会話で「どうしたら」を好んで使う。
【プロフィール】 石川和男(いしかわ・かずお) 1968年3月12日生まれ、北海道出身。建設会社の総務経理担当部長を務めながら、税理士、大学講師、専門学校講師、ビジネス書作家、時間管理コンサルタントなどさまざまな顔を持つスーパーサラリーマン。独学、通信、通学などさまざまな学習方法で資格試験勉強をした経験、資格試験講師を務めた経験から、独自の勉強法を確立。そのノウハウをまとめた『30代で人生を逆転させる1日30分勉強法』(CCCメディアハウス)がベストセラーとなる。勉強法の他、『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣』『仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』(ともに明日香出版社)など、ビジネススキル関連の著書も多い。
【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。