「本を読むだけじゃダメ。仕事に活かしてこそ読書だ」——読書に関して、耳が痛くなるような上司や同僚からの指摘。でも、「具体的にどうすれば、仕事に活かせるのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?
ヒントは、自分の言葉に置き換えて理解すること。今回の記事では、本の内容を仕事に活かすための、フランスの要約トレーニングをご紹介します。筆者の実践も交えながら解説しますので、ぜひご一読ください。
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。
- 本の内容を活かせないのは「自分の言葉でまとめられない」から
- 本の内容を活かすためには「説明できるように要約する」
- フランスの要約トレーニング「コント・ランデュ」とは?
- コント・ランデュを仕事用の読書に活かしてみた
- コント・ランデュを使えば、理解力と記憶定着力が高まる!
本の内容を活かせないのは「自分の言葉でまとめられない」から
その場では本の内容を理解したつもりでも、いざ仕事になれば記憶から引き出せない……。知識が血肉とならないのは、“自分のなかで言語化する” 行為が足りていないからという可能性があります。
筆者は学生時代、印象に残った文学作品の一節をノートに書き留める習慣がありました。ところが、友人に本の感想を聞かれても答えられないことがしばしば。振り返ってみれば、引用をノートに写してはいても、小説の内容を自分の言葉で表現していなかったのです。
読書からインスピレーションを受けても、仕事に活かせないのは “自分の言葉でまとめていないから” では?——と、筆者が着目したきっかけは、書籍の執筆のみならずnoteやVoicyで発信し、多くのアウトプットをしている経営コンサルタント兼著作家の山口周氏の言葉でした。
やはり1回、自分の中でちゃんと言葉にすることをやらないと、掴めないんですよね。「わかったつもりになってるだけ」のことが多いと思うんです。
(引用元:logmiBiz|山口周氏が解説する「どんな本を読めばいいのか?」“自分にとっての良い本”と出会うためのアドバイス)
続けて同氏は「読書は数学と同じ感覚」だと語ります。(カギカッコ内引用元:同上)たしかに、数学では単語の暗記作業のように、答えのみを覚えても意味がありませんよね。結論までの道のりを示す “ロジック” が必要です。
本の中で述べられているロジックをしっかりと理解し、さらに自分のことばに置き直すことで、「わかったつもり」を脱することができるるのです。
本の内容を活かすためには「説明できるように要約する」
“自分のなかで言語化する” と言っても、方法は多岐にわたります。なかでも、最もオーソドックスかつ効果的な方法のひとつが「要約」です。
ただし、要約する際には、効果を最大限に引き出すために意識するべきことがあるのだそう。オランダの教育心理学の専門家、ポール・キルシュナー博士らによれば、生産的な学習戦略としての要約は、次の意味があると語ります。
- 情報源(本の内容)から、重要なポイントを抜き出す
- 抜き出した部分を自分の言葉で言い換える
キルシュナー博士らは続けて、要約するときの認知プロセスには下記の段階がある、と説明。
- 情報源(本の内容)から、重要なメッセージを選ぶ
例)「EQとは心の知能指数のこと。他者に共感する能力のほか、感情を自制しコントロールする力も含む」 - 新しく学ぶテーマと、抜き出したポイントのつながりを考える
例)「リーダーシップに必要なEQとは?→共感・感情をコントロールする力」 - 既存の知識とポイントを結びつけ、理解に落とし込む
例)「部下の育成が得意な上司は、叱るのではなくコミュニケーションで解決していた」 - 内容を自分の言葉で言い換えるために、編集をする
例)「EQとは感情の扱いが上手な能力」
「抜き出す→関連づけ→結びつけ→言い換え」の順を通れば、深い理解につながるとのこと。つまり、思考をまんべんなく使えば、能動的な学習に変わるわけですね。
(参考元:3-STAR LEARNING EXPERIENCES|LET’S GET TO WORK WITH PRODUCTIVE LEARNING STRATEGIES: SUMMARISING 具体例は筆者によるもの)
フランスの要約トレーニング「コント・ランデュ」とは?
