あなたは確固とした「自己肯定感」を持っていますか? 他人の視線や言葉が妙に気になったり、ちょっとした失敗で深く落ち込んでしまったりするようであれば、自己肯定感が低くなってしまっている可能性が大です。
自己肯定感とは、簡単に言うと、自分の存在を肯定的に受け止められる感覚のこと。自己肯定感が高いと感情が安定し、人生で起きるさまざまなことをポジティブにとらえられます。反対に、自己肯定感の低い人は「自分なんてダメだ」という感覚にとらわれ、ネガティブになりがちです。
よく言われるように、私たち日本人は諸外国の人に比べ、自己肯定感が低い傾向にあります。内閣府は2014年、日本・韓国・米国・英国・ドイツ・フランス・スウェーデンの国際比較結果を公表。自己肯定感の高さを問うどのアンケート項目においても、日本は最下位でした。「自分自身に満足しているか?」という質問だと、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と答えた割合は、ほかの国は70%を超えていた一方、日本はたったの45.8%だったのです。
自己肯定感が低下しがちな私たちだからこそ、なぜ自己肯定感が低くなってしまうのかを理解し、自己肯定感を高めるメリットや方法を詳しく学んでおきましょう。自己肯定感と「自信」や「自尊感情」との違いもわかりやすく説明します。
自己肯定感とは
一般社団法人・日本セルフエスティーム普及協会(※)理事の工藤紀子氏によると、自己肯定感とは「ありのままの自分を受け入れ、尊重する感覚」という意味(※企業や教育機関向けに、自己肯定感を高める研修などを行なう団体。セルフエスティームは英語で「自己肯定感」)。「ありのままの自分」を認めるとは、悪い状況に置かれたり不運に見舞われたりしても、「それでもなお、自分には価値がある」と思えることです。
たとえば、仕事で大きなミスをしたとき、自己肯定感が低いと「自分はなんてダメなんだ……」と深く落ち込んでしまうかもしれません。しかし、自己肯定感が高ければ、「誰でもミスくらいするものさ。次から気をつけよう」と、すぐに立ち直れます。
簡単に言えば、そのときどきの状況にかかわらず「無条件で」自分を認める感情こそが、自己肯定感なのです。いわば、自己肯定感は、自分の心を守ってくれる家屋のようなもの。外でいくら雨風が吹き荒れていても、家屋が頑丈なら、部屋のなかまで水浸しになることはありません。
反対に、他者との比較を根拠にした「条件つき」の自信は、真の自己肯定感とは呼びません。屋根や壁のないテラス席のようなもので、晴れているときは爽快ですが、雨が降ったら大ダメージを受けてしまいます。「自分は他人より金持ちだ。だから自分には価値がある」と考えている人が貧乏になったら、自信はもろくも崩れ去ってしまうでしょう。
他者との比較に基づく自信ではなく、自分を無条件に肯定できる「真の自己肯定感」を培うことで、メンタルの安定感が増し、いかなる状況でも動揺しにくくなるのです。
自己肯定感がないと……
工藤氏によると、自己肯定感が低い人は、以下のようなデメリットを被ってしまう恐れがあるのだそう。
本来の能力を発揮できなくなる
自己肯定感が低くなると、自分自身に対して信頼や期待を抱けず、本来の力を十分に発揮できなくなってしまうことがあります。
たとえば、新しい仕事を任されたとき、自己肯定感が低すぎると「自分なんかに務まるわけがない」「失敗したらどうしよう」などとネガティブに考えるので、ちょっとしたミスでくじけてしまったり、大事な場面で萎縮したりしやすくなるのです。
反対に、自己肯定感が高い人は、むしろ「新しいチャレンジができてワクワクする」「成長できるチャンスだ」と前向きに考えられるため、困難に負けず、目標達成できる可能性が高くなります。
精神的に不安定になる
自己肯定感が低い人は、周囲からの評価やそのときどきの状況に一喜一憂してしまいます。その結果、感情の浮き沈みが激しくなり、常に周囲の目に怯えながら行動することになるのです。
しかし、自己肯定感が強い人は、状況や他者の評価に振り回されず、常に平常心を保てます。結果として、仕事のパフォーマンスが安定したり幸せを感じやすくなったりするだけでなく、他者への寛容さ(他者肯定感)が高まり、人間関係においてもいい影響が生まれるはずです。
自分のよさに気づけなくなる
自己肯定感が低いと、他者と比べて劣っている点ばかりに目が行ってしまいます。そのため、ますます「自分なんか……」という感情に支配されやすくなってしまうのです。
しかし、全面的に自己肯定する意識をもって自分自身と向き合えば、自分の個性や長所に気づけるはず。果たすべき役割は何か、どんな能力を磨いていけばいいのか、といった展望も開けてくるでしょう。
