脳波が鍛えられる!? 「ニューロフィードバック」とは【脳科学で考える未来学習#2】

「出利葉拓也・脳科学で考える未来学習」脳波が鍛えられる!? 「ニューロフィードバック」とは

小さなころから大人になるまで、誰しも一度は「なぜあの人はあんなに物事を覚えられるのだろう?」「頭がいい人とそうでない人の違いってなんだろう」と思ったことがあるでしょう。

脳科学という観点から、そんな疑問に挑むのが慶應義塾大学助教授の出利葉拓也さん。どうすれば効率よく勉強できるのか? 脳を鍛えられるのか? という、学習についての研究に情熱を注いでいます。

「新進気鋭の若手脳科学者・出利葉さんが考える未来学習」の連載をお送りします。

【ライタープロフィール】
出利葉 拓也(いでりは・たくや)
慶應義塾大学助教授・博士課程在学中。牛山潤一研究室所属。自身の学生時代の経験から、脳科学に興味をもち、大学ではヒト脳波を題材にワーキングメモリ、記憶、学習についての研究を行なっている。学部・修士時代からニューロテック事業に携わる。

脳を鍛える方法

目の前の仕事に集中できない、昨日やったはずの勉強内容をすぐに忘れてしまう、そういった経験は誰しもあるでしょう。

集中できない、ものごとを忘れてしまうといったことがなぜ起こるのかといえば、それは脳がうまく機能していないからだといえます。

たとえば、認知機能の正常なはたらきには「アルファ波」と呼ばれる脳活動が重要であることが知られています。(参考:Başar E, Güntekin B.(2012), A short review of alpha activity in cognitive processes and in cognitive impairment. Int J Psychophysiol., 86(1):25-38.

実際、ものごとを短期的に覚えておくときや、注意力を維持するときにはアルファ波が強く現れます(実験課題の内容や計測する脳領域によってことなりますが、詳細は割愛します)。

そうなると、アルファ波を鍛えることができれば認知機能が向上するのだろうか、と思いますよね。しかしそんなことが可能なのでしょうか。もし可能なら、脳を鍛えることで集中力を高め、記憶力を高め、ストレス耐性を高めることができるかもしれません。

実は、そんな夢のような技術が存在するのです。それが「ニューロフィードバック」とよばれる技術です。

その具体的な方法や可能性についてご紹介します。

考えている男性

ニューロフィードバックの具体的方法

例として、アルファ波をニューロフィードバックで鍛える方法を紹介していきましょう。

この方法ではまず、脳波を測ることが必要です。頭に脳波計を装着し、脳波(ここではアルファ波)を計測します。

そして、計測されたアルファ波の強さを画面に表示します。わかりやすいように、アルファ波が強いときには画面を赤く表示し、弱いときには画面を黒く表示します。

これによってアルファ波の強さを「フィードバック」するのです。そうすると、自分のアルファ波の強さをリアルタイムで確認できるようになります。

「このような感覚のときには画面が赤くなるから、アルファ波が強いんだな」「逆に、こういう感覚のときは画面が黒くなるから、アルファ波が弱いんだな」といった感覚が把握できるようになります。

私自身も以前にこのようなニューロフィードバックをやったことがあります。そのときは「全身の力が脱力し、手足が温かくなるような感覚」を意識すると、アルファ波が強くなることがわかりました。

これを繰り返していくと、だんだんと「アルファ波を強くするコツ」がつかめてきます。この状態はまさに、「アルファ波が鍛えられた」状態だといえます。

脳波をみることは普通できませんが、こんな簡単な方法によって可視化でき、脳波を改善することができるのです。

それはちょうど、定期テストを受けながら勉強をしていくことに似ています。

勉強でも、テストを受けずにひたすらやっていると、自分が正しく勉強できているのかわかりませんよね。しかし、テストを受けることで自分のやり方が正しいか間違っているかがわかります。

それと同じで、脳波もひたすらフィードバックを受けることで、簡単に変化させることができるのです。

脳のフィードバックのイメージ画像

ニューロフィードバックの科学的検証

そうなると気になるのは、そのような訓練によって本当に認知機能が向上するのかではないでしょうか。

その疑問を解消するために、実際の論文をいくつかピックアップして紹介しましょう。

アルファ波を鍛えてワーキングメモリが改善

2024年4月に発表された最新の研究です。

20名の健常者がアルファ波を鍛えるニューロフィードバックをしたところ、視覚的ワーキングメモリ(視覚情報を短期的に覚えておく、またそれを使用する認知機能)が向上したという結果が報告されました。(参考:Zhou, W., Nan, W., Xiong, K. et al.(2024), Alpha neurofeedback training improves visual working memory in healthy individuals, npj Sci. Learn. 9, 32.)