「要約」の重要性はわかったものの、従来の要約では効果が実感できない人もいるかもしれません。そこで、フランスの学生が練習する要約方法「コント・ランデュ」が参考になるでしょう。
明治大学名誉教授でありフランス文学者の鹿島茂氏は、コント・ランデュを次のように紹介しています。
1つは、本に書かれている文章をそのまま引用する。もう1つはcompte-rendu(コント・ランデュ)と言って、本に使われている言葉を一言も使わずに、引用箇所の内容を自分の言葉で言い換える。この2種類の引用方法を、フランスの学生は徹底的に練習するのです。
(引用元:HITACHI Inspire the Next|対談 楠木建×鹿島茂 読書と思考―その2 メモの取り方)
つまり、「引用」と「(極力使われている言葉を使わず)自分の言葉で言い換える」、このふたつの方法でフランスの学生は、要約のトレーニングをするのです。
鹿島氏が述べた「本に使われている言葉を一言も使わず」要約するとは、きわめて高度なスキルですね。コント・ランデュの特徴は、そのまま暗記せず、これまでの知識と照らし合わせ、徹底的に自分の言葉にして理解する能動性と言えるのではないでしょうか。
コント・ランデュを仕事用の読書に活かしてみた
コント・ランデュ初心者には難しそう……と感じた筆者は、実践するにあたり「本で使われている言葉は ”最小限に留め”、自分の言葉に言い換える」と、ルールを少しだけ緩めて試してみましたよ。
今回使用した本は、『非認知能力』(北大路書房)。ビジネスおよび学びに関する能力として注目されている「非認知能力」を深く理解すれば、記事の質も上がると考え、選びました。
要約をするため、付箋は色別に使い分けました。引用部分はピンク色、引用の要約に役立つ情報に関しては青色を貼ります。付箋の貼り方も「縦→付箋が指している文章」「横→ページ丸ごと参考」と区別しました。
ノートの構成は、引用と要約の比較が見やすいように2分割に決めました。引用部分は左、要約に関しては右の欄に記入します。
本からの引用を写し……内容を自分の言葉でまとめます。すべて引用すると長くなるため、引用文の多いところは(中略)を使って、書く手間を省きました。
(引用元: 小塩真司(2021),『非認知能力 』, 北大路書房.)
要約の例として、下の画像では「グリット」の特徴を “粘り強い努力” だけでなく、“その人のパーソナリティが関わってくる” とまとめました。これは、引用元の「グリットが才能とは異なる概念で卓越した成果を予測する」という文を、自分なりに解釈したもの。「才能とは異なる概念」であるなら、努力のほかに「努力できる性格」も関連してくるはず……、と自分の納得いく言葉に変えて書きました。
コント・ランデュを実践し終わり——。
自分の言葉でまとめるとともに、本の内容の概観がつかめてきましたよ。
コント・ランデュを使えば、理解力と記憶定着力が高まる!
正直に言えば、引用と要約をセットで行なうのは簡単にはいきませんでした。でも、実践するうえでこのメソッドの大きな利点を感じました。
引用の言葉を最小限に留めて言い換えることは、これまでの経験や知識にしか頼れないもの。つまり、コント・ランデュを活用するためには、自分に引きつけてまとめる必要があります。文意を歪める可能性もありますが、難しい概念を自分の理解できるレベルまで落とすため、覚えていられるのです。
実践し終えると、いままで曖昧だった心理学の概念が「自分ごと」としてとらえられ、腹落ちする実感が得られましたよ。これなら、マインドセットや幸福度を上げる方法のヒントとして記事に活かせそうです。この要約トレーニングに慣れていけば、普段の読書でも読みながら理解できる知識に変換するクセがつくでしょう。
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本の内容を仕事に活かすためには、内容と自分を結びつけることが大切です。知識が血肉となれば、自由自在に引き出し、仕事に当てはめて考えることができるでしょう。
logmiBiz|山口周氏が解説する「どんな本を読めばいいのか?」“自分にとっての良い本”と出会うためのアドバイス
3-STAR LEARNING EXPERIENCES|LET’S GET TO WORK WITH PRODUCTIVE LEARNING STRATEGIES: SUMMARISING
HITACHI Inspire the Next|対談 楠木建×鹿島茂 読書と思考―その2 メモの取り方
小塩真司(2021), 『非認知能力』, 北大路書房.