自己肯定感を高めると、自分の資質や能力を正しく評価することもできるのです。
自己肯定感の類語
ところで、自己肯定感の類語に「自信」や「自尊心」がありますが、どう異なるのでしょうか? 自己肯定感と混同されがちな4つの言葉について、ニュアンスや使い方の違いを確認しておきましょう。
自信
日常生活でもよく使われる「自信」。『大辞林 第三版』は、自信を「自分の才能・価値を信ずること」と定義しています。つまり、自己肯定感が「根拠の有無にかかわらず」自分を肯定する感覚であるのに対し、自信は「自分の能力やステータスなどを根拠に」したもの、と区別されることがあるのです。
自信という言葉が使われるときは、「頑張って勉強したから今回のテストには自信がある」「成功体験によって自信を得た」など、自信の下敷きに何かしらの根拠があることがほとんどではないでしょうか。また、「根拠のない自信」という言い回しにも、「自信には根拠があるものだ」という前提を読み取れます。
自尊心
『最新心理学事典』は、自尊心を「自分を優秀な者だと思う気持ち」「プライド」と定義しています。能力やステータスを根拠にしているという点で、自己肯定感とは異なるものです。
特に「優越性」や「品位」などの承認欲求をベースにしている点で、自尊心は「自信」とも少し異なります。自尊心が高すぎると「プライドの高い人」「鼻につく人」と思われてしまう恐れがあるので、注意が必要です。
とはいえ、自尊心=自己肯定感(self-esteem)としている論文もあるため、「自尊心」の解釈にはゆらぎがあるといえるでしょう。
自己効力感
自己効力感とは、自分の目標達成能力に対する信頼感のこと。英語ではself-efficacy(※読み方は「セルフ・エフィカシー」)といい、自己肯定感とは区別されている言葉です。
たとえば、大きな仕事を任されたときに「自分ならきっとできる!」と思える人は、高い自己効力感をもっているといえます。自己効力感とは、「自分は何かを成し遂げる力(効力)をもっている」と信じられる感覚なのです。
自己効力感・自己肯定感ともに「自分を無条件に信じる感覚」である点では共通しています。しかし、自己効力感は目標達成能力のみに関係している一方、自己肯定感は自分の全面的な価値への肯定感情である点で、異なるものです。
自己有用感
文部科学省・国立教育政策研究所の資料によると、自己有用感とは「自分は他人の役に立てる(有用な)人間である」という感覚。「仕事でチームに貢献できて嬉しかった」「上司に感謝してもらえたので嬉しかった」などの感情が、自己有用感です。
自己有用感は、「他者からの評価」を条件に自分を認めている点で、自己肯定感とニュアンスが異なります。繰り返しになりますが、自己肯定感は「無条件で」自分の価値を認める感情だからです。
自己肯定感診断
自分はどの程度の自己肯定感をもっているのか測定する尺度として、心理カウンセラーの中島輝氏が紹介する「自己肯定感チェックシート」というテストをご紹介しましょう。以下12のチェックリストについて、当てはまる場合は○を、当てはまらない場合は×をつけてみてください。
- 朝、鏡を見たときに、自分の顔や身体の嫌な部分を探してしまう
- SNSで「いいね」がつくのを待ってしまう
- ちょっと注意されただけで深く落ち込み、立ち直るまで時間がかかる
- 自分のペースを乱されるとイラッとする
- ついネガティブな言葉がこぼれる(「つらい」「疲れた」「無理」など)
- 「~べき」という考えにとらわれ、行動に踏み出せないことがある
- 人から言われたなにげないひとことにこだわってしまう
- まわりの目を気にして、行動を躊躇してしまうことがある
- 出かける前、服選びに迷う
- 一度決めたことについて「本当にこれでいいのか?」と悩むことがある
- 「どうせ」「自分ができるわけない」と思い、新しいチャレンジができない
- 電車やエレベーターから降りるとき、ノロノロしている人がいるといら立つ
○の数が多い人ほど自己肯定感が低いと考えられます。○が10個以上ついたら「自己肯定感が低い」、10個未満なら「自己肯定感が高い」とおおむね判断できるでしょう。
自己肯定感が低い原因
そもそも、自己肯定感が低い原因は何なのでしょうか? 中島氏は、根本的な原因を2つ挙げています。
失敗経験
自己肯定感が低い理由として考えられるのが、過去の失敗です。失敗の経験がトラウマになってしまうため、完璧主義な人ほど「自分はダメな人間だ」「自分なんかにできるわけない」というネガティブな感情が育つことがあります。