これは仕事や勉強で欠かせない能力なので、とても興味深い報告ではないでしょうか。

暗記後にシータ波を増やして記憶が定着

こちらは2017年に報告された研究です。

単語テストのように30個の単語リストを暗記した後に、シータ波を増加させるニューロフィードバックを実施しました。シータ波は、記憶を定着させるのに重要と考えられている脳波のひとつです。そのため、このニューロフィードバックによって暗記した単語の定着が促進されることが期待されます。

その結果、ニューロフィードバックをしなかったグループは暗記の一週間後に60%程度の正答率だったのに対し、ニューロフィードバックをしたグループは一週間後でも約90%もの正答率でした。(参考:Rozengurt R, Shtoots L, Sheriff A, Sadka O, Levy DA.(2017), Enhancing early consolidation of human episodic memory by theta EEG neurofeedback, Neurobiol Learn Mem, 145:165-171.)

ニューロフィードバックは、勉強の一夜漬けなどにも有効なのかもしれません。

このように、ニューロフィードバックには認知機能を高める効果があるということが多くの研究で示されつつあります。また、その効果は集中力から記憶力、発達障害の改善まで幅広いようです。

単語テストの暗記カード

ニューロフィードバックの注意点

ただし、ここでひとつ注意してほしいことがあります。

それは、ニューロフィードバックには効果がない、という結果を報告する研究も少なくないということです。

例えば2017年にLancet Psychiatryという非常に権威のある学術誌に報告された研究があります。この研究では厳密な手法でニューロフィードバックの効果を検証しました。

その結果、もっとも多くの研究対象とされてきた手法のニューロフィードバックには、注意力を改善する効果は特段みられなかったと報告しています。(参考:Schönenberg M, Wiedemann E, Schneidt A, Scheeff J, Logemann A, Keune PM, Hautzinger M.(2017), Neurofeedback, sham neurofeedback, and cognitive-behavioural group therapy in adults with attention-deficit hyperactivity disorder: a triple-blind, randomised, controlled trial, Lancet Psychiatry:673-684.)

このように、ニューロフィードバックに本当に効果があるのかどうかは未知数です。

それに加えて、一口にニューロフィードバックと言ってもさまざまな手法があります。そのため、どの手法がもっとも効果的なのかという点も今後検証されなければなりません。

ニューロフィードバックを体験してみたい方へ

ここまで読んで、ニューロフィードバックの可能性と注意点について理解していただけたでしょうか。まだわからないことが多いとはいえ、ニューロフィードバックを実際にやってみたいという方もいるかもしれません。

実はすでに、ニューロフィードバックを体感できる方法があります。そのひとつがMuseと呼ばれるデバイスです。これは公式オンラインストアで約400ドルで購入できる小型の脳波計測デバイスです。(参考:muse|Muse S

ヘッドバンド型をしていて、見た目にも脳波計とは思えないスタイリッシュなデザインになっています。この脳波計を装着しながら「瞑想」をすることで、瞑想効果を高める効果を謳っています。

瞑想には集中力や感情制御能力を改善する効果が報告されているので、学習者やビジネスマンにおすすめです。

その効果はまだまだ未知数ですが、市場に出回っている製品の中ではしっかりしている印象があり、ユーザー数も多いのが特徴です。とはいえ、このようなデバイスを購入しても脳波の見方や効果が分かりづらく、続けにくいというのも現状としてあると思います。

そこで私は、実際に研究室でニューロフィードバックを体験して、現役の研究者が脳波を解説するというサービスを開発しています。近いうちにリリースを目指しているので、応援していただけると幸いです。

出利葉拓也連載バナー

(参考)

Başar E, Güntekin B.(2012), A short review of alpha activity in cognitive processes and in cognitive impairment. Int J Psychophysiol., 86(1):25-38.
Zhou, W., Nan, W., Xiong, K. et al.(2024), Alpha neurofeedback training improves visual working memory in healthy individuals, npj Sci. Learn. 9, 32 .
Rozengurt R, Shtoots L, Sheriff A, Sadka O, Levy DA.(2017), Enhancing early consolidation of human episodic memory by theta EEG neurofeedback, Neurobiol Learn Mem, 145:165-171.
Schönenberg M, Wiedemann E, Schneidt A, Scheeff J, Logemann A, Keune PM, Hautzinger M.(2017), Neurofeedback, sham neurofeedback, and cognitive-behavioural group therapy in adults with attention-deficit hyperactivity disorder: a triple-blind, randomised, controlled trial, Lancet Psychiatry:673-684.
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