比較相手の出現
劣等感を覚えてしまうような比較対象の存在も、自己肯定感の低さにつながってしまいます。特に、大人になって社会に出ると、社会的ステータスや年収、仕事の出来不出来、パートナーの有無など、さまざまなことで比較される機会が増えるため、学生の頃より自己肯定感が下がってしまう方も少なくないかもしれません。
自己肯定感を高める方法
傷ついてしまった自己肯定感を回復する方法として有効なのが、「文章を書く」という方法です。自己肯定感を高める効果があるノートテクニックとして、「エクスプレッシブ・ライティング」「できたことノート」「WISHリスト」という3つを紹介しましょう。
エクスプレッシブ・ライティング
「エクスプレッシブ・ライティング」とは、自分が抱えているネガティブな感情などを紙に書き出す方法。メンタリストDaiGo氏によると、紙に書き出すことで自分のネガティブ感情を認められ、メンタルが動揺しにくくなるのだそうです。
DaiGo氏によると、エクスプレッシブ・ライティングのポイントは以下のとおり。
1. 自分の感情を書き出す
エクスプレッシブ・ライティングは、一日の終わりに行ないます。その日の出来事を思い出しつつ、感情を素直に書き出してください。胸のなかにためていたものが吐き出され、気分がスッキリするはず。ネガティブな感情が生じた原因やシチュエーションを詳細に書くほど、効果が高まるそうです。
20分ほどかけてじっくりやるのが理想ですが、長いと感じる方は5分程度から始め、徐々に時間を増やしていきましょう。
2. しばらく経ってから見直す
書き出した内容は、あとから見直しましょう。「こんな小さなことでクヨクヨしていたのか」「あのときはつらかったけど、立ち直ることができたな」など、客観的に自分を見つめられます。振り返りのため、エクスプレッシブ・ライティングの際には必ず日付を添えておきましょう。
3. 交換日記にするのもOK
専用のノートを作り、恋人や配偶者といったパートナーと交換日記形式でエクスプレッシブ・ライティングをすることもできます。素直な感情を見せ合うことで、親密度が高まるほか、口頭では伝えにくい感情・出来事も打ち明けられます。
できたことノート
人材育成サービスを提供する株式会社ネットマン代表・永谷研一氏は、「できたことノート」という方法を推奨しています。
できたことノートとは、「その日できたこと」を記録するものです。自分のポジティブな側面を発見することで自己肯定感が高まるほか、自分の本当の望みや価値観を明確にするのにも役立ちます。
できたことノートに書く項目は、以下の4点です。
1. 詳しい事実
その日「できたこと」や「よかったこと」を具体的に記述しましょう。時間や場所、状況をなるべく詳しく書いてください。
定時になったので帰り支度をしていたら、部長に「今日のプレゼンはよかった」とほめてもらえた。近くにいたA先輩も同意してくれた。
2. 原因の分析
書き出した「よかったこと」はなぜ起きたのか、成功要因を分析しましょう。
プレゼン術に関する本を読み込んで、入念に準備したから。
3. 本音の感情
「よかったこと」が起きたときに感じたことや、ノートに書き出しながら思いついたことを率直に書きます。
努力が報われた感じがしてとても嬉しかった。いま振り返っても、練習の成果を落ち着いて発揮できた、いいプレゼンだったと思う。
4. 次の行動
最後に、「もっとこうすればよかった」「次はこうしたい」など、明日からの行動や活動につながる意気込み・反省点を書き出しましょう。
スライドの表現が悪く、説明しづらい箇所があった。次からは、レイアウトやデータの見せ方にもこだわって準備をしたい。
以上の4項目を書き出すことを習慣にすれば、ポジティブな出来事を自分の糧にでき、自己肯定感を上げることができます。スマートフォンで使えるアプリケーション「Myできたこと日記」もあるので、自己肯定感を高めたい方はぜひ利用してみてください。
WISHリスト
前出の中島氏が自己肯定感の上げ方として紹介しているのは、「WISHリスト」というワークです。WISHリストとは、自分の願い(WISH)をノートや手帳に書き出していくもの。WISHリストを通じて未来の楽しみをイメージすると、そのイメージを実現したいという心理が働き、やる気・意欲が自然と向上していくのだそうです。
- 家電メーカーに転職したい
- 広い家に引っ越したい
- 家庭菜園にチャレンジしたい
- ピアノを弾けるようになりたい
- 北欧で暮らしてみたい
……
WISHリストを書く際のポイントは、「時間を決めて、なるべく多くの願いを書く」こと。無理にでも書き出すことで、忘れてしまっていた昔の夢や、普段なら思いつきもしないような願望もアウトプットできるのです。中島氏は、ひとつの目安として「20分で100個」を推奨しています。ゲーム感覚でもいいので、ぜひトライしてみましょう。
いきなり100個は難しくても、定期的にWISHリストを書いてみることで、胸に秘めている願望が少しずつ可視化されていくはず。書いたWISHリストを毎日見返すことで、自己肯定感を育てることができます。
ライフコーチで能力開発に詳しいマーク・レクラウ氏によると、「私は成功して幸せな人生を送る」「私は優れた能力をもっている」など、なりたい自分のイメージを繰り返し心のなかで唱えることで、ポジティブなイメージが潜在意識に刷り込まれ、自己肯定感が高まっていくのだそうです。この「ポジティブな言葉を繰り返すことで、自分に刷り込む」方法は、アファメーションと呼ばれています。
未来への希望や目標がなく、自己肯定感が持てない状態にある方は、WISHリストやアファメーションをぜひ試してみてください。
自己肯定感を高めるおすすめ本
自己肯定感の概要や高め方についてさらに深く学びたい方のために、オススメの本を3冊ご紹介します。
『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』
まずご紹介するのは、本記事で何度か登場した心理カウンセラー・中島輝氏の『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』。30年間に渡るカウンセリング・コーチングの経験と、自身も精神疾患に苦しんだ経験をもとに、自己肯定感を高める具体的なトレーニング方法が紹介されている書籍です。一般向けにわかりやすく書かれているため、心理学の予備知識がなくても、すぐ実践できますよ。
『敏感すぎるあなたが7日間で自己肯定感をあげる方法』
2冊目は、心理カウンセラー・根本裕幸氏による『敏感すぎるあなたが7日間で自己肯定感をあげる方法』。他人の目や周囲の物事に対し「敏感すぎる」人に向けられた本です。本書の大きな魅力は、たった7日間で完結するという手軽なプログラム。短期間で自己肯定感を回復する方法が知りたい方は、ぜひ手にとってみてください。
『「自己肯定感」が低いあなたが、すぐ変わる方法』
3冊目は、カウンセラーの大嶋信頼氏による著書。文章が平易で、かわいいイラストが添えられているため、誰でも読みやすいつくりです。25年以上に渡るカウンセリング経験をもとに、「責任感を捨てる」「目を閉じて自己イメージをする」など、自己肯定感を上げる方法が豊富に紹介されています。
***
自己肯定感は、メンタルを強く保つのに不可欠な要素。「自分なんか……」という後ろ向きな思考に陥りがちな方は、今回ご紹介したノート術や書籍を、ぜひ参考にしてみてください。
(参考)
内閣府|特集 今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの~
国立教育政策研究所|「自尊感情」? それとも、「自己有用感」?
コトバンク|自信
コトバンク|自尊心
東洋大学|大学生の自尊心と関連する諸要因に関する研究
プレシャス|話題の「自己肯定感」、私は低い?高い?チェックシートで確認!
PRESIDENT WOMAN|知らぬ間に自己肯定感を下げるヤバい行動2つ
PRESIDENT WOMAN|なぜ願いを100個書くと自己肯定感が高まるか
東洋経済オンライン|「感情を紙に書く」習慣でストレスは減らせる
東洋経済オンライン|自己肯定感を高めるための具体的な5ステップ
NIKKEI STYLE|自己肯定感でキャリア充実 評価の物差しは自分で作る
SHINGA FARM|「自己肯定感」と「自信」は違う!子どもの自己肯定感を育む親の関わり方
Google Play|Myできたこと日記
マーク・レクラウ 著, 弓場隆 訳(2018),『自己肯定感を高めて心を軽くする方法』, かんき出版.
永谷研一(2016),『1日5分 「よい習慣」を無理なく身につける できたことノート』, クロスメディア・パブリッシング.
中島輝(2019),『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』, SBクリエイティブ.
根本裕幸(2017),『敏感すぎるあなたが7日間で自己肯定感をあげる方法』, あさ出版.
大嶋信頼(2018),『「自己肯定感」が低いあなたが、すぐ変わる方法』, PHP研究所.
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。